海桃と小人
『水風呂から出た頃』
桃を水風呂から出して着替えさせてると、桃城から明日暇かと連絡が来た
今まで部活以外の連絡をあまりしなかったのに小人を拾った同士だと分かってからほぼ毎日連絡を取ってる 桃城と互いの家に行き合う仲になるなんて数ヶ月前なら考えられなかった
「…桃、明日桃城と小さい奴が来ても良いか」
桃は何度も頷いて俺の手に抱きついた 小さい俺と会えるのが楽しみらしく、来ると聞いたら毎回喜ぶ 桃城に似た桃が俺に似た小さい奴に会って喜ぶなんて変な気分だ
「何でお前は桃城に似てるのに俺と喧嘩にならねぇんだろうな」
声が出ないのを差し引いても喧嘩のような事を一度もした事がない 見た目も食べ物をうまそうに食うのも似てるくせに俺に対する態度だけは全く違う
つっかかってこねぇし言われた事は大体素直に聞くし、初めて会った日からずっと懐いてて撫でられるのが好きで、嬉しい事があるとすぐ抱きついてくる スキンシップはしなくて良いが素直なのはあいつも少し見習えば良い
少し考えるような表情をしてた桃が小さい手で手招きした 手のひらに乗せて持ち上げたら、もっと近くだと手を振られる 目の前まで引き寄せると腕を伸ばした桃が俺の頬に自分の餅みたいな頬を擦り寄せた 撫でてやるとぎゅっと抱きついてくる
多分だが、嫌いじゃないからって言いたいんだろう
「…俺も嫌いじゃねぇ」
ぺし、と桃にしては強い力で頬を叩かれた
「な、何だ」
ムッとした桃が俺をじっと見てる ここまで機嫌が悪くなったのを見るのは初めてで思わず狼狽える
「桃、どうした」
分からねーのかと言いたそうな目を向けられ、頷く 何がそんなに嫌だったのか全然分からねぇ 仕方ねーなと言うように息を吐いた桃が体を近付ける
ほんの僅かに、唇に何かが当たった感触がした 何が起こったのか分からない内に、もう一度同じもの当たる 今度は見逃さなかった
偶然じゃなく、桃は故意に自分の口を俺に押し当てていた
「…好きって言いたかったのか?」
桃は満面の笑みを浮かべて大きく頷く 抱きついてくる桃をいつもの癖で撫でながらも、俺はさっきよりもずっと落ち着かなかった