ツイログ71
ふと海堂は、桃城は自分のどこを好きなんだろうと考えた。
自分は桃城の好きなところを話し出せばきりがない、けれど桃城はどうだろう。何十個もあげてくれるだろうか。それとも恥ずかしがって答えてくれないだろうか。
一度気になったものは放置できず、二人きりになった時に、大して気にしてないように装って聞いてみた。本当は知りたくて仕方がないのに。
「何だよ改まって」
「何だって良いだろ」
「えー、急に言われると困るだろ」
「俺は困らねぇ」
聞かれたら正直に、桃城がもう良いやめろと止めるまで延々と語り続けるつもりだ。そう言うと、桃城は困ったような顔をして考え込む。
桃城は感覚で捉えるタイプだから言葉にするのが難しいのかもしれない。それか自分と同じようにたくさんあるからどれを言おうか悩んでいるのか。待つのは得意だと海堂はじっと見つめる。
視線を向けられた桃城は恥ずかしそうに目を逸らし、ポツリと答える。
「…顔?」
「顔」
想定外の返事に、海堂はその晩寝付けなかった。桃城から好かれているのは嬉しい、嬉しいに決まってる。だが内面的な部分ではなく顔と言われても、素直に喜べなかった。他にもせめて一個くらいあるだろと粘っても「他ぁ〜…?」と首を傾げるだけで、それ以上は答えてくれなかった。
まぁ桃城が自分の顔が好きだと言うなら、それでも構わない。最悪顔だけでも良い。好きなところなんて後からいくらでも増やせる…筈だ。
問題は、海堂家の男は顔が似るという事だ。
海堂兄弟は表情の険しさに差はあれど顔の造りはそっくりで、それから父によく似ていた。海堂も中学に入学してから親戚に「お父さんの若い頃にそっくり」と言われる回数が増えたので、弟の葉末もほぼ確実にそうなるだろう。
つまり「海堂顔」が好きな桃城にとって、自分だけではなく父と弟も魅力的に映る筈だ。それは困る。大切な家族が恋のライバルになるのは勘弁してほしい。
おかげでそれ以来、海堂は桃城を家に呼ばなくなった。つまらない嫉妬かもしれないが、桃城が目移りするところは見たくない。
「明日さぁ、お前の家に行って良い?」
そう聞かれた海堂は家族の予定を思い出す。明日は週末、父も弟も休みで家に居る筈だ。
「明日は全員家に居るから駄目だ」
「あっ、何か用事あんのか。じゃあ今度で良いよ」
「用があるってわけじゃねぇが…」
渋る海堂を不思議そうに見て、まぁ無理にとは言わねーけど…と桃城は返す。いつまでも誤魔化し続けるのは性に合わないと海堂は小さく答えた。
「…お前、俺の顔が好きなんだろ」
「え? …あっ! あー…そ〜ぉ、だな…うん…」
「知ってるだろうが家には俺とほぼ同じ顔があと二つある」
「あー、たしかにお前も葉末も父ちゃんにすげー似てるもんな。どっちかは母ちゃんに似ても…ははーん? つまり海堂くんは、大好きな桃ちゃんが弟か父ちゃんを好きになっちまうと思ってるんだな?」
バカだな〜と呆れた声で言われ、ムッとする。誰のせいでこうなったと思ってるんだ。お前が俺の顔が好きって言うからだ。恨みがましく見ると、余計に呆れられる。
「顔がちょっと似てるくらいで浮気したりしねーなぁ、しねーよ…俺がそんな奴に見えるのかよ?」
「…ねぇとは言い切れないだろ」
「信用ねーな…別にさぁ、俺はお前の顔で好きになったわけじゃねーんだから」
「じゃあどこで好きになったんだ」
「そりゃお前…」
ハッとしたように言葉を切る。ジワジワと赤くなっていく様子に、今度こそ本音を聞けるのではと海堂は期待した。
「〜ッ…! かっ、顔!!」
「やっぱり顔じゃねぇか!!」
本当は、たくさんある。指を折って数えたら両手なんてすぐに埋まってしまう、折り返しても全然足りない。海堂だけじゃなく乾達も首を傾げそうな、自分しか知らなそうな部分も、ある。
恥ずかしいから口にはしない。できない。だって、本当に恥ずかしいのだ。
でもいつか、その内、伝えてやっても良い。その時は必ず、海堂にも恥ずかしい思いをさせてやる。
