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思春期100%


 スーツケースコーナーで大きい小さいと言い合う若い男女の存在に店員は気付く。旅行の荷物は難しい。季節や場所、期間によって適したバッグのサイズが異なるので、悩む客は多いのだ。

「スーツケースをお探しですか?」

 言い合うなんて良好な関係ではないのかと心配しながら声を掛けると、二人は恥ずかしそうにしながら肯定する。

「来月ハワイに行くので、五泊分の荷物が入りそうなバッグを探してて…」

「大は小を兼ねるって言うし、大きい方が良いと思うんですけど…」

「だからってこんなに大きくなくて良いだろ」

「お土産も入れるんだからこれくらい必要だろ!」

 女性が指さすスーツケースは店にある中でも一番か二番に大きく、日数次第では二人分の荷物も余裕で入るサイズだ。一人一個ずつ使うなら五泊でもたしかに大きい。

「そうですね…バッグのサイズは一泊あたり十リットルが目安と言われてますね。ハワイなら厚い服を持っていかなくても大丈夫だから、お土産を入れる分の余裕をもたせるとしてもこのくらいのサイズで大丈夫ですよ」

 ほら見ろ、うるせー、と言い合う様子は親しげで、二人にとってこれが自然なのだと察した。
 店員に相談しながら二人はスーツケースを選び、気に入った物を購入する。

「ありがとうございます、楽しい新婚旅行になりそうです!」

 会計を終えた女性は嬉しそうに笑ってそう告げ、店員はおめでとうございますと祝福する。そんな予感はしていた、ハワイと言えば新婚旅行の定番だ。
 一生の思い出に残る旅行に持って行くスーツケースを選ぶのを手伝えたと思うと、店員も満たされた心地で店を出る二人を見送る。軽いスーツケースを持つ左手に指輪はまだないが、中身を詰めて運ぶ時にはお揃いの指輪を薬指に嵌めているのだろう。


 ベランダから見える海にはしゃぐ妻は、先輩達にからかわれる度に付き合ってないと否定していた学生時代から少しも変わらないと海堂は思った。あの頃から変わっていない事の方が少ないのに。

「はしゃぎすぎて落ちるなよ」

「分かってるって! 海堂もこっち来て見てみろよ!」

 今はもう彼女は桃城ではなく自分と同じく海堂なのに、お互いについ十年以上呼び合っていた苗字で呼んでしまう。あまりにも間違えるのでしばらくは今まで通りで良いかと諦めてしまう程だ。

「こっちからも見える」

「ホントに?」

 キングサイズのベッドの上で予定を確認する海堂の隣に桃城が飛び込むように座る。海もベッドも大きいと目を輝かせる彼女の左薬指には家族の証が光っていた。
 じわじわと熱いものが込み上げてきて、海堂は堪らず桃城を抱き寄せる。この甘えん坊さんめと笑った桃城は海堂の腕を引き、ごろんと一緒に横になった。
 二人が寝ても広く余裕があるベッド。少し顔を動かせば綺麗な海が見えるのに、今は愛しい家族を見たかった。

「夕飯まで部屋でゴロゴロする?」

「いや、せっかく予定を立てたから…」

 そう言葉は出てくるのに、体は変わらず桃城から離れない。ホテルに着いた後は周囲を散策する予定だったが、もうしばらく二人だけで過ごしたかった。

「…出かけるのは、もう少し休んでからでも良いか?」

 意地を張らずに、素直に伝える。良いよ、と返した後、桃城は意味深に微笑む。

「休むだけで良いの?」

「…良い、まだ初日の昼間だぞ」

「え〜? あたしは別に何をするか言ってないのに、薫ちゃんは何を想像したのかな〜?」

 そっちが想像させたくせにと弱い脇腹をこちょこちょとくすぐってやる。


 昔の自分に「お前がお節介だがかわいいと思ってる自称親友の女子が、将来自分の嫁になるぞ」と言っても、そして自分がどれだけ彼女に惚れて愛しているか伝えても、きっと信じないだろう。けれど、「桃城は十年以上経ってもお節介でうるさくて大食いで、それからかわいくて、今でも一緒に居る」と聞いたら、きっと納得するだろう。


 …そしてそれからしばらく経った海堂もまた、「新婚旅行中の自分にすぐに子供ができると言っても信じねぇだろうな」と思いながら、小さな家族を抱き上げた。
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