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気づいた想い

「サクラ」

後ろからよく聞き慣れた少し低い、だけど安心出来る声で呼ばれる。
ゆっくり振り返ると、右目以外隠した恩師であるカカシ先生が至近距離で立っていた。

「な、何ですか」

私はジリジリ後ろに下がり先生から離れる。

「悪いんだけどこれ綱手様に渡してくれない?オレこれから任務だから」

先生は何枚もの報告書を渡してくる。
何日前に綱手が先生の報告書が遅いことに怒っていたのはどうやらこれらしい。
私は呆れて書類を受け取るが、先生は何故か手を離さない。
顔を上げると何故かじっと見てくるから、どうしても顔が赤くなる。

「な、何・・・」

鼓動が早くなっていくのを気づかれたくなくてこの場を早く離れたいのに、先生がそうさせてくれない。


「サクラさ、最近なんか余所余所しくない?」
「・・・そんなことないですよ」

顔を覗き込まれ、パッと顔を逸らす。
先生と目が合ったら絶対顔が真っ赤になる自信があるから。
「ふーん?」と不満そうに体が離れてほっとする。


「それじゃ、忘れないで渡してね」
「先生じゃないんだから」

ははっ、と笑って先生は阿吽の門へと向かった。
また暫く先生と会えなるのか・・・。
今別れたばかりなのに、私はもう先生の顔が見たくてしょうがなかった。



****



あれから数日。
木ノ葉は騒然としていた。

カカシ先生が意識不明の重傷で病院に担ぎ込まれてきたからだ。
執務室で作業をしていたところ、慌てた様子の忍が駆け込んできて、話を聞いた私は血の気が引いた。


「くそ・・・シズネ!今すぐ準備をしろ!」
「はい!」
「サクラ!お前も助手に入れ!」

手に持っていた書類を床に散らばせながら茫然とする私の頬を綱手に思い切り叩かれる。

「しっかりしろ!お前は私の弟子だろ!これぐらいで狼狽えるな!!」
「っ!すみません!!」

私は流れる涙を拭って綱手の後を急いで追った。



先生の任務は協定を結んだ隣国とお互いの密書を交換すること。
重要機密のため先生が選ばれ、他の人も実力が確かな中忍だった。
そして国境で交換することになっており、先生がたどり着いたときにことは起きたのだ。


相手の裏切り。


木ノ葉は4人対して、敵は20人以上。
敵も上忍レベルの忍ばかりだったのだろう。
あっという間に先生以外の味方は全滅。
異変に気づいた味方が増援に向かい敵の失敗に終わった。
だが増援が着く間、先生は1人で交戦していたのだ。
背中に大きな裂傷を負って。



****



あれから綱手によって先生の命は繋ぎ止められた。
だが大量の出血、チャクラ切れにより先生は目を覚まさなかった。
面倒を見てくれる人がいないので、綱手の命により私が面倒を見ることになった。
私は先生が目が覚めるまで任務などが免除になり、ずっと先生の側にいた。



あれから3日。
夜は自分の部屋に帰り朝早くに来て先生が起きるのを待つ。
暇つぶしに持ってきた小説も全部読み終わってしまった。

夜も更け、今日はもう帰ろうかと立ち上がりドアへ向かった時。

「・・・サクラ?」

その声に心臓が跳ねる。
恐る恐る振り返ると、顔だけをこちらに向けて目を開けているカカシ先生。
私だと分かると、いつもの優しい顔で笑う。
その顔を見て、我慢していた涙が溢れ出す。

「え、サクラどうした」
「どうしたじゃないわよ!先生、血だらけで運ばれてきて3日も眠ってたのよ!!」

私は泣き顔を見られたくなくて手で覆う。


「・・・サクラ、こっち来て」

私は首を大きく横に振る。

「頼む。体が動かないからオレから行けない」

先生の弱々しい声に、私は俯いたまま先生の元へと歩く。
ベッドの側に立つと、先生は私の手を握る。

「心配かけてごめん。サクラがずっと面倒見てくれてたのか?」

頷くと、「ありがとう」と言って目を細めて微笑む。
気持ちを自覚してから逃げてきたから、久しぶりに真正面から先生に微笑まれたらどんな顔したらいいのか分からない。



今の先生は口布を外している。
呼吸の妨げになるといけないからと下げているのだが、あんなに頑張っても見れなかった先生の素顔。
タラコ唇だの出っ歯だの色々言っていたが、なぜ隠しているのがわからない程の端正な顔立ち。
薄い唇の横にあるほくろは色気を醸し出して。
いつもこの口で名前を呼ばれていると思うと。


恥ずかしくて目線が泳いでしまって、それが分かったのが先生は小さく笑い、掴んで手を口元に引き寄せて、
チュッとリップ音を鳴らして手の甲にキスをしたのだ。

突然のことに顔が真っ赤になって口をパクパクさせる。
電気を付いてなくて薄暗い部屋の中でも真っ赤なのが分かるらしく、先生は喉の奥で嬉しそうに笑う。
からかわれたのだ分かって、勢いよく手を引き抜いてドアへと向かう。


「もう帰りますから!先生はちゃんと休んでくださいよ!」
「うん。ありがとね、サクラ」

恥ずかしくて背を向けたまま、私は病院を後にした。



****



先生の目が覚めて、私は先生のお世話役から解任された。
担当の看護師の話では、まだ安静にしないといけないのに、夜な夜なこっそり指立て伏せをしているんだとか。
あの先生が大人しくしてるわけもないしね、と呆れて笑いながら綱手の元へと向かった。






「師匠。頼まれてた書類持ってきました」
「あぁ、すまんな。あともう1つ、お前に頼みたいことがあるんだ」
「はい」

綱手は書類を私に渡す。
それは国境付近にしか咲かない貴重な薬草の写真だった。

「この薬草をお前に取りに行ってほしい。在庫が少ししかないらしい」
「分かりました。では今から・・・」
「だが、ここはカカシの任務のときの国との国境の近くでな。何が起きるか分からない。だが、今すぐにでも必要だ」

先生たちでも苦戦した忍たちだ。
ただの中忍の私が敵うわけがない。


「で、だ。お前に護衛を付ける」
「護衛ですか?」
「あぁ。入れ!」

綱手の呼びかけにドアが開いた音が聞こえ、振り返り思わず固まる。

「か、カカシ先生・・・!?」
「よっ」

驚く私に先生はいつものように片手を上げて挨拶をしてくる。


「し、師匠。カカシ先生はまだ身体が・・・」
「分かってる。だが、こいつは安静と言っても聞かないからな。まぁ、リハビリみたいなもんだ」

綱手は腕を組んでため息を吐き、先生は「ははっ」と笑いながら私の横に立つ。

「と、いうわけだ。よろしくな、サクラ」

先生は私の顔を覗き込んで、にこりと微笑みかける。
先生の顔を見て、忘れかけたキスのことを思い出して頬に熱が集まる。

「準備が出来次第、出発してくれ」
「分かりました」
「・・・はい」



****



あれから先生と門で待ち合わせて、薬草が生える国境付近へと向かった。


「変わった薬草だよね。夜にしか効能が出ないなんて」
「そうなの。だからなかなか取りに来れないのよね。夜に摘んで粉にすれば効能はそのままなんだけど」

私たちは懐中電灯を頼りに夜の森の中で薬草を摘んでいた。
私だけで大丈夫と言ったが、手伝うと聞かない先生と手分けして摘む。
一応先生も毒草の知識はあったから、間違いは起きないだろう。



「うん、これぐらいなら大丈夫そう。ありがとう先生」
「良かった。それじゃここから離れよう。ここで火を焚いたらバレちゃうからね」
「うん・・・」

先生の言葉に私たちは静かに移動する。
国境の様子を見ると、何人か見張りがいた。
摘んでいる間も先生はお気楽そうにしていたが、ちゃんと周りを気にかけていてくれたから無事に終えられたのだ。
私を安心させるように微笑んでくれるが、私の心は違うことで落ち着かなかった。




「じゃあ、ここで野営だな」

野営。
つまり先生と2人きりで一晩過ごすということ。
先生のことを自覚してから任務に出て野営はしたが、その時はナルトたちがいたから意識せずに済んだのに。
今は近くに先生が座って火を焚べている。
周りは夜だから静か。

どうか私の心臓の音に気づかないで──。


「サクラ、眠いなら寝てていいよ」

私が静かなのは眠いからだと思った先生は、また火の番を申し出てくれたけど。

「前にも言ったでしょ。私だって火の番出来るわよ」
「そう言って、この間途中で眠っちゃったでしょ」
「あ、あれは先生が・・・!」

好きになるきっかけとなったあの夜。
火の番をするといいながら寝てしまったことを先生はからかってくる。
ムキになって思わず言いそうになるところで寸止める。

「オレが、なに?」
「・・・何でもない」

私は膝を抱えて小さくなる。

──眠っちゃったのは、先生の温もりが気持ちよかったから。

なんて言えるわけないじゃない!
恥ずかしくて膝に顔を埋める。


「本当、お前は見てて飽きないね」

その声に顔を上げると、面白そうに私を見てくる先生に顔が赤くなる。
ずっと百面相を見られていたのだ。
昔から先生には「サクラは表情がコロコロ変わるな」とは言われてたけど。
流石に今は見て欲しくなくて、見えないように包まっていた毛布で顔を隠した。






パチ、パチ、パチ


木が爆ぜる音だけが聞こえる。
前は何とも思わなかった無言に耐えられなくて、七班の時の思い出話をする。
先生も懐かしむように話をしてくれて、昔の、先生と生徒に戻ったような気がして嬉しくなった。


「先生覚えてる?野営した時、魚釣りしに行ったナルトとサスケくんがびしょ濡れで戻ってきた時のこと」
「あー、あったあった。どっちが多く魚釣れるかで騒いで川に落ちんだったな。着たまま火で乾かせば大丈夫とか言って2人とも着替えなくて」
「そうそう。次の日サスケくんだけ風邪ひいて」
「それでオレがサスケを背負って里に帰ったんだったな」
「ナルトはピンピンしてるから、馬鹿は風邪ひかないんだなって証明されたわ」

楽しかったあの頃を思い出して笑っていると、先生が何かを考えているのか静かになった。


「先生?」

顔を覗き込むと、先生はこちらを見てくる。

「サクラはさ・・・」
「サスケのこと、まだ好きなのか?」
「な、何、急に」
「いいから」
「す、好きよ・・・当たり前じゃない」
「ふーん」

それだけ言って先生は木を焚べる。


──ふーんて。聞いといて何!?

先生の態度に怒りが沸いてくる。
頬を膨らませて燃え盛る炎を見ていた。

先生はなんでそんなこと聞いてきたのか。
もしかしたら、なんて思ってしまう簡単な心に苦笑する。



チラッと先生を見る。
その横顔は、あの日を思い出す。
まさか先生にこんな気持ちを抱くなんて、あの日の私が知ったらビックリするわね。

そんなことを思っていると。


「サクラ」
「何?」

火を見たまま先生に話しかけられる。
大した話ではないと思って、側に落ちていた木の枝を取って遊ぶ。

「結婚して」
「・・・・・・は?」

突拍子もない言葉に、持っていた枝を落としてしまう。


「せ、先生、ごめんなさい。なんか変な言葉が聞こえたからもう1回言ってくれる?」
「オレと結婚して」

幻聴ではないことに頭を抱える。

「なにおかしいこと言ってるのよ!結婚以前に、私たち付き合ってないじゃない!」
「じゃあ付き合おう」

本当に頭が抱くなってきた・・・。


「なんでそうなるのよ!」
「えー?だってサクラオレのこと好きだろ?」
「だ、誰がいつそんなこと言ったのよ!」

顔を真っ赤にして先生の襟首を掴む。
勢いで先生に掴みかかったから、先生の顔が近いことに気づいて、慌てて離れようとしたけど腰に先生の手が回ってて、驚いて先生を見たら微笑んで見つめてくる。
どうにかして離れようとするのに、それを楽しんでいるようだった。
こっちはそれどころじゃないのに。


「こ、この・・・」
「ほら、サクラだったらそんな顔しないで余裕で振り解いてたよ」


──そんなこと言われても・・・。

上手く力が入らない。
昔はこんなのどうとでも出来たのに・・・。
先生が好きって思ったら、体に触るのにも躊躇してしまって。



「・・・今までのサクラならオレに余所余所しくしなかったし、顔を見ただけで顔が赤くもならなかった。それに・・・」

先生は更に腕に力を入れて顔が近くなる。
恥ずかしくて涙が滲んでくる。

「サスケが好きかって聞かれて、歯切れが悪いこともなかった」
「ねぇ、サクラ・・・?」


心臓が爆発しそう。
先生の目を見ると、縋るような、不安な色が見える。
なんでそんな目で私を見てくるの。
なんでそんなこと聞いてくるの。

私は覚悟を決めて息を吐く。



「先生が、好きだからよ」

想いを告げると、先生は少し哀しそうに笑って。

「それはサスケの代わりじゃなくて?お前はずっとサスケが好きだったろ」


──サスケくん・・・。


「・・・確かにサスケくんが好きよ。同じ班になった時はものすごく嬉しかった。里を抜けたときも、好きだから連れ戻さなきゃって思ってきた」

私の言葉に先生は笑って顔を伏せる。

「でもね」

私は先生の顔を掴んで目が合うように上を向かせる。


「私は先生を愛しいって思うのよ」


先生は片目を大きく見開く。

たぶん、サスケくんの時は恋に恋してたんだと思う。
サスケくんがかっこいいとこだけを見て、それ以外を見ようとしていなかった。

でもカカシ先生は違った。
先生だって戦闘している時とかかっこいい所はあるのに、私はいつも先生の情けないところに愛しく感じていた。
上忍で一目置かれているのに、それ以外は全然ダメで。
遅刻はするし、イヤらしい本は読んでるし、いつもへらへらしてるし。
でも、見てないようでちゃんと見てくれてて。
優しく頭を撫でて微笑んでくれる時が好きだった。
だからナルトたちに負けないように頑張ってた。
また撫でて貰えるように。


たぶん気づいてなかったけど、前から先生のことが好きだったんだ。



「本当に?勘違いじゃなくて?」
「本当よ!」
「本当の本当に?」
「しつこい!好きになったらいけないの!?」

吊り上がった翡翠の瞳が潤み出し、カカシは慌ててサクラを抱きしめる。


「ごめん!サクラが好きになってくれると思わなくて、からかっちゃった」
「・・・なんでよ」
「ずっとサクラのことが好きだったから」

「・・・・・・え?」
「ん?」

私たちは首を傾げる。

「え、先生、私のこと好きなの?」
「あれ、言ってないっけ」
「言ってないわよ!」

頬を膨らませて睨むと先生は眉を下げて、紅く染まった頬を両手で挟む。


「オレはサクラが好きだよ。ずっと、ずっと、お前だけが好きだった」


我慢していた涙が溢れだす。
想いを伝えたら絶対困らすと思ってたから。
今まで通りの関係を続けなきゃって思ってたのに。
こんな優しくて、そして愛おしそうに私を見てくる先生の顔を見たら。


「泣かないでサクラ」
「だ、だって・・・」

溢れ出した涙は止めることは出来なくて、先生は唇にキスをする。
ビックリして目を見開く私に、先生は笑って。

「はは、泣き止んだ」
「も、もう!先生!」

先生の胸を叩くと、ぎゅっと強く抱きしめられる。
そうすると、先生の鼓動が聞こえてくる。
あの時より早い鼓動に、嬉しくなって。
そして安心出来て。



先生の腕の中でウトウトし始めたことに気づいたのか、肩から落ちてしまった私の毛布をあの時のように先生の肩にかけて私を包んでくれた。
そして私を頭を撫でて。


「おやすみ、サクラ」


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