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三千世界の蝮を殺し

因縁の対決のような雰囲気を出しているが、本人達以外敵対心の理由が分からないまま忍足対海堂の試合が始まる。

「跡部さん、忍足さんどうしたんスか?」

 桃城は唯一事情を知っていそうな跡部に声を掛けた。

「お前がママになったのが気に入らないらしいぜ、俺はめでたいと思うがな」

「そんな話してな…いやしたな!」

「なるほど、しばくの確定じゃねーの」

 桃城は昨日の放課後、部活を見に来た乾との会話を思い出す。

「桃、副部長の一番の仕事は部長のフォローだよ。海堂は口下手なところがあるから頑張れ」

「えー、俺がマムシのフォローっスかぁ?」

「二代目青学の母か…桃ちゃんママと呼ばれる日も近いかな」

「桃ちゃんママ!?」

 青学の母の大変さはよく知ってる、それを自分が受け継げるだろうか。不安になった桃城は電話をかけた。

「あ、もしもし忍足さん? 桃城なんスけど…何か俺…ママになっちゃって…」

 その時『青学の』とは言ってない気がする、恐らく言ってない、いや間違いなく言ってない。
 つまり、それが原因だ。

「俺が青学の母になれるか不安って相談しました!」

「なるほどそれじゃねーの!」

 謎が全て解けた。激しい打ち合いをする忍足の誤解を解く為に二人は叫ぶ。

「忍足さーん!! 誤解ですー!!」

「桃城はママにならねーぜ! 母になる!!」

「変わらへんわ!」

 跡部も桃城も誤解を解くのが下手くそだった。

「ちゃんとママになれるか分からんて辛そうに言われた俺の気持ちがお前に分かるか!?」

「分かるわけねぇだろうが! 大体何で口出しされなきゃいけねぇんだ!」

 忍足は桃城にとって二度試合をした他校の知り合いだ。友人でも昔からの仲でもない、少し交流がある程度の知り合いだ。
 それだけの人間が口を挟むな、と思う海堂の気持ちはわかる。それでも忍足は桃城に関する事は見過ごしたくなかった。

「するに決まっとるやろ…」

ーあの目が俺を灼いたから。
 濁った衝動と胸を締め付けられるような感情を気付かせた陽射しが陰ってほしくなかった。
 あの眩しさを失いたくなかった。
 笑っていてほしかった。
 届かなくて良いから。
 俺が照らされなくて良いから。
 ただ、桃城が。
 あの日俺を見た桃城が。

「桃城が幸せになるなら何だってしたるわ!」

ーふざけるな。
 幸せになるならなんて、そんな半端な考えで口出しするな。
 あいつが俺の隣にいた。
 俺を立ち上がらせた。
 桃城がいれば、俺は。
 だから。
 俺が、桃城を。

「桃城を幸せにするのは俺だ!」

 その場にいた殆どの視線が真っ赤になってる桃城に集まる。試合をしてる二人は当然そんな事気付きもせずに球と言葉のラリーを続けた。

「そないな事言うてホンマにできるんやろな!?」

「海堂薫をナメんじゃねぇ! あいつは俺が…!」

ー借りは必ず返すと決めた。
 たとえ一生掛かろうと。
 絶対に、俺が。

「地獄の果てまで追い詰めてでも幸せにしてやる!」

「全ッ然幸せにする気ねーだろ!」

 告白という名の公開処刑に耐えきれなくなった桃城の乱入ダンクスマッシュで試合は無事中断された。



「青学の母」

「すいません、俺がちゃんと言わなかったから…」

「いや早とちりしてもうたんは俺や…堪忍な」

 気まずそうに真相を教えられ、忍足は心を閉ざす。今日の暴走の数々を冷静に思い返すとポーカーフェイスの維持が難しい程にいたたまれない。

「…まぁ、また悩んだらいつでも言ってや」

「忍足さんは何で俺にそこまでしてくれるんスか?」

 その問いかけに試合中剥き出しにしてしまった心は読まれたのだと察した。こんなにも焦がれていると知った上で理由を理解できない辺りがどうしようもなく愛おしい。

「何でやろなぁ」

 自分で考えてみ、と曖昧に笑った。
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