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思春期100%

『気が気じゃない』

弁当を片付けた海堂が部室を出ると一年生の賑やかな声が聞こえてきた後輩と話している人物を見て海堂は反射的に足を進める

「桃ちゃん先輩のダンクスマッシュって、ホントに男子でも取れないんですか!?」

「当然! 海堂のラケットだって弾いたからな!」

「あれは手が滑っただけって言ってんだろうが」

「あ、海堂先輩」

「よっ、海堂」

おつかれ、と桃城が軽く手を上げた

「いつまでも一年の時の話を引きずってんじゃねぇ」

「そんな事言って今でも取れないんじゃねーの?」

「あ? 取れるに決まってんだろ」

「腕相撲7連敗してる奴が取れるわけねーじゃん!」

「腕相撲とテニスは違うだろ!」

目の前で始まった喧嘩に一年トリオが後退る 顔を見た瞬間怖がられる海堂(実際怖い)とよくここまで言い合えるものだと感心しながら、このまま続けられるのはまずいと顔を見合わせ、何とか流れを変えようとする

「お、俺達桃ちゃん先輩のダンクスマッシュ見てみたいなぁ!!」

「そ、そうだね! フリで良いから見てみたい!」

「ね、リョーマくん!」

「え、俺は別に…まぁ見ても良いけど」

圧を受けて越前も話を合わせる 後輩から期待の眼差しを受けて、桃城は言い争いをやめて気恥ずかしそうに笑った

「な、何だよ! そんなに言われたらやらないわけにはいかねーなぁ、いかねーよ!」

バッグからラケットを出し、気合が入ったのかいそいそとジャージを脱ぐ 単純な奴だと海堂が思った瞬間、その思考がかき消された
ジャージの下に着ていたピッタリとフィットしたTシャツのせいで、ボディラインがこれでもかと言うほどクッキリハッキリ浮き出している ひえ、と後ろから聞こえた微かな声に嫌な予感がした海堂が振り向くと、こちらを見ていた二年生の部員が慌てて目を逸らした
今すぐジャージを着させてやりたいが、そんな事を言ったら絶対理由を聞かれる 言えない 言えるわけがない 言ったら自分が桃城を意識してるみたいだ、そんな事は断じてない そこまで暑くないのに海堂は汗が止まらなかった

「じゃあ行くぜ、相手がロブで返してくるだろー…あ、危ないからちょっと離れてろよ」

一年生達が一歩下がったのを確認し、桃城が跳躍する 空中で勢いよくラケットを振り下ろし、軽快に着地をした

「って感じだな! 今度女子テニス部のコートに来いよ、ボール使って見せてやるから!」

すごいすごいと一年生が目を輝かせる横で、海堂は再び振り返って見ていた部員達を睨む
確かにフリだけでも跳躍力やパワーが上がっているのは分かった 分かったが、それ以外のところもいろいろと分かってしまった
腕を上げた事でTシャツが持ち上がり引き締まった腹部が見え、ショートパンツの裾もひらめいて筋肉質な太ももが付け根まで見えそうになっていた それだけでも思春期にさしかかった男子に優しくないのに、重力に従って揺れる胸はそれはもう本物のダンクスマッシュ並みの破壊力だった 一周回って重くないのかと冷静になってしまう程だった

「なぁ海堂、今度久々に打たねぇ? あたしのダンク取れなかったらパフェ奢りで」

お年頃の男子の気持ちなどこれっぽっちも気付いていない桃城はジャージを着ながら海堂に声を掛ける

「ふざけんな、何で俺が」

「何だよ、もしかして自信ねーの? そうだよな、レギュラーの海堂くんが取れなかったら恥ずかしいよな〜?」

「…上等だ、空いてる日教えろ」

「明日は?」

「午後なら空いてる」

「じゃあ部活終わったら時間決めるから連絡してよ」

二人は全く気付いていないが、そのやり取りはデートの約束にしか見えない 目の当たりにした一年生達は、やっぱり二人は付き合ってるんだな、すごいな海堂先輩のどこが良いんだろう、と悪気が一切無い純粋故の失礼な考えが浮かぶ 
付き合ってないのに


「…あ、休憩時間に邪魔して悪かったな、そろそろ帰るわ」

「桃先輩、今度俺とも打ってよ」

「おー、じゃあ今度みんなで打とうな!」

その時! 都合よくコロコロと転がってきたテニスボールが桃城の足元に滑り込む!

「あ」

捻挫するかも、とやけに冷静に考える バランスが崩れた瞬間、誰かに腕を引っ張られた 見慣れた三色でそれが誰かはすぐに分かったが、引く力が強すぎて二人は地面に倒れ込む

「ッ、海堂、大丈夫か!?」

桃城が目を開けると、仰向けの海堂に覆い被さるような体勢になっていた 海堂が下にいたのと頭を抱え込むように腕を回したおかげでほとんどダメージは無い

「バカが…足元よく見ろ…!」

「わりー、ありがとな…怪我してないか?」

「…け」

「え?」

「どけ…」

「でもお前、怪我は?」

「平気だから早くしろ!」

「そっ、そんなに重くねーだろ!?」

重くはない、重くはないが海堂からすると別な意味で大変だった 転びそうな桃城を見た瞬間反射的に体が動き、抱き込むような体勢で地面に倒れ込んだ 幸い土の上で倒れ方も良かったおかげで特に痛めた場所はない そこまでは良かった
ずっしりと乗っているのだ、胸が
腕相撲こそ桃城に勝てないが海堂は日頃から部活以外でも鍛えている、女子の中では筋肉質な部類の桃城に乗られたところでそこまで重く感じない
ただし胸、お前は別だ
むに、と押し付けられた柔らかくて弾力のある部分がとてつもなく重く感じる 上半身が持ち上がって離れたと思った瞬間、脱力して再び押し付けられる 離れろと乗っている桃城を見ればTシャツの襟元から谷間が見えてしまってめちゃくちゃ後悔した
年頃の女子なのにどうしてこの体勢に動じないのか、それとも自分が気にしすぎてるだけなのか 海堂には分からない とりあえず桃城には早く降りてほしかった
しかし海堂は不幸のフルコンボを体験する事になる

「お、俺部長達呼んでくる!」

「呼ばなくて良い!」

「荒井先輩、そんなとこで見てないで手伝ってください!」

「見せモンじゃねぇぞ!」

「乾先輩連れて来たよ!」

「いっ…!」

「海堂と桃城さんが転んだって聞いたんだが…余計なお世話だったかな」

「あ、乾先輩! 海堂の様子おかしいんスよ!」

「海堂と桃がハデに転んだってマジ!?」

「怪我はしてないのか!?」

何一つ事態が良い方向に行かない 近付いてくる大石達の声を聞きながら、海堂はいつまで桃城は上に乗ってるんだと現実逃避した


「…か、海堂」

「…何だ」

「その…や、柔らかかったか…?」

部活が終わった後、じゃんけんに負けて聞きに行かされた荒井は海堂に本気で睨まれた
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