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夏の隣のお隣さん

『誕生日』

寝室の電気を消した海堂が布団に入ると隣から視線を感じた
 
「何だ」

「…何でもねーけど」

「明日も仕事だろ」

「バカ、そーゆー意味じゃねーよ!」

「だったら何だ」

肩に掛かる髪を後ろに流してやり、蹴飛ばしていたタオルケットを軽く掛ける 別に、と不満そうな桃城にキスをすると余計にムッとされた

「しないんじゃねーのかよ」

「しねぇ、寝ろ」

「分かったよ、おやすみ!」

背中を向ける桃城を見て海堂は安堵する

今日は桃城の誕生日だ 知らないフリをしたが忘れているわけがなく、既に2ヶ月前から半休を取っている こっそり先に帰って帰宅した桃城を夕飯とケーキと一緒に出迎えてやるつもりだった 
退勤しケーキを調達した海堂は一度アパートに寄る 買い物中に斜めにしてしまわないように、ケーキを置いてからスーパーに向かおうとした
帰って来たらどんな反応をするだろう 驚くか、喜ぶか…いや、喧嘩になるかもしれない まぁあいつはチョロいからケーキを見せればすぐ態度を軟化させるだろうと予想した海堂は少しだけ表情を緩める

「…何してんだ海堂?」

だが部屋の前で桃城と遭遇するのは予想外だった
互いに嘘だろと数秒間見つめ合う

「…お前仕事はどうした」

「早くあがってきた、お前こそまだ仕事の時間だろ」

「…早くあがってきた」

「…ケーキ買う為に?」

頷く海堂を見て桃城が吹き出した 笑いながら持っていた箱を掲げる

「そーゆーのは先に言えよ、俺もケーキ貰ったのに」

「全部食え」

「そんなにたくさん食えねーって、残りは明日だな」

部屋に入るとすぐに冷蔵庫の前に向かう 二箱入れると冷蔵庫は一気に狭くなり、買い出しに行っても食料を入れるスペースはほとんど無かった

「どっちか今食べちまう?」

「…ああ」

海堂が持ってきた箱を冷蔵庫から出し、皿とフォークと一緒にテーブルに置く 麦茶のボトルとグラスを海堂が持ってくるのを待つ間に桃城が箱を開けた

「どれお前の?」

「どれでも良い」

「じゃあ半分な」

三種類のケーキを全部フォークで切り分けると海堂がグラスを置いて隣に座る

「朝も何も言わねーからホントに忘れてんのかと思った」

「何回祝ってると思ってんだ」

「最初は全然素直に祝えなかったくせに今じゃサプライズしようとするんだもんな、人って変われるよなぁ」

「…うるせぇ」

桃城がチョコプレートが乗った方の苺のショートケーキを自分の皿に取ったのを見て、片割れに乗っていた苺を桃城の皿に移し、自分の皿にはチョコケーキを乗せる うまく言えない言葉の代わりに苺を押し付けるのは毎年の恒例行事になっていた

「ありがとな、海堂」

さっさと食えと小さく低い声が返ってくる やっぱり全然変わってないな、と桃城は笑った

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