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塩むすび

『塩むすび』

久しぶりに真田さんにめちゃくちゃ怒られた こんなに怒られたのは中学とか高校の時以来で、一緒に暮らすようになってからは初めてだった
俺も頭にきて、あんたなんかもう知らねぇって言ってスマホと財布だけ持って家を出てきた この歳で家出するなんて思わなかった
現金2千円と残り40%のスマホ… 金は電子マネーがあるから何とかできるけどスマホの電池はちょっとヤバい、早いとこ今日泊めてくれる人探さねーと こっから遠くなくて泊まって良いって言ってくれそうな…

「…あ、もしもし柳さん?」

『どうした赤也』

「あー…その、今日ちょっと泊めてもらえません?」

『…弦一郎と喧嘩したのか』

うっ、相変わらず鋭い…

「ま、まぁそんな感じっスかね! 何かテイクアウトして行きますよ!」

『悪いが他を当たってくれ』

「えぇ!? 何でっスか!?」

良いって言ってくれると思ったのに、返事はまさかのNOだった

『忘れたか、俺と貞治は新婚だ』

「もう5年くらい経ってますよね!? いつまで新婚なんスか!?」

『永遠に新婚だ』

うわ、言い切りやがったこの人

「分かりましたっ! でも知り合い全員がダメだったら助けてくださいね!?」

柳さんなら大丈夫だと思ったのにな…次誰に聞こう 丸井先輩達は地元に残ってるからちょっと遠いし、幸村先輩は今海外だし…あ、海堂と日吉は都内だな 先に海堂から聞いてみるか、桃城と同棲してるけど一泊くらいさせてくれんだろ
…出ねーな、ずっと鳴らしてんのに…仕事か? いやでもあいつ土日休みって言ってたよな…お、繋がった

「あ、もしもし海堂?」

『取り込み中だッ!』

…切られた あー…取り込み中って…取り込み中か…後で財前に教えてやろ
次に電話した日吉には秒で断られた 電池残り20% ヤベー、地元組の先輩達に連絡ついても移動途中で落ちそう…腹も減ったし、コンビニで軽食とバッテリー買うかな…

近くのコンビニに寄ってモバイルバッテリーと水をカゴに入れてパン売り場に行ったら、昼過ぎだからかあんまり置いてない じゃあおにぎりにするか…
おにぎり売り場に行ったら白いおにぎりが目に入った 具も入ってないし海苔も巻かれてないただの塩むすびだ 見た瞬間ムショーに食べたくなったそれをカゴに入れて、レジで会計してイートインスペースに向かう 早速バッテリーをスマホに繋いで充電する…危ねー、15%切ってた
充電してる間に腹ごしらえだ パッケージを開けて真っ白い塩むすびを食べる…うん、うん…全然しょっぱくねぇな 数口で食べ終えて水で流し込む
…全然しょっぱくねぇ
少しも充電されてないスマホを掴んで、俺はコンビニを出た


スマホと財布しか持ってなかった俺は自分の家なのにピンポンを鳴らす事になった ドアを開けた真田さんと目が合う 怒られるかと思ったけど、真田さんは特に怒らなかった

「家出はもう良いのか」

「…腹減ったんで」

「米しか無いぞ」

米があって、真田さんがいれば十分だ

「真田さんが作った塩むすびが食べたいっス」

塩掛けすぎてしょっぱくて、テニスボールよりずっとデカくて、握る力が強いせいでちょっと固い、真田さんの塩むすび コンビニの塩分もサイズも控えめな物じゃなくて、あの塩むすびが食べたくなった
真田さんは変な奴だなって感じの顔で俺を見て、「手を洗って待ってろ」って言って俺を家に入れた

「できたぞ」

目の前に塩むすびが乗った皿が置かれる いただきますって言って白くてデカい塩むすびを食べる…しょっぱい、鼻水出るくらいしょっぱい こんなの食べてたら高血圧になっちまう 鼻をすすりながら食べてると、真田さんが正面に座った…と思う 塩むすびも真田さんもボヤけてうまく見えない 瞬きするたびに手がグチャグチャに濡れてく

「…どうして泣いてる」

「ジブリ、の、マネぇ…」

グズグズの顔で食べてたら「そうか」ってボックスティッシュを渡される 何か分かんねーけどそれがダメでわんわん泣いた、泣きながら塩むすび食べた 泣くか食べるかどっちかにしろって言われても、どっちもやめられなかった
しょっぱい
こんなにしょっぱいのに、炊飯器が空になるまで食べて、またちょっと怒られた
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