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三千世界の蝮を殺し

 部屋に着信音が響く。忍足がスマホを見ると他校の後輩の名前が表示されていた。

「桃城?」

 一勝一敗の因縁浅からぬ関係且つ、たまに一緒に出かける仲になった他校の後輩とはメッセージアプリでやり取りをする事が多く、電話をするのは滅多にない。急な話だろうかと画面の応答をタップする。

『あ、もしもし忍足さん? 桃城なんスけど』

「どないしたん、自分が電話なんて珍しいやん」

『えっと、ちょっと相談があるって言うか…』

「相談?」

 いつもは音量を抑えてくれと頼んでいる声は今日はやけに静かだった。

『何か俺…ママになっちゃって…』

「ママ」

 耳を疑った。思わず聞き返すと「はい」とすぐに返って来る。

『でも俺、ちゃんとママになれるか不安で…』

 氷帝の天才と呼ばれる忍足でもこの状況には理解が追いつかない。半ば放心状態で大丈夫やからな、俺で良ければいつでも相談乗るで、と伝えるのがやっとだった。
 電話を切って深呼吸をする。
 今のは全部夢だったのか。違う、桃城は本当に辛そうだった。間違いなく現実だ。

「あいつか…」

 不器用で目つきの悪い男の顔が浮かぶ。桃城の話を聞くたびに素直になれない奴だ、可愛いものだと思っていたが撤回する。

「…いっぺんしばかな気が済まへんわ」
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