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タオル

『タオル』海桃

 今家に誰も居ないんだ。そう桃城に言われた海堂は、期待をするなと言う方が無理だと思った。多少大きな声が出ても問題がない。つまり、声が出てしまうような行為をしても良いと言ってるようなものだ。興奮でじわりと汗が滲む。
 そしてそれを誤魔化すまでもなく、灼熱と呼べる暑さにダラダラが流れていく。部活が終わってからボディシートで体を拭いて一度サッパリしたのに、桃城の家に着く頃には二人共汗だくだった。

「あっつ…今エアコンつけるからな。あと麦茶と…タオルもいるか、ちょっと待ってろよ」

 桃城はエアコンの電源を入れるとさっさと部屋を出て行ってしまう。気を遣わなくて良いと言う間もなかった。
 落ち着かない。立ったままか、座るか。海堂はどうするか悩んでウロウロしてから、躊躇いつつも床に座る。これが宿題を手伝えと言われた日ならこんなにソワソワしない。桃城が期待をさせるような事を言うからだと心の中で八つ当たりをする。

「お待たせぇ…何だよ、今日は散らかってねーだろ!」

 じっと机の周囲を睨みつけていたからか、桃城は「部屋が汚い」と思っていると誤解したらしい。

「…今日はな」

 差し出されたグラスを受け取り、麦茶を飲む。冷たい麦茶は暑さと緊張で渇いていた喉を潤し、一気に中身を減らしてしまう。

「ほらよ、タオル。濡らしてきたから気持ち良いぜ」

 麦茶と同様にひんやりしていると思ったのに、投げ渡されたタオルは冷たくなかった。それどころか、熱かった。海堂が驚いていると、桃城は「お前冷たいタオル派?」と問いかける。

「昔鹿児島のばーちゃんが、俺が外で遊んで汗だくで帰ってきたら熱いタオルで体拭いてくれてさぁ。それからずっとお湯で濡らしてんだよ」

 せっかく用意してくれたのだから冷めない内に腕を拭くと、水で濡らしたタオルやボディシートとは違う、風呂やシャワーの後のようなスッキリとした感じがする。
 このやり方も良いなと言おうとすると、桃城は大胆に服を捲り上げて胸から腹にかけてタオルで拭いていた。一度は落ち着いた気持ちが再び荒れ模様となる。

「…スケベ! 良いから早く拭けよ、冷めるぞ!」

「だっ、誰がスケベだ! テメーこそ、そ…そういう事が目的で家に誘ったんだろうが!」

 桃城の頬は暑さではない理由で赤くなった。ソワソワと、先程の海堂のように落ち着きがなくなる。チラリと送る視線には期待がこれでもかと込められていた。
 カラン、と麦茶に浮かぶ氷が小さな音を立てる。それを合図に二人はタオルを手放し、どちらからともなく触れ合った。
 多めに入れた氷が溶けてグラスの麦茶が薄まる頃には、触れ合う肌は互いの体温でびっしょりと濡れていた。
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