好葉ちゃん関連
このはセラピー
「アニマルセラピーってあるじゃん」
「うん」
「あれがあるなら、好葉セラピーがあってもいいと思わねぇか?」
急に素っ頓狂なことを言い出した井吹に、好葉はきょとんとする。アニマルセラピーが何なのかは知っているが、それと自分を一緒にされる意味が分からない。
「あの……うち、ワンちゃんとかネコちゃんじゃないよ……?」
「それは分かってる」
むすっとした顔になる井吹に、ますます訳が分からなくなる。彼は一体何を考えているのだろうか。その真意を読み取ろうとじっと見つめていると、不意に視線が交わった。
菖蒲色のそれの中に、微かに宿る熱。
「っ」
壊れ物に触れるかのような手つきで、井吹の指先が頬に触れる。繊細なガラス細工でも扱うような触れ方に戸惑いながら、その手を甘受するしかなかった。
井吹は度々こうやって好葉に触れたがった。最初はお兄ちゃんが下の子を構いたがるみたいな、そんな感覚だったと思う。けれど、日に日に井吹が触れる時間は増えていった。まるで何かを確かめるように、そっと頬や手を撫でる。その手つきはあまりにも優しいから、好葉はどうしたらいいのか分からなくなるのだ。
「い、いぶきくん」
「ん?」
「……その、うちそんな動物みたいに可愛いわけじゃないし、触ってても癒されるようなことはないと思、」
「ある」
食い気味に否定され、思わず言葉を飲む。井吹は真剣な表情でこちらを見つめていた。その眼差しに射貫かれて、身動きが取れなくなってしまう。
「癒されてるよ、俺は」
これ以上ないくらい真摯な声音だった。はっきりと断言されるその言葉に、じわじわと顔に熱が集まってくるのが分かる。何か言葉を返さなきゃいけないのに、上手く声が出せなくてもどかしい。
ぎゅっと目蓋を閉じて俯くと、井吹がふっと笑う気配がした。
「好葉」
すりっと指の腹で頬骨を擦られて、ぴくりと肩が跳ねる。井吹はそれきり何も言わなかった。ただじっと動かず、好葉の出方を伺っているようだ。
少し迷ってから顔を上げれば、ぱちりと視線が絡み合う。その瞬間に井吹が嬉しそうに目尻を下げるものだから、また胸がきゅっと締め付けられた気がした。
「こうやってただお前に触れるだけで疲れが吹っ飛んで、次の練習も頑張んなきゃなって気持ちになって」
「う、ん……」
「ずっとこうしてたいなって思う」
だからもっと触れたいと、井吹は目でそう訴える。
それはもうセラピーではないのでは。そう口にしようとしたが、それは出来なかった。あまりにも井吹が優しい顔をして好葉を見つめるものだから、何も言えなくなって。
「お前がいいなら、だけど」
だめか?と眉を下げる井吹に、いよいよ好葉はお手上げ状態になってしまった。飼い主に構ってほしい犬のような姿に、好葉は弱い。
「だめ、じゃ、ない……井吹くんが癒されるって言うなら、うちのこと……」
これ以上は恥ずかしいから言えない、とばかりに顔を背ける。頬の赤みに気づかれていませんようにと祈りながら。
しかしそんな好葉の願いも虚しく、井吹にはしっかり気付かれていたようで。小さく笑う声が聞こえたかと思うと、耳元に温かな吐息がかかった。
「ありがとな」
低く掠れたその声に全身が甘く痺れ、何も言えなくなってしまうのだった。
「アニマルセラピーってあるじゃん」
「うん」
「あれがあるなら、好葉セラピーがあってもいいと思わねぇか?」
急に素っ頓狂なことを言い出した井吹に、好葉はきょとんとする。アニマルセラピーが何なのかは知っているが、それと自分を一緒にされる意味が分からない。
「あの……うち、ワンちゃんとかネコちゃんじゃないよ……?」
「それは分かってる」
むすっとした顔になる井吹に、ますます訳が分からなくなる。彼は一体何を考えているのだろうか。その真意を読み取ろうとじっと見つめていると、不意に視線が交わった。
菖蒲色のそれの中に、微かに宿る熱。
「っ」
壊れ物に触れるかのような手つきで、井吹の指先が頬に触れる。繊細なガラス細工でも扱うような触れ方に戸惑いながら、その手を甘受するしかなかった。
井吹は度々こうやって好葉に触れたがった。最初はお兄ちゃんが下の子を構いたがるみたいな、そんな感覚だったと思う。けれど、日に日に井吹が触れる時間は増えていった。まるで何かを確かめるように、そっと頬や手を撫でる。その手つきはあまりにも優しいから、好葉はどうしたらいいのか分からなくなるのだ。
「い、いぶきくん」
「ん?」
「……その、うちそんな動物みたいに可愛いわけじゃないし、触ってても癒されるようなことはないと思、」
「ある」
食い気味に否定され、思わず言葉を飲む。井吹は真剣な表情でこちらを見つめていた。その眼差しに射貫かれて、身動きが取れなくなってしまう。
「癒されてるよ、俺は」
これ以上ないくらい真摯な声音だった。はっきりと断言されるその言葉に、じわじわと顔に熱が集まってくるのが分かる。何か言葉を返さなきゃいけないのに、上手く声が出せなくてもどかしい。
ぎゅっと目蓋を閉じて俯くと、井吹がふっと笑う気配がした。
「好葉」
すりっと指の腹で頬骨を擦られて、ぴくりと肩が跳ねる。井吹はそれきり何も言わなかった。ただじっと動かず、好葉の出方を伺っているようだ。
少し迷ってから顔を上げれば、ぱちりと視線が絡み合う。その瞬間に井吹が嬉しそうに目尻を下げるものだから、また胸がきゅっと締め付けられた気がした。
「こうやってただお前に触れるだけで疲れが吹っ飛んで、次の練習も頑張んなきゃなって気持ちになって」
「う、ん……」
「ずっとこうしてたいなって思う」
だからもっと触れたいと、井吹は目でそう訴える。
それはもうセラピーではないのでは。そう口にしようとしたが、それは出来なかった。あまりにも井吹が優しい顔をして好葉を見つめるものだから、何も言えなくなって。
「お前がいいなら、だけど」
だめか?と眉を下げる井吹に、いよいよ好葉はお手上げ状態になってしまった。飼い主に構ってほしい犬のような姿に、好葉は弱い。
「だめ、じゃ、ない……井吹くんが癒されるって言うなら、うちのこと……」
これ以上は恥ずかしいから言えない、とばかりに顔を背ける。頬の赤みに気づかれていませんようにと祈りながら。
しかしそんな好葉の願いも虚しく、井吹にはしっかり気付かれていたようで。小さく笑う声が聞こえたかと思うと、耳元に温かな吐息がかかった。
「ありがとな」
低く掠れたその声に全身が甘く痺れ、何も言えなくなってしまうのだった。