体で払う
今から行くと桃城からメッセージが届いた瞬間、海堂は冷蔵庫と冷凍庫の中を確認した。
月に一度か二度、給料日前の金欠時期になると桃城は海堂の家に転がり込む。その度に計画的に金を使えと言ってるのに、一目惚れした服や靴がどうしても欲しかったと言い訳をしながら次の月も訪れていた。そして海堂もいろいろ言いつつ桃城を一度も追い返さずに毎回泊まらせていた。
二人分の食事を作るには少し物足りない…正確に言えば、桃城をもてなすには少し足りない。その食べっぷりは思わず見惚れてしまう程で、毎回多めに作ってしまう。
いや正直に言おう。海堂は桃城が好きだった。だからたくさん食べてほしいと思っていた。そして家に泊まるのは良いが、いい加減金遣いはしっかりしろとも思っていた。
「今月も助かったぜ! 給料入ったら肉とか買ってくるからな!」
出された料理を完食した桃城は海堂に感謝を伝える。
「そんな事しなくて良いから無駄遣いをやめろ」
「えー、でも何か返さねーと…そーだ、じゃあ体で払うよ! それなら良いだろ!」
体で、払う。
まさかそれは。
バクバクと心臓が激しく動く。海堂の期待を知ってか知らずか、桃城は笑みを浮かべた。
「海堂〜、流しの掃除終わったぜ。他何かある?」
「ならついでに風呂の掃除もしてくれ」
体で対価を払うとは肉体労働の事だった。海堂は複雑な気持ちで鼻歌が聞こえてくる浴室の方を見る。
よく考えれば、一宿一飯の礼に抱かれると想像する方が悪い。もし海堂が逆の立場でも「飯の礼に今夜は自分が掃除を請け負う」と提案するだろうから、桃城の行いは全く不自然ではない。ただ海堂が、桃城に対して下心があるだけだ。
風呂掃除を終えて戻ってきた桃城は海堂の隣に座る。その満足げな表情は海堂の下心に全く気付いていない証だ。
「…体で払うなんて他の奴に言うんじゃねぇ、誤解されても知らねぇぞ」
「誤解って?」
それは…と言葉を濁す。答えれば一瞬でも性的な目で見たと言う事になる。
「…内臓売るとか!? そんな事やらねーなぁ、やらねーよ!」
「そういう意味じゃねぇ!」
「じゃあエッチな事して良いって言われたと思った?」
不意打ちに海堂は息を呑む。軽い調子だが冗談で言ってるのではないと分かる声。心の奥底まで見透かすように、真っ直ぐに射抜く目。いろいろと頭に浮かぶのに、言葉は何も出てこない。
しばらく無言で見つめていた桃城は、ふ、と息を漏らす。
「…俺がこっちで払いたいって言ったら、どうする?」
海堂の返答を既に読んでいるような、艶やかな笑顔だった。