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I will give you all my love

合宿所の外を歩きながら理想のシチュエーションを考える。思いついても途中で叱られるか殴られる展開になるから全然キスまでいかない。妄想の中くらい優しくしてほしい、考えてるの俺だけど。

「…ダメだ、全然思い浮かばねー」

 つーか俺と副部長ってホントにキスできんのか? あの副部長の事だから中学生の内は交換日記までって言ってきてもおかしくない。手は繋いだけどほぼ握手だった。アレを繋ぐにカウントして良いなら俺は立海レギュラー全員と手を繋いでる事になる。
 桃城なら海堂の妄想みたいにあいつがモタモタしてたら動いてくれそうだけど、副部長からキスなんて絶対無い。悲しいくらい断言できる、テニスで勝つ方がまだ想像できる。
 目に入った階段に座り込んでため息をつく。どんなに考えても進展する気が全っ然しねー。

「どうした赤也」

 その声に条件反射で立ち上がる。

「さっ、真田副部長…」

 少し先に、自主練から戻ってきたっぽい副部長がいる。
 キスの一つや二つやってみなよ、って幸村部長の声が頭の中で再生された。

「副部長…」

 無意識に呼んだ声は腹から声を出さんか!って言われそうなくらいヘロヘロだった。

「何だ?」

「えーと…俺、その、副部長と…」

「俺と?」

 何て言えば良いのか全く分かんねぇ。キスして良いっスか。接吻って知ってますか。副部長とキスしたいっス。
 どれも何か違う気がする。でもじゃあどう言えば…あれ?
 顔を上げてないのに副部長と目が合ってる。頭のてっぺんに手を置いて副部長の方にスライドさせると、ちょうど同じくらいの高さだ。下を見ると俺と地面の間には階段が二段…そっか、この分か。

「今の俺、副部長と同じくらいっスね」

 おお、と副部長も新鮮そうに俺を見る。悪かったな、小さくて。これから伸びるんスよ。

「いずれ段差が無くとも並ぶかもしれんな」

「副部長と並ぶ俺かぁ…あ、俺の背がこのくらい高くなったら拳骨しにくくなるんじゃないスか?」

「たわけ! いつまで拳骨されるつもりだ!」

「すいませんっ!」

 全く…って息を吐く副部長を見る。見慣れない角度だからついジロジロ見てたら、口元に視線が行っちまう。さっきまで考えてた事が急に頭の中をグルグルしだした。

「俺の背が副部長と並んだらキスして良いっスか」

 思わず出た言葉はすげー弱気で、考えてたどのセリフよりもかっこ悪かった。

「す、すいません! 何でも無いっス!」

 たるんどる!って怒られる前に慌てて頭を下げた…いや、やっぱ今は怒ってもらいたいかも。

「赤也」

 副部長の声は静かだった。呆れてるとかそんなんじゃなくて、全然怒ってない感じ。
 恐る恐る顔を上げたら、やっぱり副部長は全然怒ってなかった。

「背なら今並んでいるだろう」

 心臓がバクバクしてる。副部長、って呼びたいのに全然声が出せない。
 頭が真っ白になって目をギュッとつむったら、副部長が笑った息がすぐそばで聞こえた。 

 一つ言うとしたら、俺は海堂をバカにできなかった。
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