隣の部屋のお姉さん

新生活に精一杯で気付かなかったけど、どうやらお姉さんは低い声のお兄さんと一緒に住んでるらしい 交代でゴミ出しをやってたり、一緒に出かけてるのを何度か見かけたから仲は良いんだと思う…たまに喧嘩してる声が聞こえるけど

人当たりの良いお姉さんと、挨拶はしてくれるけどちょっと怖いお兄さん 何で一緒に住んでるんだろう、どんな関係なんだろう 兄弟ではないし、友達…にもちょっと見えない 何にしてもお姉さんにおはようとかおかえりとかおやすみとか言ってもらえるなんて羨ましい


まだ6月なのにひどく暑い夜だった 網戸から入ってくる風が無かったらすぐにエアコンのリモコンに手を出してるくらい暑くて全然寝付けない 明日は燃えるゴミの日で、しかもお姉さんが当番の日なのに…
ガラガラと窓を開ける音が外から聞こえてきた 隣の部屋も網戸にしたのかな

「あっつ…」

ペタペタとサンダルみたいな音と一緒にお姉さんの声が聞こえてドキッとする
隣のベランダって思ったより声が聞こえるんだ…音を立てないように息をひそめ、体をちょっとだけ窓の方に寄せる

「おい、何か着ろ」

「すぐ戻るから大丈夫だって」

…えっ、まさかお姉さん今服着てない? いやいやいや、そんな事はない、きっとパン一とかだ、そうに違いない… 外を覗きたい気持ちを必死に抑えていると、サンダルっぽい音がもう一つ お兄さんも外に出たんだな、良かった、これで確実に自制できる

「明日どうする?」

「…何かあるか」

「俺あれ食べたい、煮豚」

「肉ねぇだろ」

「お前の為に買っといてやった」

「バカ、自分が食いたいだけだろうが」

いつもの殺し屋みたいな声からは考えられないくらいお兄さんが優しい声を出してる すごい、そんな声を出させられるお姉さんがすごい

「…半日掛かるぞ」

「良いって、明日は家に居ようぜ」

ちょっと甘える感じでそんな事言われたら俺は毎日でも家に居られる 
良いなぁ、お兄さんは良いなぁ…お姉さんと一緒に暮らせるなんてホントに羨ましいなぁ…

「最近ご無沙汰だったろ」

…ん? ん? んん? え、あれ、お姉さん何て言った? 今…あれっ?
すぐそこに二人が居るのも忘れて飛び起きてしまった 幸いお姉さん達は同じタイミングで部屋に戻ってたけど、けど、ちょっと待って、ご無沙汰って何
落ち着け、深呼吸して素数を数えて落ち着け…ほら、ゲーム! ゲームかもしれない! 忙しくて全然ゲームやれない時期ってあるから! きっとそうだ、そうだよねお姉さん!?
…その日俺の枕は汗でも涎でもないもので濡れた


目覚まし時計を止めてゴミ出しの準備をする 体が重い…寝てるのか起きてるのか分からない状態が一晩中続いてた でも昨日のアレは…多分夢だろう 願望とか何かがいろいろ混ざってあんなリアルな夢を見たんだろう
そうだよな、確かにお姉さんはエロ漫画みたいな雰囲気だけどお兄さんとそんな関係だったらまるっきりエロ漫画じゃないか お姉さんとお兄さんがあんな事やそんな事…いや…いやいや…いやいやいや…

「こんちは、暑いっスね!」

やらしい…じゃない、やましい事を考えてたらお姉さんに挨拶されて心臓が飛び出るかと思った 会えたのは嬉しいけど今日はタイミングが悪かった 挙動不審になりそうなのを頑張って隠して挨拶を返す

「こ、こんにちは! ホント暑いですね!」

「このアパート日当たり良いから、熱中症気をつけてくださいね」

「あ、ありがとうございます!」

お姉さんと会話してしまった スキップしそうなくらい嬉しい こんなただの隣人と笑顔で会話してくれるなんて…
髪を上げてるのも良いなぁ、首周りが見えて…み、見えて…
お姉さん、首に、赤いものが
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