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上の階のお兄ちゃん

『うちの新品のフライパン』

フライパンが多めに油をひいても焦げつくようになった そろそろ換え時だと話し合い、休日にフライパンを新調しにショッピングモールに行く

「これにするか」

「ああ」

キッチン用品売り場の一際目立つ場所に並べられていた、少ない油で調理ができるという謳い文句のフライパンを手に取る 軽くて深さがあって値段もけして高くない 海堂がレジに行こうとすると、桃城が腕を掴んで止めた

「なぁ海堂」

「何だ」

「これで羽根付き餃子焼いたら最高じゃねーか?」

二人は顔を見合わせる

「ひき肉残ってたな」

「まだある、あとキャベツも」

「…ニラと餃子の皮買って帰るぞ」

「あとビールも買ってこうぜ」

フライパンを買った後に食料品売り場へ向かう 餃子に必要な食材と缶ビールを買い、帰宅した

…そこまでは良かった
ビールを冷蔵庫に入れ、炊飯器をセットし、餡を皮で包んでいたら、包み方で喧嘩になった 居間と台所に分かれ、お互い一言も喋らずに作業をする
台所で作業していた海堂が最後の一つを包み終えると、ちょうど桃城も包み終わった餃子を持ってきた 無言で調理台の空いてるスペースに皿を置いてまた居間に戻る その後ろ姿に特に何も言うわけでもなく、海堂は軽く洗ったフライパンをガスコンロに乗せた

火を点け、少し考えてから包み方が違う餃子を並べ、水で溶いた小麦粉を流し入れて蓋をする 数分蒸し焼きにしてから蓋を開け、鍋肌に沿うようにごま油を回しかけた
パチパチと油が跳ねる音を聞きながらフライパンを見つめていると、白かった部分が茶色くカリカリに焦げていく 割らないように慎重にフライ返しを餃子の底に差し込もうとして、海堂は手を止めて振り返った

「桃城!」

「な、何だよ!」

「早く来い!」

桃城が戸惑いながら台所に来る 海堂はフライ返しを渡し、フライパンの取っ手を桃城の方へ向けた

「やってみろ」

「はぁ? そんなの自分で…!」

羽根とフライパンの間にフライ返しを入れて剥がそうとする前に、スルリと餃子が滑った

「うそ、マジで!? 油は!?」

「少ししか使ってねぇ」

「すげー! 全然くっついてねーじゃん!」

桃城がスルスルと滑る餃子に感動してフライパンを揺すっている間に海堂が火を止める フライパン係を交代し、餃子の上に皿を被せてひっくり返すと、こんがりと焼けた羽根の面が上を向いた
おお、と声が揃った直後に炊飯器から炊飯完了を知らせる音が鳴る 途端に空腹感が増し、餃子が冷めない内にと急いで食事の準備を進める

餃子の皿を囲むように炊きたてのご飯と冷えた缶ビールをテーブルに並べ、二人が席につく いただきますと手を合わせるとすぐに箸を持ち、餃子に狙いを定めた
箸の先を羽根に乗せて押し込むとパリン、と軽快に割れる 酢醤油に軽く付け、白米の上に一度乗せてから口に入れた 噛むたびにサクサクと羽根が崩れ、野菜の甘さと共に肉汁が染み出す 堪らず白米を掻き込んだ

「…うっま! ヤバい、すっげーうまい!」

「米多めに炊いて正解だったな…」

米と餃子を食べる手が止まらず、ビールに殆ど手を付けないまま茶碗と皿が空になった
次は自分が焼いてくると桃城が皿を持って台所に行く 海堂はテーブルに唯一残ったビールを飲んでいたが、二、三口飲んで立ち上がる 桃城の分の缶を持って台所へ向かった

「何だよ、待ってれば良いのに」

「お前に焼かせるとつまみ食いで半分無くなるだろ」

「生焼けのは食わねーよ!」

受け取ったビールを調理台に置いて、フライパンに蓋をする

「早く焼けねーかな」

フツフツと水分が飛ぶのを待ちながら桃城は髪を結び直した
海堂も短く同意する
露わになった首筋を眺め、火を使っていなければ今すぐ噛みついていたのにとボンヤリ思った
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