思春期100%

『誕生日』

雑貨屋に来た海堂は三十秒おきに「来るんじゃなかった」と後悔していた 若い女性が多い店内に男一人なのは自分しかいない 睨むように商品を見てるからか店員がチラチラと様子を伺ってるのが余計に気恥ずかしい

来週は桃城の誕生日だ、自分の誕生日にバンダナを貰った海堂は何か返さないと気が済まなかった 最初は近所のケーキ屋で焼き菓子の詰め合わせを贈ろうと考えていたが、日用品の方が長く使えて便利だろうと普段なら足を踏み入れない店に来てしまった
部活の時に使えるような物はないかとヘアアクセ売り場を眺めるが、どれもピンとこない ゴムは使わないだろうし、クリップのような物を使っているのも見た事がない、ヘアバンドもテニスをする時につけるには弱そうだ これを贈るくらいならバンダナを贈った方がまだ使われそうな気がする

…バンダナ

思い立った海堂は店を出てスマホを取り出す 単語を打ち込んで検索すると知りたい情報はすぐに見つかった これなら納得いく物が渡せる気がする スマホをしまい、別な店へ向かった



「…桃城」

帰り道、ふいに隣を歩く桃城を海堂が呼び止めた 桃城が見上げるといつも以上に険しい顔で黙っている そっちから呼んだのに何だと見つめていると、海堂はバッグから取り出した紙袋を控えめに押し付けた

「…やる」

「ん? 何?」

「…っ、誕生日だろ…」

キョトンとした桃城が誕生日、と繰り返す 受け取った紙袋と海堂を交互に見て、数秒後に理解し紙袋の端を思わずくしゃりと握った

「あっ、え、プレゼント!? 嘘、お前が!?」

「悪いか」

「や、だって覚えてるなんて思わなかったし…」

「…貰いっぱなしは性に合わねぇ」

「そっか…サンキューな!」

照れくさそうに笑って開けて良いか聞く桃城に、好きにしろと海堂は返す 紙袋を開くと、中には焼き菓子の詰め合わせが入っていた

「すげー、おいしそー!」

「おい、食うなら家でゆっくり食え」

封を開けようとする桃城をすかさず海堂が咎める

「何だよ、ケチだな」

「歩きながら食うのは行儀悪いだろうが」

しかし海堂の意見は間違いではない 仕方なく焼き菓子の包みを戻した時に指先にサラリとした物が当たる 何かあるのかと掴んで引っ張り出すと、紙袋の底に隠れるように入っていた物はトリコロールカラーのヘアバンドだった

「あ、ヘアバンド! ちょうど新しいの買おうと思ってたんだ!」

「強く引っ張るなよ、造りがそんなに丈夫じゃねぇ」

「ワケあり品?」

「…俺が作った」

納得いく物が見つからないなら作れば良い 雑貨屋を出た海堂はヘアバンドの作り方を調べ、生地に使えそうな布を探しに店を回った
出来栄えは悪くなかったが、強度だけが不安だった 太い糸を使い、縫ってる途中で何度か引っ張って確かめたが、桃城の力なら糸が千切れてしまうかもしれないという失礼な懸念があった

「えっ、海堂が作ったの!?」

信じられないと言うように詰め寄られ、海堂はたじろぐ もしかして手作りは嫌だったかと悪い予感が頭をよぎる

「すげー、売り物だと思った! お前器用だな!」

「…おう」

嫌がられるどころか目を輝かせて褒められ、それはそれで落ち着かない ソワソワしている海堂をよそに、桃城は手に持っていたヘアバンドをつけた いきなり糸やゴムが切れた様子はなく一安心する

「…どう?」

「…悪くはねぇな」

掠れた声で海堂は呟く 店で布を見た時から確信していたが、青学の象徴とも言える三色は桃城によく似合っていた
そう思ってしまった自分を恥じるように前を向いた海堂は、隣を歩く桃城が満足げに微笑んでいた事に気付かなかった
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