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喧嘩を止めるな


「大変や! 海堂と財前と切原と日吉が部屋で喧嘩しとる!」

 各自穏やかに自由時間を過ごしていた休憩室に全速力で駆け込んできた謙也が叫んだ。四人で喧嘩という今まで無かった事態にその場に居た者がザワつく。

「財前が!? はよ行かな!!」

「何をしている赤也!!」

 真っ先に白石と真田が走って部屋に向かい、謙也も後に続く。他は部屋に向かう者、誰かに報告に行く者とに分かれた。

「乾先輩、俺達も行きましょう!」

「ああ、しかし海堂が喧嘩か…恋バナでいじられた確率83%かな」

 じっと乾が桃城を見る。心当たりがある桃城は気まずそうに顔を背けた。



「白石、謙也! はよ来い!」

 争う声が聞こえる部屋を覗く一氏と金色が走って来た白石達に手招きする。

「まだ財前勝ってるか!?」

「今はちょい押されてる! やっぱ古武術やってる日吉君は強敵やわ!」

「負けんな財前! 天才やろ!」

「ぶちかましたれ財前! 勝ったモン勝ちや!!」

 四天宝寺は試合中のような本気の応援をする。止める様子は全く無い。そこに真田が滑り込む。

「貴様ら応援してないで早く止めんか!! 赤也!!」

「切原なら最初にのされたで」

「何をしている、立て赤也ァ!!」

 普段なら真っ先に雷を落として止める真田だが、謎のスイッチが入ってしまい切原に喝を入れる。遅れてきた桃城も押され気味の海堂に声援を送った。

「何してんだマムシ! 負けてんじゃねーぞ!」

 その後も観戦者は増えていったが、誰一人止めないどころか誰が勝つかという賭けまで始まった。収拾つかない確率95%と呟く乾の声は盛り上がる声援にかき消された。


「あーん? 手塚、あいつら何をしてる?」

「あれは…」

 廊下が騒がしいと気付いた跡部と手塚が見に行くと、それはもう凄い状況だった。

「賭けたい人はこっちや、百円から受け付けるで」

「若が勝つに決まってんだろ!」

「ドアホ! うちの財前が負けるわけないやろ!!」

「海堂、勝ったら桃が向かいの席でご飯食べてくれるって!」

「赤也、負けたら弦一郎の説教二時間コースだぞ」

 氷帝、四天宝寺、青学、立海だけでなく、かなりの人数が廊下に集まっていた。テニスしてる時並みに盛り上がっている様子は何も知らない二人からすれば異様で、そして好奇心を刺激させた。

「…何だろうな」

「よく分からねぇが俺は若に賭けてくるぜ。おい忍足、カード使えるか?」

 賭けの総取り役をしている忍足に跡部が近付く。よく分からないのに賭けはするのか、と手塚は思ったが特に言葉にはしなかった。

「堪忍な跡部、現金オンリーや」

「仕方ねぇ、若に十万だ」

「これ以上荒れるとまずいから上限千円で頼むわ」

 総取りが根切り交渉するという妙な状況が発生する。しかし忍足は騒ぎへの説明はしなかったので、結局あの集団は何をそんなに盛り上がってるんだろうと二人は思った。
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