夏の隣のお隣さん

『箱買い』

二人がスーパーの青果売り場に行くと目立つ場所に桃が並んでいた

「桃の時期だな」

「ああ」

買ってくかと桃城が言う前に海堂は二個入りのパックをカゴに入れる いつもなら自分がそうしてるのにと珍しく思ったが、すぐに納得した

「お前桃…あ、『桃』好きだもんな」

ニヤリと笑い、わざと音を変えて言い直す 海堂はチラリと桃城を見て、呆れたように息を吐いた

「白桃のジュースはな」

「何だよ、素直じゃねーな …でも二個じゃ少ないよな、箱で買った方が良いか?」

「お前が全部食いそうだから駄目だ」

「全部は食わねーよ!」

桃城には何度か海堂の分まで食べてしまった前科がある 疑惑の眼差しを向けたが、流石に一箱全部は食べないかと考え直した

「…なぁ、一箱って何個くらい入ってんだ?」

帰ったら通販サイトを見てみるかと思った瞬間、本当に全部食べられるとさっきの考えを撤回した

「懸賞で十箱とか当たらねーかな」

「…そんなにいらねぇだろ」

「夢がねーなぁ、食べきれないくらいたくさんあったら嬉しいだろ?」

家に桃の箱が積まれているのを想像するが、不思議とそんなに魅力的には感じない 一個しかなくても桃城と分けて食べられれば海堂は十分だった

「一生かけても食いきれねぇ桃ならもうあるだろうが」

「…へぇ〜?」

深く考えずに発してから、とんでもない事を言ってしまったと後悔した
忘れろと言って海堂はそそくさと先に進む 桃城は上機嫌で後を追い、滅多に聞けない情熱的な言葉はあえてからかわずに隣に並んだ

「帰ったら剥こうぜ」

「…テーブルに果汁こぼすなよ」

「汁でびしゃびしゃになりながら食うのが良いんだろ」

「良くねぇ、お前は汚い食い方を少しは直せ」

「その汚い食い方が好きなくせに」

「…戻してくる」

「あ! この野郎、図星だからって!」
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