AV


 海堂は桃城に見下され、無意識に正座をする。ふーん、と興味なさげな『フリをしている』桃城の圧の強さと言ったら、これまでコートで対峙した誰よりも強い。

「お前、こーゆーのが好きなんだ」

 ひらりとその手が振ったのは『特盛りバストが大胆に揺れる! 一学年上のマジメな巨乳JKと真夏のハメ事♡』というDVDだ。AVが真田にバレそうだから新たな隠し場所を見つけるまで預かってくれと先日切原から無理矢理押し付けられた物であって、海堂の私物ではない。一度も中身を再生していないし、パッケージを見ても一切興奮しなかった。桃城と出会ってからの数年間で性癖をめちゃくちゃにされた海堂にとって、桃城以外では興奮しない。これを桃城がしたら…と変換して初めて興奮できる。
 そう言いたくても、桃城の冷ややかな目を見ると何も言葉が出てこなかった。

「マジメな年上と…へー、セーラー服着たまますんの…うわぁ、こんな体位まで…あー、これは大きいなぁ。
 …ふーん、知らなかったな〜。海堂くんはこーゆー事したいんだぁ」

 パッケージ両面の画像やあらすじを見て桃城は大げさにため息をつく。

「ちょっと意外だけど…まぁお前もお年頃だからAVくらい見るよなぁ。ダウンロード版にしとけばバレなかったのに、残念でしたぁ」

「だ、ダウンロード…? 待て、本当に違う、俺のじゃない」

「誤魔化さなくて良いって…じゃ、俺は今日は帰るからゆっくり見てて良いぜ」

 弁解できないまま桃城は帰ってしまった。怒ってくれればまだいろいろ言えたのに、冷めきった反応をされると何もできなかった。
 その晩、打ちひしがれている海堂のスマホに桃城からメッセージが届く。飛びつくように確認すれば、明日行く、と短い文章が目に入った。分かったと即座に返信した海堂は深呼吸をする。
 明日こそ本当の事を話そう。このDVDは切原から押し付けられた物で、自分は桃城以外で興奮しないと正直に言おう。それでも納得しなかったら、恥なんて投げ捨ててマジメ系年上モノより活発系同級生モノが良いと言おう。



「やろーぜ、制服プレイ!」

 翌日訪れた桃城はセーラー服を持ってきた。ポカンとしている海堂に桃城は「ドンキで買ってきた」と笑顔で告げ、ポイポイと服を脱ぎ捨てる。珍しく髪をセットしていないのはこの為だというのは分かった。

「お前は女装好きじゃないと思ったから今までコスプレ系のプレイ提案しなかったのに、好きならもっと早く言えよな!」

「いや全く好きじゃねぇ…そうじゃなくて、アレは切原の物で…」

 しかし桃城は全く話を聞かずに袋を開けてセーラー服を取り出す。どうしてサイズが合っているのかと疑問は浮かぶも声にはならない。

「あと伊達眼鏡も買ってきたんだぜ、マジメそうに見えるだろ! ほら、お姉ちゃんでも先輩でも好きに呼べよ」

 髪を下ろし、伊達眼鏡を掛け、セーラー服を着た桃城はまるで別人だ。また新たな性癖の扉をこじ開けられた海堂はフシュウ…と息を吐くしかない。あとは桃城が、好きなプレイだから興奮してるのではなく桃城が相手だから興奮しているのだと気付いてくれれば言う事はない。
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