ツイログ72
『シスコンの彼氏』一家薫×同級生桃城
隣の部屋のドアが開くのと同時に桃城は背を押され、目の前の部屋に押し込まれた。何すんだと言う前にドアを閉められる。
「姉さん、ただいま」
「おかえり! 友達来てんの?」
姉さん。薫の口から一日最低十回は出てくる言葉だ。顔が怖くてストイックで冗談が通じない彼が何より大切にしている姉。俺の姉さんは美人でかわいくて優しいと自慢するのに桃城達が顔が見たいと言われると毎回「絶対姉さんに惚れるから見せねぇ」と睨んでくるので、誰もその姿を見た事がない。
そんなベールに包まれた姉がドアを挟んですぐそこにいる。何度か薫の家に遊びに来たが姉と遭遇するのは初めてだ。桃城は好奇心を抑えられず、気付かれないようにドアをほんの少しだけ開ける。
「同じ部活の桃城、テスト近いから家で勉強する」
「あー、桃城くんね! じゃあ挨拶しなきゃ、うちの薫ちゃんがお世話になってます〜って」
「いいよ、俺から言っとくから…」
恥ずかしいからやめてくれと言う声は「俺の姉さんに近付く男は許さん」と呟く時と全く違った。あの薫がかわいい弟を演じてる。こんなに猫を被るなんて一体どんな姉なんだと桃城は隙間から覗き、息を呑んだ。
「今日は見逃してあげるけど、今度来た時は絶対挨拶するからな。じゃ、勉強頑張れよー!」
「姉さんは?」
「切原が新しいゲーム買ったんだって、ちょっと借りてくる!」
「…年頃なんだから気安く男のところに行くなよ」
「あははっ、切原なんか男子の内に入らねーって! お姉ちゃんがかわいいからって心配しすぎだぞ! いってきまーす!」
他人の空似という言葉が頭の中にハッキリと浮かぶ。薫の愛する桃子姉さんは、桃城によく似ていた。
「…お前の姉ちゃんってさぁ」
「俺の姉さんが何だ」
ナチュラルに「俺の」を付けるのにも慣れたが、今の桃城としては穏やかな気持ちでは聞いていられなかった。それもこれも目の前にいる薫という男子は、友人以上の好意を自分に向けているのだ。ハッキリと言われたから間違いではない。桃城もそれを受け入れたところに薫にとっての世界チャンピオンの正体を知ってしまったら、誰だって動揺する。
「…何か俺と似てね?」
「そんなわけねぇだろ」
「いやどう見ても似てるだろ!? 他の家族に聞いてくる! すいませーん、薫の母ちゃーん!」
ドアを開けて廊下へ声を掛けるとはーいと母の返事が聞こえ、薫は急いで桃城を部屋に引き戻す。何でもないと告げて薫が戻ると、釈然としないというような表情で桃城がこちらを見ていた。
「お前がヤベーシスコンなのはまぁ良いけど、流石にさぁ…姉ちゃんの代わりにされんのは気分良くねーぞ…」
「誰もそんな事言ってねぇだろ。たしかに雰囲気は少し似てるかもしれねぇが…お前は姉さんの代わりにならねぇし、姉さんだってお前の代わりにはならねぇ。大体本当に代わりだと思ってたらもっと態度に出してるだろ」
「…まぁ、そーだな」
あれだけ「姉さん最高、兄貴は知らん」と毎日のように言ってる薫だ。仮に桃城を姉の代わりにしていたらそれはもう大事にする筈だ。しかし実際は遠慮がないと言うか、良い意味で雑に扱われている。
「…良いか、人間の中ならお前が一番好きだ。だが人間は自然には勝てねぇ」
「お前の姉ちゃん自然枠なの?」
「まぁ…太陽くらいには」
「分かった分かった、太陽に勝とうと思った俺が悪かった」
ここまでくると張り合うのも馬鹿馬鹿しいし、何より人間の中では一番という一言で桃城の機嫌は回復してしまった。自分はこんなにチョロいのかと少し恥ずかしくなる程で、それを誤魔化そうと持ってきたバッグを開ける。
桃城の機嫌が良くなったと察した薫も教科書やノートを机に広げた。口にはしなかったが、桃城は姉に勝ちたかったのかと内心驚いた。薫にとって二人は完全に別枠で比べるものではなく、どちらが上だなんて考えた事がなかった。たしかに姉は大切だ、世界で一番の自慢の姉だ。だがそれは尊敬や家族愛という枠組みの話であって、キスやハグやそれ以上の事をしたいとは思わない。愛し合いたいと望んでいるのは桃城だけだ。
「お前が好きだ」
急に言いたくなって、薫はポツリと呟く。
「太陽より?」
「太陽よりもだ」
真剣に言うと、ふーんと桃城は素っ気なく返す。信じてないのかと薫が思ったのは一瞬だった。好きな人の表情を読めない程鈍い男ではなかった。
隣の部屋のドアが開くのと同時に桃城は背を押され、目の前の部屋に押し込まれた。何すんだと言う前にドアを閉められる。
「姉さん、ただいま」
「おかえり! 友達来てんの?」
姉さん。薫の口から一日最低十回は出てくる言葉だ。顔が怖くてストイックで冗談が通じない彼が何より大切にしている姉。俺の姉さんは美人でかわいくて優しいと自慢するのに桃城達が顔が見たいと言われると毎回「絶対姉さんに惚れるから見せねぇ」と睨んでくるので、誰もその姿を見た事がない。
そんなベールに包まれた姉がドアを挟んですぐそこにいる。何度か薫の家に遊びに来たが姉と遭遇するのは初めてだ。桃城は好奇心を抑えられず、気付かれないようにドアをほんの少しだけ開ける。
「同じ部活の桃城、テスト近いから家で勉強する」
「あー、桃城くんね! じゃあ挨拶しなきゃ、うちの薫ちゃんがお世話になってます〜って」
「いいよ、俺から言っとくから…」
恥ずかしいからやめてくれと言う声は「俺の姉さんに近付く男は許さん」と呟く時と全く違った。あの薫がかわいい弟を演じてる。こんなに猫を被るなんて一体どんな姉なんだと桃城は隙間から覗き、息を呑んだ。
「今日は見逃してあげるけど、今度来た時は絶対挨拶するからな。じゃ、勉強頑張れよー!」
「姉さんは?」
「切原が新しいゲーム買ったんだって、ちょっと借りてくる!」
「…年頃なんだから気安く男のところに行くなよ」
「あははっ、切原なんか男子の内に入らねーって! お姉ちゃんがかわいいからって心配しすぎだぞ! いってきまーす!」
他人の空似という言葉が頭の中にハッキリと浮かぶ。薫の愛する桃子姉さんは、桃城によく似ていた。
「…お前の姉ちゃんってさぁ」
「俺の姉さんが何だ」
ナチュラルに「俺の」を付けるのにも慣れたが、今の桃城としては穏やかな気持ちでは聞いていられなかった。それもこれも目の前にいる薫という男子は、友人以上の好意を自分に向けているのだ。ハッキリと言われたから間違いではない。桃城もそれを受け入れたところに薫にとっての世界チャンピオンの正体を知ってしまったら、誰だって動揺する。
「…何か俺と似てね?」
「そんなわけねぇだろ」
「いやどう見ても似てるだろ!? 他の家族に聞いてくる! すいませーん、薫の母ちゃーん!」
ドアを開けて廊下へ声を掛けるとはーいと母の返事が聞こえ、薫は急いで桃城を部屋に引き戻す。何でもないと告げて薫が戻ると、釈然としないというような表情で桃城がこちらを見ていた。
「お前がヤベーシスコンなのはまぁ良いけど、流石にさぁ…姉ちゃんの代わりにされんのは気分良くねーぞ…」
「誰もそんな事言ってねぇだろ。たしかに雰囲気は少し似てるかもしれねぇが…お前は姉さんの代わりにならねぇし、姉さんだってお前の代わりにはならねぇ。大体本当に代わりだと思ってたらもっと態度に出してるだろ」
「…まぁ、そーだな」
あれだけ「姉さん最高、兄貴は知らん」と毎日のように言ってる薫だ。仮に桃城を姉の代わりにしていたらそれはもう大事にする筈だ。しかし実際は遠慮がないと言うか、良い意味で雑に扱われている。
「…良いか、人間の中ならお前が一番好きだ。だが人間は自然には勝てねぇ」
「お前の姉ちゃん自然枠なの?」
「まぁ…太陽くらいには」
「分かった分かった、太陽に勝とうと思った俺が悪かった」
ここまでくると張り合うのも馬鹿馬鹿しいし、何より人間の中では一番という一言で桃城の機嫌は回復してしまった。自分はこんなにチョロいのかと少し恥ずかしくなる程で、それを誤魔化そうと持ってきたバッグを開ける。
桃城の機嫌が良くなったと察した薫も教科書やノートを机に広げた。口にはしなかったが、桃城は姉に勝ちたかったのかと内心驚いた。薫にとって二人は完全に別枠で比べるものではなく、どちらが上だなんて考えた事がなかった。たしかに姉は大切だ、世界で一番の自慢の姉だ。だがそれは尊敬や家族愛という枠組みの話であって、キスやハグやそれ以上の事をしたいとは思わない。愛し合いたいと望んでいるのは桃城だけだ。
「お前が好きだ」
急に言いたくなって、薫はポツリと呟く。
「太陽より?」
「太陽よりもだ」
真剣に言うと、ふーんと桃城は素っ気なく返す。信じてないのかと薫が思ったのは一瞬だった。好きな人の表情を読めない程鈍い男ではなかった。
