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うっかり者のレクイエム


「あっ、桃ちゃん!!」

越前と桃城が部屋の前で別れようとすると、走ってきた金太郎が二人の前で急ブレーキをかける

「桃ちゃん、今日も部屋でトランプしような!」

「おー、良いぜ」

「よっしゃ!」

「桃先輩昨日も来たでしょ、そんなに毎晩来なくて良いっスよ」

えー、と二人の不満げな声が重なる

「俺が行ったら嬉しいくせに〜!」

「せやせや、いつも桃ちゃん帰ったらしゅんてしとるやん!」

「してないし」

「何だよお前可愛いヤツだな〜、そんな奴は頭グリグリしてやる!」

桃城は越前の頭をぐしゃぐしゃと撫でた 

「ちょっ、やめてよ!」

「あー! コシマエばっかずるい! ワイも! ワイの頭もグリグリしてぇな!」

「じゃあ二人まとめてグリグリの刑だ!」

「だからやめてってば…」

空いてる手で金太郎の頭もぐしゃぐしゃと撫でる はしゃぐ二人を満更でもなさそうに越前が見ていると、近くのドアが開いて海堂が部屋から出て来た

「おいうるせぇぞ、廊下で騒ぐんじゃねぇ」

「あー悪ぃ悪ぃ、今部屋入るからよ」

「マムシのにーちゃんも桃ちゃんに頭グリグリしてもろたらどうや? めっちゃオモロいで!」

「頭グリグリ?」

「こーゆーヤツ」

海堂に見せつけるように金太郎の頭をぐしゃぐしゃと撫でる

「お前にもやってやろーか? マムシのにーちゃん?」

「ふざけんじゃねぇ、嫌に決まってんだろうが」

そりゃそうだと納得する越前とは反対に、金太郎は信じられないと言うように海堂に詰め寄った

「えー! 桃ちゃんに頭グリグリされるの嫌なん!? 桃ちゃんの頭グリグリオモロいのに!?」

「お子様の海堂には桃ちゃんの頭グリグリの良さが分かんねーなぁ、分かんねーよ」

「テメーの方が子供だろ」

「俺から見たらみんな子供だよ」

越前がため息をつくと、再びドアが開く 今度は赤也が部屋から出てきた

「何騒いでんだよお前ら、真田副部長に怒られても知らねーぞ」

「聞いてやワカメのにーちゃん!」

「誰がワカメだよ!」

赤也の返事は気にも留めずに金太郎が続ける

「マムシのにーちゃんが桃ちゃんの頭グリグリ嫌やって言うんや!」

「桃ちゃんの頭グリグリ?」

「こーゆーヤツ」

今度は越前の頭をぐしゃぐしゃと撫で、赤也に見せた 

「へー、良いじゃん、やってもらえよ」

「せやせや! そしたらワイら頭グリグリ仲間やで!」

「いいって言ってんだろ」

「何だよ、つまんねー奴だな」

「コシマエ、何でマムシのにーちゃんは桃ちゃんの頭グリグリ嫌なん?」

納得できない金太郎は越前にも問う

「金太郎だって俺に頭グリグリされても楽しくないでしょ」

「ワイはコシマエでも桃ちゃんでも真田のにーちゃんでも頭グリグリされたら楽しいで?」

「副部長のは頭グリグリってより頭ゴンゴンだぜ、マジでいてーもん…うっ、思い出すだけで頭が…」

ゴンゴンされた時の感覚まで思い出した赤也は頭をさすった

「…とにかく騒ぐなら部屋でやれ」

「なぁなぁ、桃ちゃんの頭グリグリ、ホンマにええの?」

すっかり蚊帳の外になった海堂が部屋に戻ろうとすると、金太郎が最後にもう一度聞く 付き合っていようと人前で頭グリグリなんて絶対にされたくない海堂は、これ以上同じ事を聞かれないようにキッパリと返した

「何度も言わせんじゃねぇ、誰が桃ち…」

「「え?」」

短時間に桃ちゃんという単語を聞きすぎたせいでキッパリと言い間違えた 海堂が訂正するより早く赤也と桃城が顔を見合わせニヤァと笑う

「切原〜、さっき何か聞こえなかったかぁ〜?」

「聞こえた聞こえた〜、桃ち? 桃ちって言ったよな?」

「まさか桃ちゃんって言おうとしてたとか?」

「違ぇ!」

「それか桃ちって呼ぼうとしてたんじゃね?」

「え〜、桃ちかよ〜?」

「違ぇって言ってんだろ!」

「良いじゃん、海堂は彼ピなんだから呼ばせてやれよ〜」

「切原テメー!」

「彼ピって何や?」

金太郎が純粋な目で質問する 貴重な後輩に先輩風を吹かせたい赤也は自信たっぷりに答えた

「彼氏の事を彼ピって言うんだぜ!」

「マムシのにーちゃんって彼氏なん? コシマエ、彼氏って何?」

「ユウジ先輩みたいな人」

「ユウジみたいな!? マムシのにーちゃんもモノマネ得意で小春が好きなんか!?」

離れたドアが突然開き、小春という単語に異様に反応するユウジが部屋から出てきた

「ゴラァ!! 誰が俺の小春を狙ってるって!?」

「いやん、アタシを巡って争わんといて!」

「誰も狙ってへんから部屋に戻ってください」

それまで出てこなかった財前も顔を覗かせた
三人が出てきたのをきっかけに何だ何だと次々中学生が部屋から出てくる 赤也が嫌な予感がして部屋に戻ろうとすると、真田のよく通る声が廊下を突き抜けてきた

「何の騒ぎだ? …またお前か赤也!」

「ちっ、違います! 桃ちと彼ピが!!」

「切原っ!!」

「「桃ちと彼ピ?」」

焦りのあまり口を滑らせたワードに廊下がザワつく 

「わ、悪ぃ!」

「どうすんだよこの状況!?」

「…俺知ーらない」

「なぁなぁコシマエ、マムシのにーちゃんどんなモノマネできるん?」

「海堂」

手塚に呼ばれ、放心状態だった海堂は我に返った

「は、はい」

「桃ちと彼ピとは何の暗号だ?」

「え」

「流行語か何かか」

「いや」

「それとも新たな必殺技か」

「それは」

「どういう意味なんだ?」

「その」

「か、海堂…!」

「頑張れ海堂、噴火すんな!」

情けも容赦も悪意も無い質問攻めに赤也と桃城は思わず応援してしまう 野次馬達もよく分からないままに内心海堂を応援する

「も…桃ちと…彼ピは…」

海堂はめちゃくちゃ混乱していた 静かにしろと注意しに廊下に出たら、周りにつられてうっかり桃城を愛称で呼んでしまいそうになり、それをイジられていたらあっという間に広まって、「桃ちと彼ピ」の意味を説明しろと言われた 好きの二文字を言うのも大変なお年頃なのに「彼ピは自分」と説明しなければいけないのだ 災難の玉突き事故にも程がある

「…も、桃ちは…桃城の事で…その、彼ピは…かっ、彼ピは…!」

「頑張れ海堂!」

「海堂!」

覚悟を決めて拳を握り、海堂は宣言する

「俺が…俺が桃城の彼ピっス!」

「よく言ったぜ海堂!」

「フシュッ!?」

桃城が海堂に抱きついて頭グリグリの刑をする それがトドメになってついに海堂は噴火した 噴火はしたが桃城の事はしっかり抱きとめて離さなかった

「やったな海堂、お前は立派な彼ピだぜ! おめでとう!」

「おめでとう」
「おめでとう!」
「おめでとう?」

赤也に続いて野次馬達も何か知らないけど良かったなと拍手を送る 謎の祝福ムードに包まれる中、越前達だけは流されなかった

「何でエヴァの最終回みたいになってるの」

「コシマエ、エヴァって何や?」

「つまり彼ピとは何だ?」

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