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化け猫来りて恩返す

チャイムが鳴った 宅配便を指定した時間だから配送業者だろうと、膝の上に乗った桃城を手早く下ろして玄関に向かう 
荷物を受け取った海堂が戻ってくると桃城は手に持った段ボールをじっと見た 小さく薄い箱には猫でもほとんど入らない、人の体なら尚更だ

「入るわけねぇだろ」

「分かってんだけど、何かつい見ちまうんだよな」

中身を抜いた空の箱を渡すとカリカリと爪で引っ掻く 何が楽しいのかと見ているとお前も使うかと言うように差し出される 人間の海堂は箱で遊びたいわけがなく、断ると桃城はまた箱を弄りだした

「桃城、猫になれ」

「何でだよ」

「良いから早くしろ」

変な奴、と呟いて猫の姿に戻った桃城を海堂は撫でる ゴロゴロと喉を鳴らして擦り寄る桃城に大人しくしてろと言って、届いたばかりのそれを首に巻いて留め具を留めた

「苦しくねぇか」

違和感からか何度か首を振ったが、肯定するようににゃあと鳴く 後ろ足でかこうとするのを止めさせて床に鏡を置いた
人間の時よりもボヤけた視界に迷子札付きの青い首輪を着けた猫が映る

「…恩なんて返さなくて良い」

表には桃と、裏には海堂の名前と電話番号が刻まれた迷子札を指でなぞる

「一生返すな」

裕福になるよりも、生涯の伴侶を見つけてくれるよりも この奇妙な同居人がこれからも変わらずそばに居る事が、海堂にとっては何よりの恩返しだった

「…海堂!」

急に抱きつかれ、バランスを崩して床に後頭部をぶつけそうになる

「そこまで言うなら仕方ねーなぁ、仕方ねーよ! 一生離れてやらねーから覚悟しとけよな!」

人の姿に変わった桃城は海堂の上に乗り、何度も頭突きをしてザラついた舌で頬を舐めた 重くて痛い 人間の時にはするなと言った行動ばかりだが、今回だけは大目に見てやる

「お前じゃねぇ、猫の方に言ったんだ」

「バカ、どっちも俺だろ!」

ぐりぐりと頭を擦りつけてくる桃城に、いつもの仕返しに頭突きをする 何となく気恥ずかしくなって目を逸らすと桃城が顔を近付けた 鼻をくっつけてくるのかと思ったが、ふに、と柔らかいものが口に当たる

「…人間の好きってこうするんだろ」

覚えのない感覚に目を見開く海堂を見下ろし、桃城は紫色の目を細めた
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