化け猫来りて恩返す
海堂はどしゃ降りの帰り道に猫と遭遇した 辺りを見渡すが雨を凌げそうな場所は近くには無く、彼自身も傘を持たずに駅から走っている最中だった
近付いても動こうとしない猫がこのまま一晩中雨に打たれたら…と考えると放っておけず、猫を抱き上げて家へ急ぐ
家に着くと自分の着替えもそこそこにバスタオルを出して濡れた猫を包んだ 力を入れすぎないように気をつけながら水気を拭き取っていると、少し元気を取り戻した猫は膝の上に乗ろうと動く
「お前随分人懐っこいな」
首輪はしてないが人に触られるのを嫌がらない様子に思わず呟くと、猫はほとんど乾いた体を海堂に擦りつけ、紫色の目を向けて返事をするようににゃあと鳴いた
夕飯を作るついでに鶏肉を焼いて、ほぐした物を小皿に乗せて猫の前に置く 空腹だったらしくあっという間に完食し、料理をする海堂の足元にずっとくっついていた ぐりぐりと頭を擦りつけられると悪い気がしない 口元を僅かに緩ませながら作ったおかずを皿に盛り付け持って行こうとすると、下から強烈な視線を感じ、慌てて皿を調理台に置いて立ったまま食事をした
段ボール箱にタオルを詰めて簡易ベッドを作ったが、猫は長居せずにちょろちょろと海堂の後をついてくる 電気を消して布団に入ってもすぐそばでじっと海堂を見つめていた
「…一緒に寝るか?」
掛け布団を持ち上げると猫は勢いよく飛び込んできて、肩の辺りに頭を擦りつけてゴロゴロと喉を鳴らす あまり甘えられたら別れる時に離れ難くなりそうだが、海堂の思案などお構いなしにザラザラとした舌が頬を舐めた
こんなに人懐っこい野良猫が居るのだろうか、だがもし本当に野良ならこのまま一緒に暮らしてしまおうか
腕の中の温かくて柔らかい生き物を撫でてそう考えながら、海堂はゆっくり目を閉じた
目を覚ますと海堂の腕の中には知らない男がいた
飛び起きかけたが腕を枕にされていて肩より先はほとんど動かせない 突然の事に半端な姿勢のまま固まり、無防備な寝顔をただ凝視する
夢か いや、腕がビリビリと痺れている感覚がある
泥棒か いや、泥棒が家主の隣で寝るわけがない
グルグルと考えている内に男の瞼が開いた 何度かゆっくり瞬きをした後、紫色の目を海堂に向けて微笑む
「…おはよ」
寝起きのふにゃりとした笑顔からは思考をかき消すような色気が溢れ、海堂は息を呑んだ
動揺を隠して痺れている腕を無理矢理引き抜き、キョトンとしている男を睨む
「っだ、誰だテメーは! 何で勝手に家に…!」
「あぁ、昨日はサンキューな! 寒いし腹減ってるしで動けなくてさ、お前が拾ってくれなきゃ危なかったぜ」
「おい、何の話してんだ…っ!?」
ずいと距離を詰めてきた男は海堂の肩の辺りに猫のようにぐりぐりと頭を擦りつける
猫
あの猫はどこに行った 人懐っこくすり寄ってきた、あの紫色の目の猫は
「お前には恩を返さなきゃいけねーなぁ、いけねーよ」
ざり、と頬にザラザラした感触がする 覚えのある感覚に目を見開く海堂を見下ろし、男は紫色の目を細めた
近付いても動こうとしない猫がこのまま一晩中雨に打たれたら…と考えると放っておけず、猫を抱き上げて家へ急ぐ
家に着くと自分の着替えもそこそこにバスタオルを出して濡れた猫を包んだ 力を入れすぎないように気をつけながら水気を拭き取っていると、少し元気を取り戻した猫は膝の上に乗ろうと動く
「お前随分人懐っこいな」
首輪はしてないが人に触られるのを嫌がらない様子に思わず呟くと、猫はほとんど乾いた体を海堂に擦りつけ、紫色の目を向けて返事をするようににゃあと鳴いた
夕飯を作るついでに鶏肉を焼いて、ほぐした物を小皿に乗せて猫の前に置く 空腹だったらしくあっという間に完食し、料理をする海堂の足元にずっとくっついていた ぐりぐりと頭を擦りつけられると悪い気がしない 口元を僅かに緩ませながら作ったおかずを皿に盛り付け持って行こうとすると、下から強烈な視線を感じ、慌てて皿を調理台に置いて立ったまま食事をした
段ボール箱にタオルを詰めて簡易ベッドを作ったが、猫は長居せずにちょろちょろと海堂の後をついてくる 電気を消して布団に入ってもすぐそばでじっと海堂を見つめていた
「…一緒に寝るか?」
掛け布団を持ち上げると猫は勢いよく飛び込んできて、肩の辺りに頭を擦りつけてゴロゴロと喉を鳴らす あまり甘えられたら別れる時に離れ難くなりそうだが、海堂の思案などお構いなしにザラザラとした舌が頬を舐めた
こんなに人懐っこい野良猫が居るのだろうか、だがもし本当に野良ならこのまま一緒に暮らしてしまおうか
腕の中の温かくて柔らかい生き物を撫でてそう考えながら、海堂はゆっくり目を閉じた
目を覚ますと海堂の腕の中には知らない男がいた
飛び起きかけたが腕を枕にされていて肩より先はほとんど動かせない 突然の事に半端な姿勢のまま固まり、無防備な寝顔をただ凝視する
夢か いや、腕がビリビリと痺れている感覚がある
泥棒か いや、泥棒が家主の隣で寝るわけがない
グルグルと考えている内に男の瞼が開いた 何度かゆっくり瞬きをした後、紫色の目を海堂に向けて微笑む
「…おはよ」
寝起きのふにゃりとした笑顔からは思考をかき消すような色気が溢れ、海堂は息を呑んだ
動揺を隠して痺れている腕を無理矢理引き抜き、キョトンとしている男を睨む
「っだ、誰だテメーは! 何で勝手に家に…!」
「あぁ、昨日はサンキューな! 寒いし腹減ってるしで動けなくてさ、お前が拾ってくれなきゃ危なかったぜ」
「おい、何の話してんだ…っ!?」
ずいと距離を詰めてきた男は海堂の肩の辺りに猫のようにぐりぐりと頭を擦りつける
猫
あの猫はどこに行った 人懐っこくすり寄ってきた、あの紫色の目の猫は
「お前には恩を返さなきゃいけねーなぁ、いけねーよ」
ざり、と頬にザラザラした感触がする 覚えのある感覚に目を見開く海堂を見下ろし、男は紫色の目を細めた