思春期100%

『オープン』

桃城は後ろで腕を組んで肩甲骨を寄せるように上げる んん、と息を吐いて体をほぐしていると、急に開放感が訪れた
胴体の締め付けが解かれたような感覚に何があったのかと考えていると、するりと何かが肩の上を滑った

「…あ」

バッと背中に手を当てる 無い 肩甲骨の真下に普段ならあるはずの段差が無い 慌てて付近を指で探ると少し離れた位置にそれはあった

「どうした」

モゾモゾと手を動かしていると隣を歩く海堂が声を掛けてきた

「や、その、何でもない!」

「…また忘れ物したのか」

「あ、あぁ、そう! ノート忘れてきた!」

「だらしねぇ奴だな」

興味が失せたのか海堂が視線を前に戻す バレない内に制服の上から片手で直そうとするが上手くいかない ずれて肩から落ちそうになっているストラップを直しながら、やっぱり服の中に両手入れるしかないなと考える

「肩痛めたのか」

思わず指を離してしまい、パチンとストラップが肌を打った 怪訝そうに見下ろしている海堂を桃城は睨む

「バカ、こっち見んなよ!」

「ああ!? お前の様子が変だから言ってんだろ!」

喧嘩腰なのは気に入らないがこのまま誤魔化しきれそうにもない 下着の話をするのに全く抵抗が無いと言ったら嘘になるが、相手は海堂だ どうせ互いに異性だと思ってないのだしと正直に告げる

「…ブラ外れた」

「…は?」

ポカンとしている海堂を見て、ああと桃城は手を叩いた

「そっかお前知らないのか、ブラは後ろにホックがあってそれで留めてんだよ 今そのホックが外れてんの」

勉強になったろと得意げに言えば、事態を理解した海堂が分かりやすく動揺する

「バカか! 何で平然としてんだ!」

「いや結構焦ってるよ…ってワケで直すからちょっとあっち向いてろよ」

だが背中側から服の中に入れようとした手は海堂に掴まれた

「道端で何してんだ!!」

「じゃあ道端で完全に外れたらどうすんだよ!」

肩を動かしたせいで再びずれたストラップを襟元から手を入れて直す チラリと見えたピンク色の紐に海堂は言葉を詰まらせ、慌ててバッグからジャージを出した 近くに人が居ないのを確認し、桃城の肩にジャージを掛ける

「…終わったら言え!」

道路側から隠すように背中を向ける 桃城はパチパチと瞬きをして、こいつはブラのホックを留めるのをどれだけ重作業だと思ってるんだと呆れながら服の中に手を入れる

「別にちょっと向こう見ててくれればすぐ直せんのに」

「お前には恥じらいってモンがねぇのか…」

「失礼な奴だな…はい、終わった」

ぴく、と肩が跳ねたが海堂は振り向かない ホントに終わったよと改めて伝えれば安堵したように息を吐いて振り返った

「すぐ直せるって言っただろ…ほら、ありがとな」

桃城は肩に掛けられたジャージを掴み、できるだけ丁寧にたたんで返す

「やっぱスポブラの方がズレなくて良いなぁ…あ、お前スポブラ知らないよな、運動用の下着なんだけどさ」

ジャージをバッグにしまう海堂の手が止まった 睨むように桃城を見るが当の本人は文句を言う気が失せる程ケロリとしている 深くため息をつき、少しで良いから恥じらいを持てとボソリと呟いた
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