君と夏休み
お友達が来てると母に言われ、海堂は玄関に向かった 友達を名乗るような知り合いの心当たりが全く無く、見当がつかないままドアを開ける
「わりー海堂、英語のプリント写させて!」
二学期が始まる三日前の昼過ぎに、友達とは言い難い女子はカラリと笑ってそう言った
「…自分の宿題くらい自分でやれ」
「そうしたいんだけど明日プール行くからちょっと間に合わなそうだし…な、数学の最後の問題、答え教えてやるから!」
「解けたのか」
「当たり前だろ!」
数学の宿題の最終問題は難しい応用問題で、夏休み明けの授業で解説するから解かなくても良いと教師から言われている 海堂も途中で詰まり、スッキリしなかったが授業の時に理解すれば良いと空欄にしていた
「海堂の事だから最後だけ空欄で出したくないだろ?」
「…解き方だけで良い、答えは自分で出す 英語のプリントも全部は見せねぇからな」
「やった! サンキューマムシ!」
お邪魔しますとよく通る声が玄関に響く 桃城を部屋で待たせて飲み物を取りに行くと母から「お友達と食べて」と笑顔でお菓子を渡され、海堂は友達じゃないと言えずにそれを受け取った
「…ほら、そしたらこっちをこの式で解けるだろ それで今度は…へくしゅっ…!」
海堂のプリントに薄く書き込んでいた桃城がくしゃみをした
「寒いか」
「…ちょっとだけ」
タンクトップにショートパンツ姿の桃城は冷房で冷えた剥き出しの腕を擦って控えめに答える
海堂はエアコンの温度を調整したが、一度冷えた体はそれだけでは簡単に暖まらない
「…しばらく着てろ」
少し悩んだが、着ていたシャツを桃城に渡した 昼前のトレーニングの後に着替えたものだから着てからあまり時間は経っていない、少なくとも汗で濡れてはいない
今着ていた服より衣装ケースの中に入ってる物を貸した方が良いのだろうが、一番最近買った服はこのシャツだった
「汗かいてるから良いって!」
「いつも汗だくのジャージで近付いて来る奴が今更気にしてんじゃねぇ」
「人の服だから気にしてんだよ…ってお前いつもあたしの事汗臭いって思ってたのかよ!?」
「そうは言ってねぇだろ!」
男子運動部という環境に慣れているからか桃城を汗臭いと思った事は一度もない どちらかと言えばいつも制汗剤のスッとした匂いがすると思ったが、そう言うと変態のようで口には出さなかった
良いから着てろともう一度押すと、申し訳なさそうに桃城が袖を通した
「…出かける時は羽織る物持って出ろ、今日みたいにエアコンで冷えるかもしれねぇし…日焼けするだろ」
「もうしてるよ…ほら、日焼け止め塗ったんだけどな」
桃城が日に焼けた腕を見せる お前はどうだと聞かれ、海堂も自分の腕をその隣に出した
「同じくらいだな」
確かに色は同じくらいだったが、腕の太さの違いはハッキリと分かった シャツの袖は海堂が着ていた時よりも長く、腕との隙間も広く空いてるように見える
「…お前また筋肉ついた?」
桃城が海堂の腕を掴んでしげしげと見る 思わずギクリとしたのは桃城の握力を知っているからだと思った
「そういや今月まだ腕相撲してないよな」
「…ああ」
掴んでいた腕を離して桃城はテーブルに肘を着く 連敗記録を七で止めようと海堂も肘を着き、桃城の手を握った
「あたしが勝ったら明日プールの後にエビカツバーガーな」
「まさか一緒に行けって言ってんのか」
「部活休みだろ?」
「…俺が勝ったら行かねぇからな」
「今日はありがとな、おかげで間に合いそうだわ」
海堂は帰る時間になった桃城を家の前まで見送る ヒールのあるサンダルを履いているといつもより頭が近い気がする それでもいつの間にか開いていた身長差は変わらず海堂の方が高い
1年の春の時は自分の方がほんの僅かに小さかったのにと眺めていると、自転車に跨った桃城がじゃあと手を上げた
「明日もよろしくな!」
「わりー海堂、英語のプリント写させて!」
二学期が始まる三日前の昼過ぎに、友達とは言い難い女子はカラリと笑ってそう言った
「…自分の宿題くらい自分でやれ」
「そうしたいんだけど明日プール行くからちょっと間に合わなそうだし…な、数学の最後の問題、答え教えてやるから!」
「解けたのか」
「当たり前だろ!」
数学の宿題の最終問題は難しい応用問題で、夏休み明けの授業で解説するから解かなくても良いと教師から言われている 海堂も途中で詰まり、スッキリしなかったが授業の時に理解すれば良いと空欄にしていた
「海堂の事だから最後だけ空欄で出したくないだろ?」
「…解き方だけで良い、答えは自分で出す 英語のプリントも全部は見せねぇからな」
「やった! サンキューマムシ!」
お邪魔しますとよく通る声が玄関に響く 桃城を部屋で待たせて飲み物を取りに行くと母から「お友達と食べて」と笑顔でお菓子を渡され、海堂は友達じゃないと言えずにそれを受け取った
「…ほら、そしたらこっちをこの式で解けるだろ それで今度は…へくしゅっ…!」
海堂のプリントに薄く書き込んでいた桃城がくしゃみをした
「寒いか」
「…ちょっとだけ」
タンクトップにショートパンツ姿の桃城は冷房で冷えた剥き出しの腕を擦って控えめに答える
海堂はエアコンの温度を調整したが、一度冷えた体はそれだけでは簡単に暖まらない
「…しばらく着てろ」
少し悩んだが、着ていたシャツを桃城に渡した 昼前のトレーニングの後に着替えたものだから着てからあまり時間は経っていない、少なくとも汗で濡れてはいない
今着ていた服より衣装ケースの中に入ってる物を貸した方が良いのだろうが、一番最近買った服はこのシャツだった
「汗かいてるから良いって!」
「いつも汗だくのジャージで近付いて来る奴が今更気にしてんじゃねぇ」
「人の服だから気にしてんだよ…ってお前いつもあたしの事汗臭いって思ってたのかよ!?」
「そうは言ってねぇだろ!」
男子運動部という環境に慣れているからか桃城を汗臭いと思った事は一度もない どちらかと言えばいつも制汗剤のスッとした匂いがすると思ったが、そう言うと変態のようで口には出さなかった
良いから着てろともう一度押すと、申し訳なさそうに桃城が袖を通した
「…出かける時は羽織る物持って出ろ、今日みたいにエアコンで冷えるかもしれねぇし…日焼けするだろ」
「もうしてるよ…ほら、日焼け止め塗ったんだけどな」
桃城が日に焼けた腕を見せる お前はどうだと聞かれ、海堂も自分の腕をその隣に出した
「同じくらいだな」
確かに色は同じくらいだったが、腕の太さの違いはハッキリと分かった シャツの袖は海堂が着ていた時よりも長く、腕との隙間も広く空いてるように見える
「…お前また筋肉ついた?」
桃城が海堂の腕を掴んでしげしげと見る 思わずギクリとしたのは桃城の握力を知っているからだと思った
「そういや今月まだ腕相撲してないよな」
「…ああ」
掴んでいた腕を離して桃城はテーブルに肘を着く 連敗記録を七で止めようと海堂も肘を着き、桃城の手を握った
「あたしが勝ったら明日プールの後にエビカツバーガーな」
「まさか一緒に行けって言ってんのか」
「部活休みだろ?」
「…俺が勝ったら行かねぇからな」
「今日はありがとな、おかげで間に合いそうだわ」
海堂は帰る時間になった桃城を家の前まで見送る ヒールのあるサンダルを履いているといつもより頭が近い気がする それでもいつの間にか開いていた身長差は変わらず海堂の方が高い
1年の春の時は自分の方がほんの僅かに小さかったのにと眺めていると、自転車に跨った桃城がじゃあと手を上げた
「明日もよろしくな!」