海桃と小人
『水風呂に入る頃』
「桃」
窓際で風に当たっていた桃の隣に水が入った洗面器を置く 桃は立ち上がって手を入れると驚いていた 俺が風呂に入る時に一緒に連れて行って、ぬるま湯を入れた洗面器につからせてたから冷たいものが入ってると思わなかったんだろう
「入るか?」
振り返った桃が笑顔で頷く そのまま抱き上げろと手を伸ばすと思ったが、いきなり着ていた服を脱ぎだした 呆気にとられている内に全部脱いだ桃が今度こそ両手を伸ばして抱き上げろとアピールしてくる 足湯くらいのつもりが完全に風呂だと思われたらしい
「おい、別に全部脱がなくても…」
キョトンとして見上げた桃は、ん、ともう一度手を伸ばしてくる …そこまで冷たくないから風邪はひかないだろうが、あまり長時間つからせないようにするか
桃を持ち上げて洗面器の中に入れる 体が水温に慣れる前に肩までつかるのを防ぐ為に底に足が着かない位置で止めると、水が気持ちが良いのか笑ってパシャパシャと水を蹴り上げた
「足滑らすんじゃねぇぞ」
慣れてきた頃合いを見て下ろしてやる 屈んで腕をつける桃の背中に掬った水を数滴落とすとビクッと体を跳ねさせ、何すんだと振り向いた 小さい手で水を掛けようとしてくるが全然届いてない 悪かったと言えばもうやるなよと言うように見上げてくる
桃は俺の様子を見ながら肩までゆっくりつかった 冷たそうにキュッと目をつむって、ふにゃりと笑う 今の内に作りかけの服の続きを縫うかと裁縫セットを取りに行こうとすると、桃が水面を叩いた
「どうした」
俺を見上げてまた水面を叩く
「俺は入れねぇぞ」
桃は分かりやすくしゅんとした …俺は洗面器には入れねぇから仕方がない
ぱちゃ、とさっきより控えめな水音が鳴った
「…桃」
俯いてる桃の近くに手を入れる
「冷たいな」
ぱっと桃の表情が明るくなる ニコニコと笑って、小さい手で何度も俺の手に水を掛けてきた