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ハンデがあろうとなかろうと

「不二先輩!」

「任せて」

「部長、後お願いします!」

「ああ」

 大差をつけて繋ぎ続けたラケットはついに最終走者の不二・手塚組に渡る。

「やるじゃねーか海堂! まぁお前がこの程度でへばるわけねーよな!」

「当たり前だろ、俺をナメてんのか」

「何だよ、いじられて凹んでたくせに」

「凹んでねぇ」

「はぁ? 大人しく抱かれてやったんだからありがたく思えよな!」

「蒸し返すんじゃねぇ!」

「二人共仲良くゴールできたんだから喧嘩するなよ〜」

「もうお姫様抱っこやめて良いんだからな?」

 菊丸大石組も乾越前組も走り終わったらすぐに降ろしたのに、何故か二人は降ろさないまま喧嘩に突入した。

「次の部活の時にエンゲー汁を持ってこよう」

「…乾先輩、その汁ってあの二人にしか飲ませないんスよね?」

 乾は何も言わなかった。菊丸と大石が引きつった顔で振り向き、喧嘩していた海堂と桃城もピタリと静かになる。それでも乾は何も言わなかった。

『何という圧勝! 強靭無敵最強! 第一走者から第四走者まで誰にも前を走らせず、お姫様抱っこでバトンを繋ぎ続けたテニス部が! ついに! ゴ〜ルッ! テニス部ゴ〜〜〜ルッ!! 来年の部費ボーナス権を獲得したのはテニス部だァ〜〜〜ッ!!』

 放送委員の絶叫と生徒の歓声が響き渡る。乾の無言に気を取られている内に手塚達はゴールしていた。決定的瞬間を完全に見逃してしまった。

「あっ! やったやった! 俺達の勝ち〜! 手塚、不二〜!」

「うわっ!? 英二、急に抱き上げるなって!」 

「何だ、お姫様抱っこで集まるのか? 越前、行こう」

「ういっす」

「えっ、集まるんスか? 海堂!」

「だから暴れんじゃねぇ!」

 菊丸が大石をお姫様抱っこして手塚達に駆け寄り、乾と越前、海堂と桃城も続く。お姫様抱っこの四組が集まるのは異様だった、だがこの場にいる全員が慣れてしまったせいで普通の光景のように見えていた。

「ありがとう、これもみんなのおかげだね」

「ああ、俺達全員の勝利だ」

『テニス部の皆さん、おめでとうございます! 代表して部長、一言お願いします!』

 熱い実況を担当した放送委員がマイクを手塚に渡した。手塚は周りを囲む部員達を見渡す。

「…まずは部員達に感謝したい、今回運動部の頂点に立てたのは日頃の練習や部員全員のチームワークの成果だと思っている。そして他の運動部諸君、良い試合だった。
 …しかし!」

 少し照れくさそうにそのインタビューを聞いていた部員達だったが、突然力強く否定が入った事に驚いて手塚を見る。動じてないのは手塚を抱える不二だけだった。嫌な予感がした。

「我々のお姫様抱っこリレーを見て分かっただろう、俺達は人を担いでグラウンド百周だろうと二人三脚だろうとパン食い競走だろうと負けはしない! 来年も再来年も、いや未来永劫部費ボーナス権はテニス部が勝ち取り続ける! 生半可な覚悟で挑むなら、お前達の希望は全てアウトになると思うが良い!」

 お姫様抱っこをされたまま高らかに宣言する。絵面こそアレだが、とんでもない威圧感を放っていた。ただでさえ力の差を見せつけられていた運動部がそのオーラにたじろぐ 運動部だけではない、伝説を目の当たりにしていた生徒達も固唾をのむ。
 勝てるのか、あのテニス部に。その絶望に近い眼差しを受け、手塚は最後の言葉を告げる。

「運動部諸君、我々は頂点で待つ。来年の君達の挑戦を楽しみにしている」

 マイクを放送委員へ返すと、自然と拍手が起こる。賞賛と畏怖が込められた拍手を浴びながら、テニス部のリレー参加者、そして応援席で見守っていた部員達が勝利者インタビュー…いや演説を行った部長を見つめていた。
 それはもう、「何て事言ってんだあんたは」という顔で。

「どうしてあんなにハードル上げたんだ!?」

「来年挑戦受けんの俺達なんスけど!?」

「フシュゥ…」

「実は内緒でマイクパフォーマンスの練習をしてたんだ、みんなを驚かせたくてね」

「めちゃくちゃ驚いたよ! 悪い意味で!!」

「手塚は良いヒールレスラーになれるな」

「テニスプレーヤーじゃないんスね」

 来年は一体どんなリレーになるのか、そしていつまでお姫様抱っこしてれば良いんだと空を仰ぐ。その横でいつも以上に爽やかな笑顔の不二といつも通りの真顔の手塚が、お姫様抱っこのまま部費ボーナス権と書かれた賞状を実行委員から受け取っていた。
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