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ガチ勢アイドル


「俺のファンミーティング開催決定〜っ!」

 桃城は試し刷りをしてもらった告知ポスターをメンバー全員に見せて回る。良かったねと年長組に言われてえへへと嬉しそうにしている桃城とは反対に、海堂の形相は大変な事になっていた。
 行きたい。最後列で良いから行きたい。ハート未遂ポーズで写真撮影、サイン、握手、そしてハイタッチ。いや贅沢は言わない、ミーティング会場に居るだけで十分だ。そもそも自分が客席に紛れていたら他のファンが混乱してしまうので、会場スタッフとして参加させてもらえないかマネージャーに頼み込もう。桃城が何をしでかすか分からないから…と言えばきっと分かってくれる筈だ。

「昼の部と夜の部の二回やるんスよ! 昼の部のゲストは氷帝の忍足さん!」

 意地でも参加してやると海堂は決めた。
 氷帝とはSEIGAKUと同じくらい人気のアイドルユニットで、その中の忍足は共演以来桃城の大ファンを公言しプライベートでも交流がある。SNSでファンクラブの会員証の写真もあげていた。つまり海堂にとって宿敵とも言える存在だ。桃城ファンだと広く知られている為配信などで共演すれば毎回ファンサを貰っている。だからファンミーティングでもいろいろと仲良くするのだろう。羨ましい。嫉妬の炎が燃え上がる。
 桃城の良さは万国共通、太陽とは全てを平等に照らすものだと同担拒否をしないタイプのガチ勢だが忍足だけは別だ。何故こんなにも許さんと思っているのか海堂本人も分からない。

「夜の部は海堂が来るんだよな!」

「は?」

「え?」

 何の事だ、と桃城を見る。

「聞いてねーの? ほら、お前がゲストって書いてるだろ」

 桃城が指さすポスターの夜の部ゲスト紹介の欄にはSEIGAKU海堂薫と書いてあった。
 海堂薫。誰だ。俺だ。俺が桃城のファンミーティングのゲスト。

「ゲスト!?」

 驚きは喜びがかき消した。合法的に参戦できる。ファンに混ざってファンサを貰える。しっかりやってるか確認してやるという口実を出せば握手や写真撮影もしてくれる筈だ、嫌とは言わせない。忍足の行動次第では『そういう演出』を装ってガチ勢を解放できる。最高だ。海堂は初めて忍足に感謝した。


 誰をゲストに呼ぼうかと聞かれた桃城は真っ先に親しい仲である忍足の名をあげ、次に会員ナンバー一番の男の顔が浮かんだ。一人のファンを特別扱いするのは本当は良くない事だが、こうでもしないと海堂はファンミーティングには参加できないだろうと思った。せっかくイベントをするのだから一人でも多くのファンに来てほしい。
 ついでに自分のファンサを近くで見て参考にすれば良い。繊細なガチ勢だと知らない桃城がファンサレッスン・イベント特別編を計画している事を、海堂はまだ知らない。
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