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◉貢ぎ物

ある日の夜。
サクラとハルカが2人で夜ご飯を食べていると、カーテンが閉められた窓からコツンコツン、と音が聞こえる。
怖がるハルカの頭を撫でてサクラがカーテンを上げると、そこには1羽の鳥がいた。
サクラは窓を開けて鳥の足に付いている手紙を読むと、小さくため息を吐いた。

「ママ?」

ハルカは椅子から降りてサクラに近寄ると、サクラは眉を下げてしゃがむ。

「パパ、今日も帰ってこれないって」
「え・・・」

手紙はカカシからだった。
ここ最近、カカシは仕事が忙しくて家に帰ってきていない。
火影であるカカシはいつも忙しいが、家族を大事にしているのでどんなに時間が遅くなっても必ず帰ってきてくれていた。
だが、間近に控える木ノ葉での中忍試験でその忙しさは今までと比ではない。
サクラもその関係で仕事が忙しく執務室に顔を出せておらず、5日もカカシの顔を見れていないのだ。

「パパにあいたい・・・」

ハルカは大きな瞳を潤ませる。
サクラはその言葉に胸が締め付けられ、ハルカをぎゅー、と力強く抱きしめる。

「ママもパパに会いたいよ・・・」

サクラもハルカと同じように翡翠の瞳に涙を滲ませていた。



****



「──カ、ハルカ、起きて」
「んー・・・」

ハルカは体を揺さぶられて目を擦る。

「おはよ・・・ママ・・・」
「おはよう、ハルカ」

カカシと同じように朝に弱いハルカに、サクラは微笑んで額にキスをする。

「ママ・・・なに・・・?」

今日は土曜日。
ハルカが通っている幼稚園はお休みだ。

「ね、ハルカ。パパに会いたくない?」

サクラの言葉に、半分しか開いていなかった目がパチリと見開く。

「パパ!?あいたい!!」

ハルカがそう言うと、サクラはにんまりと笑った。



****



「ママ、ここ、どこ?」

いつものおでかけの服に着替えてサクラに手を引かれて歩いていく。
里で1番大きくて目立つ建物に入り、ハルカはキョロキョロと周りを見渡す。

「パパがお仕事してるところよ」

サクラはしー、と唇に人差し指を当てて、ある部屋のドアをゆっくりと開ける。
少し開いたドアから見えたのは、色んな紙や本が積み上がっていて、その奥に影と書かれた布が吊るされた机があった。

「ここがパパがおしごとしてるところ?」
「うん・・・そうなんだけど、パパいないね」

サクラは少し開いたドアの隙間から部屋の中を覗き込む。
いつもカカシが仕事をしている火影の机には誰もいなかった。
すると。

「何してんだお前」

部屋の中からドアが大きく開かれる。
そこにいたのは、ドアから死角になっている場所で仕事をしていた火影補佐のシカマルだった。

「あはは、ちょっとね・・・。先生は?」
「六代目は・・・」


「あれ、サクラ?」

シカマルと話していると、後ろからよく知っている声に呼ばれる。
振り向くと、そこには探し人であるカカシが火影マントを着て歩いてくる。

「カカシ先生」
「今日仕事休みでしょ。どうし──」

そこでようやくサクラの足元で屈んでるハルカの姿が目に入る。
すると、一瞬でカカシの顔がしまりなく緩み。

「ハルカーー!!」

カカシはハルカを高く持ち上げる。

「パパ?」
「パパだよー!」

いつもと違うカカシの格好に首を傾げていたハルカだったが、カカシのいつもの笑顔を見てハルカの顔にも笑顔が生まれる。


「2人ともどうしてここに?」
「ハルカがパパに会えなくて寂しいって泣いちゃったから連れてきちゃった」
「そっかー!ハルカ、パパに会えて嬉しい?」
「うん!」

ハルカが嬉しそうに頷くと、カカシは堪らずハルカに頬ずりする。
サクラは慣れているが、シカマルは上司のデレデレ顔にどうしたらいいのか困っているようだった。
カカシは視線をサクラに移す。

「サクラも?」
「え?」
「サクラもオレに会えなくて寂しかった?」

にんまりとカカシは笑い、サクラの頬に赤みが増す。

「・・・うん」

寂しかったのは本当なので素直に頷くと、カカシはハルカを片手で抱えてサクラの腰にもう片方の腕を回して引き寄せる。

「サクラ可愛い」

カカシはマスク越しにサクラの額にキスをする。

「ちょ、ちょっと、先生!!」

カカシの胸を押して離れようとするもカカシにもっと抱き寄せる。
「ハルカもー!」と言われて、カカシはハルカの母親譲りの可愛い額にもキスをする。
サクラはシカマルと目が合うと、気まずそうに目を逸らされて恥ずかしくなる。

「もう先生!外で止めてよ!」
「そうだな。じゃあ」

カカシはサクラの耳元に口を寄せて。

「続きは今日の夜に」

艶のある、それを思わせる言葉にサクラの顔は真っ赤になる。
サクラにだけ聞こえるように言ったつもりだったが、ハルカにはしっかり聞こえてて。

「パパ、きょう、かえってくるの!?」
「え!?いや、六代目それは・・・」

シカマルは後ろを振り返る。
さっき見えた分だけでもとんでもない量だった。



「カカシ様ー、頼まれてた巻物持ってきましたー」

不満そうにするカカシの後ろから、シズネが大量の巻物を持って現れる。

「だから、様はやめてってば」
「シズネ先輩!」
「あら、サクラ」

サクラはカカシの腕から逃れてシズネから巻物を半分持つ。

「ありがとう。でもサクラ、なんでここに・・・」

シズネはそこまで言って、ようやくカカシが抱えているハルカに気づいて目を輝かせてカカシに近づく。

「そ、その子!もしかしてハルカちゃんですか?」
「そうだよ。シズネとシカマルは赤ちゃんの頃に1回会っただけだっけ」
「はい!わー!すっかりお母さんそっくりに可愛く育って」
「そうでしょう、そうでしょう」
「だ、抱っこしてもいいですか?」

巻物を床に置いて嬉しそうに頷くカカシからハルカを受け取る。

「わ、おもーい!すっかり大きくなったわね」
「ハルカ、シズネお姉さんよ」
「しず、ね、おねえちゃん?」
「はひー!可愛すぎますー!!」

シズネはカカシと同じように頬擦りする。
ハルカの頬は2回の頬擦りで赤くなっていた。


執務室の前で騒いでいると。

「カカシせんせー、これ、報告書・・・って、あれ?」
「お?」

ナルトとゲンマが揃って現れる。

「ハルカちゃん!」
「ナルトぉ」

ハルカは嬉しそうに笑って腕を伸ばすのでシズネから受け取る。
何回も会いに来るナルトに懐いているのだ。

「なんでここにハルカちゃんが?」
「オレに会いにきたんだよ。可愛いよねぇ」

カカシの顔はもう火影ではなく娘にデレデレの父親だった。

「だらしねぇ顔だな」
「うるさいよ」

楊枝を咥えながらニヤニヤ笑うゲンマを一瞥するカカシ。

「ちょっと見ない内にまた大きくなったんじゃない?」
「だんだん重たくなって抱っこするのも大変よ」
「サクラちゃんの怪力があればこれぐらい楽勝だってばよ」
「なんですって?」

サクラはナルトの耳を引っ張り、「ごめんってばよー」とナルトが必死に謝っている。
これもはたけ家では日常茶飯で、ハルカは楽しそうに笑っていた。

「にしても、お前に似てなくて良かったな」
「おい」
「大丈夫ですよ!カカシ様似でも美形に育ちます!」
「ありがとうねぇ、シズネ。でも様は止めてね」



みんなで執務室前でほのぼの過ごしていると、痺れを切らしたシカマルが申し訳なさそうに声を挟む。

「あの、六代目。そろそろ」
「あー・・・」

カカシはその言葉に肩を落とす。
どんなに嫌がっても締切はどんどん迫ってくるのだ。

「じゃあ仕事しますかねぇ。サクラ、ハルカ、会いに来てくれてありがとうね」

カカシは、サクラと抱っこされたハルカの頭を寂しそうに撫でた。
その言葉に、今日も家に帰れそうにないということを理解したサクラ。

「パパ、いっしょにかえらないの?」

ハルカのダークグレーの瞳がどんどん潤み出し、カカシは言葉に詰まる。

「ハルカ、我儘言ったらダメよ」

泣きだすハルカを慰めるサクラも泣きそうな顔をしていた。
カカシは腕を組んで唸り、サクラからハルカを受け取ってシカマルに突き出す。

「見てシカマル。こんな可愛い子がパパが一緒に帰れなくて泣いてるんだよ」

大きな瞳が涙で輝き、泣いても可愛い顔のハルカの顔を見て、今度はシカマルが言葉に詰まる。

「それでもですね、仕事は待ってくれないんすよ」
「今日は!今日は帰らせて!明日から頑張るから!ほら、ハルカもお願いして」
「おねがい〜」

ハルカは泣きながらシカマルに手を伸ばす。
するとシカマルはため息を吐いて、カカシからハルカを受け取る。

「分かりました。オレでもいいやつは終わらせておきます。明日からはバリバリ働いてもらいますからね」
「ありがとうシカマル!」
「ありがとう・・・ごめんね、シカマル」
「ありがと、しかまる!」

カカシはシカマルの肩を掴み、サクラは手を合わせて謝る。
ハルカも2人を真似して可愛らしくお礼を言ってくる。
ハルカには弱くなりそうだな、とシカマルはハルカを見つめながら苦笑した。


「にしても、本当可愛いっすね」
「だろ?本当うちの子が1番だよ〜。あ、でも、間違ってもこの子に手を出そうとか考えるなよ」
「思いませんよ。カカシ先生じゃあるまいし」
「1本取られたな、カカシ」

シカマルの言葉にゲンマがカカシの肩を叩いて笑う。
それを皮切りに、シズネとナルトも笑い出し、カカシは頭を掻いてサクラも苦笑する。
ハルカだけが分からずにポカーンとしていたのだった。



****



シカマルのおかげでそのまま3人並んで我が家へと帰る。
もちろんハルカが真ん中で仲良く手を繋いで。

「ハルカ、夜ご飯は何食べたい?」
「ママのハンバーグ!」

カカシがそう聞くと、ハルカは元気に言う。

「じゃあ、ママと一緒に作ろうか」
「うん!ハルカ、パパにおおきいのつくる!」
「お、それは楽しみだな。いくらでも食べれそうだ」

カカシは「せーの」とサクラに合図を出して2人でハルカを持ち上げてブランコ状態にする。

「きゃー!」

ハルカは楽しかったのか、家につくまで何回も2人にブランコをせがんだのだった。


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