このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

ポッキーゲーム

「赤也、起きろ赤也」

肩を揺すられて切原が目を覚ます 全く開かない目で窓の方を見るとまだ薄暗く、スマホのスリープを解除すると早朝と呼ぶにも早い時間だった

「な…何スか柳さん…まだ四時前っスよ…真田副部長しか起きない時間っスよ…」

「これから攻め受け対抗ポッキーゲーム合戦が始まるぞ、お前が起きないと人数不足で攻めチームの不戦敗だ」

「そんなの朝っぱらからやんなくて良いじゃないスか、夜やりましょうよ…」

もぞもぞと布団の中に切原が戻る 赤也、と柳が呼んでも出てこない

「まだ寝ているのか!! 早く起きんか赤也ァ!!」

「すいませんっしたァ!!」

とばっちりで財前と日吉まで飛び起きる羽目になった


「…えー、始まりました、攻め受け対抗ポッキーゲーム合戦…司会進行は日吉若と…」

「財前光がお送りします…何で俺らがこないな事しとんの…」

同室というだけで巻き込まれた二人が目をシパシパさせて台本を読む 二人どころかほぼ全員目が開いていない 朝稽古で早起きに慣れていても事前予告無しの四時前強制起床に日吉は欠伸をかみ殺す

「仕方ないだろう、審判が居ないんだから…見ろ、真田さんと柳さん以外寝てるんだか起きてるんだか分からないぞ」

「いや柳さんも分からんわ」

「桃城は髪をセットする時間すら貰えなかったから誰か分からないし切原の寝癖も悲惨だ」

「乾さん絶対寝てるやろ、ヘドバンしとるで ホンマにやるん?」

「やるから俺達まで巻き込まれてるんだ…
それでは一回戦、切原対真田さん、両者前へ…」

唯一パッチリ目が開いている真田とまだ半覚醒の切原が対峙する

「まさか真田副部長とポッキーゲームできる日が来るなんて思わなかったっス…」

「…ところで赤也、ポッキーゲームとは何だ」

「知らないのに俺を叩き起こしたんスか!?」

一瞬で切原の目が覚めた 突然の大声に司会の二人がうるさそうに眉間に皺を寄せる

「ポッキーで競う勝負とは聞いている」

「ポッキーゲームはキスができるゲームっス!!」

「何!?」

「正しくはポッキーの端と端を二人で咥えて食べ進めていって先に折った方が負けという勝負だ」

圧倒的に言葉の足りない説明に柳が補足する

「違うではないか!」

「じゃあどっちも折らなかったらどうなります!?」

「二回戦か?」

「早い! 結論が早い! そうじゃなくて、ポッキーが無くなったらどうなりますか!?」

「…二回戦か!」

「キスっスよ! 両端から食べてくんだからキスしちゃうんスよ!」

「切原やかましい」

「その場合どちらの勝ちになる?」

「…二回戦じゃないスか?」

二人は二回戦の呪縛から抜け出せないままポッキーを咥えた 司会の覇気の無いヘロヘロとしたスタートの号令に、先に切原が仕掛けた サクサクと軽快に食べ進め、一気にリードする

「(この勝負俺がもらった!)」

合法的にキスができる
片手で数えられる程度しかキスをした事がない切原はそれはもう本気だった
意気込みすぎてポッキーの欠片が喉に直撃し戦闘続行不可能になり、受けチームが一勝をあげた


「何やってんだテメーは」

「負けはいけないな」

「だってポッキーが!」

カスッカスの声で反論するが負けた事に変わりはない

「次の勝負を落とすと攻めチームの負けが決まる、行けるな海堂」

「っス」

「え、海堂に行かせるんスか、絶対負けますよ」

「俺が桃城に負けるわけねぇだろ」

「お前が桃城に勝ってるトコ見た事ねーよ、俺達の中で一番ヘタレだろ!」

「一番はテメーだろ!」

どんぐりの背比べだと柳は思った


「二回戦…海堂、対…桃城…」

「起きろ財前…寝るな…」

比較的意識のある日吉が桃城にポッキーを渡す 桃城は今にも閉じそうな目を擦り、ん、と咥えたポッキーを海堂に向けた チョコの掛かっていないプレッツェル部分を海堂が咥えたのを確認し、再びヘロヘロな合図で試合が開始する
短時間で決着が着いた切原・真田戦とは打って変わってゆっくりとポッキーが減っていく 桃城が半分夢の中という事もあるが、それ以上に海堂の進みが圧倒的に遅かった

「柳さん! 海堂の奴まだチョコの部分に行ってないっス!」

「まさか海堂がトッポ派だったとは…」

「ただ単にあいつがヘタレなだけっスよ!!」

「うるさいぞ切原」

短くなるポッキー、縮まる距離 海堂の唇はチョコに触れないまま、桃城の唇に触れそうになる
耐えきれずに海堂は桃城の肩を掴んで止め、自らポッキーを折った

「…かいど、なにしてんだ…?」

「何でもねぇから寝てろ…!」

一瞬意識が浮上するも頷いた僅かな時間でまた夢の中に戻る 傾く桃城の体を咄嗟に受け止めた海堂だったが、不安定な体勢はどんどん崩れていき、真田が助けに入るまで半ブリッジ状態で桃城を抱え続けた


「…さて、次は俺の番か」

「柳さん、受けチームの勝ちなので試合終了です…あと乾さんずっと寝てます」

「…いや、起きてるよ…寝てない確率百%…」

むにゃむにゃしている声が無くとも寝ていた確率百%だった

「五秒で終わらせるから俺と貞治もキスさせてくれないか」

「誰もキスできてないですけど」

「というか好きにやったらええやないですか」

「それもそうだな、行くぞ貞治…貞治…?
ね…寝ている…!」

「ずっと寝てましたよ」
1/4ページ
スキ