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好葉ちゃん関連

一方通行の想い(いぶ→この)



前を歩く好葉の背中を見つめる。その小さな身体は傍から見れば到底世界を、宇宙を相手に戦っているとように見えないだろう。自分に自信がなくいつもビクビクしている彼女だが、それでも井吹の目には好葉が誰よりもキラキラして見えた。
そんな彼女に惹かれるようになったのはいつからだろう。きっかけなんてきっと、些細なことだったはずだ。無意識のうちに目で追うようになって、好葉の隣を陣取って。気付けばそれが当たり前になっていて、もう元に戻れなくなるくらい井吹の中で大きな存在になってしまった。

「い、井吹くん……!」
「!」

好葉の声で我に帰る。前を歩いてたはずの好葉がいつの間にか目の先にいて、井吹を心配そうに見上げていた。
真っ黒で真ん丸な瞳が、じぃ、とこちらを見つめてくる。潤んだ瞳はきらきらしていて飴玉みたいだ。その瞳に自分が映っているという事実だけで体温が上がる気がした。

「井吹くん、大丈夫……?」
「……なにがだよ」
「だって、さっきからずっと上の空だったし……具合悪いとか……?」

心配そうに眉を下げる好葉に胸がきゅっと締め付けられるような感覚がする。その痛みの理由が分からないほど鈍感ではない。
あぁ、やっぱり自分はこの少女のことが好きなんだ。自覚した瞬間、もうどうしようもなくなって。でも行動に移せるほどの素直さなんて持ち合わせていなくて、素っ気ない言葉を返すことしかできない。

「なんでもねぇよ」

吐き捨てるように呟くと、目の前の瞳が大きく見開かれる。

「そっか……それなら、いいけど……」

そう呟く好葉はやっぱりどこか寂しそうで悲しそうだ。あぁそんな顔をさせたい訳じゃないのに、と罪悪感で胸がいっぱいになる。
いつもそうだ。傷つけたくないと思っているはずなのに、何故か選んだ言葉は正反対なことばかりで。

「でも、何かあったら言ってね」

好葉は微笑んで、そのまままた歩き出した。井吹を置いて行くのではなく歩幅を合わせて隣を歩いてくれる。それが嬉しくて、でも同時に悲しくもあった。どうしてこうも素直になれないんだろうと自己嫌悪に陥る。
こんな女々しかっただろうか 、自分は。「好きだ」なんて一言を、たったの二文字の言葉を伝えられる勇気さえないなんて。
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