いつもと違う
「なぁ海堂」
握っていた手がすり抜けていく。
目で追うと頭に巻いたアスコットタイを解いて、首元に結び直していた。
「撮影早く終わらせて来いよな、全員揃わないとパーティー始まらねーんだ」
「あぁ」
「あと、その…悪ぃな?」
「…あ? 何がだ?」
いきなり謝られても何の事だか分からない、心当たりが全く無い。妙な胸騒ぎがする。桃城、と呼ぶと、ごまかすように笑って離れていく。
「じゃあ俺、先に戻ってるからな!」
「おい桃城! テメー何しやがった!」
あれは間違いなくやらかした自覚がある逃げ方だ。何だ、あいつは何をしやがった。
「海堂、どうかしたのか」
振り返るといつの間にか部長が近くに来ていた。
「あ、いや…何でもないっス、撮影終わったんスか」
「あぁ、そろそろお前達の番だと伝えに来た」
「じゃあ他の奴らも呼んできます」
「…待て海堂」
手塚部長が首元を指さす。俺の首の事を言ってるらしいが、何の事かさっぱり分からない。桃城の件といい、さっきから何なんだ。
「撮影前に結び直した方が良い」
下を見ると、下手くそな上に絶対解けないだろと思うくらい固く結ばれたアスコットタイが目に入った。
…これの事か。これを謝ってたのか。笑ってごまかしてんじゃねぇ、解いてから行け、あの馬鹿力!
「桃城!!」
叫んだ所で戻ってくるわけもなく、部屋から出て来た三人にも散々弄られたアスコットタイは結び目を手で隠して撮影する事になった。
どうしようもないくらい、あいつはいつもと変わらなかった。
後で覚えてろ。