恋人未満(長編)

死んだと思っていたオビトが生きていた。
世界を脅かす敵として目の前に現れ、オレがリンを手にかけたことでオビトは変わってしまった。
でも、ナルトたちのお陰でオレも変われたように、オビトもナルトのお陰で変われた。
ようやく自分というものを取り戻した。
マダラでも誰でもない、うちはオビトを。



****



(サクラ・・・今、うかつに動くなよ・・・!)


マダラによって無限月詠が発動したと思ったら、黒ゼツに胸を貫かれたマダラに地中のチャクラが集まり、それがカグラに変貌した。
カグラはナルトとサスケを吹き飛ばし、ゆっくりとオレたちを気にすることもなく目の前を通る。
チャクラがマダラなど比ではないことは肌で感じ取れる。

「アナタの目的は何だ!?」
「この地はワラワの大切な苗床・・・もう戦いはやめにしよう。ここではな」


そうカグヤが言った瞬間、オレたちは一瞬で溶岩に飛ばされた。
オレはサクラを抱えてクナイに巻物の端を結びつけ、既のところで溶岩に落ちずに済んだ。
オビトはクナイで差し止めるという手荒なことになったが。

「あ!」

サクラの額当てが溶岩の中に落ちて溶ける。

「やはり幻術じゃなかったね・・・」

サクラを片腕に抱えて冷や汗をかく。
一瞬で空間を変える強力な能力。
まさに神だ。
オレが太刀打ち出来る相手じゃない。
出来るのはこの2人だけ──。


オレとサクラはナルトの影分身で岩影に隠れ行末を見守る。
お互い睨み合っていたが、サスケの天照で動き出す。
ナルトが多重影分身を出して


「おいろけ逆ハーレムの術!!!」


カグヤは色んな男に変化したナルトに気を取られ吹き飛ばされる。
サクラはというと鼻血を噴き出していた。


ナルトとサスケがカグヤを封印しようとした瞬間、場所が一瞬にしてまた変わる。
今度は氷の空間に変わった。
ナルトの影分身から全員がこの空間に飛ばされたと聞く。
そうこうしていると、オビトが意識を取り戻す。

「うっ」
「オビト!」
「カカシか・・・どうなった。マダラは倒したのか」

オビトは頭を抱えながら周りを見渡す。

「オレが説明すっから!六道仙人やカグヤのこと、封印のこと!」
「何があったのか分からないが、ならそこにオレを連れて行け。その間に話を聞く」
「向こうはあぶねーかもしれないんだぞ!」
「どうせ残ってるオレたちがやらないと世界は終わる。もうとっくに覚悟は持ってるだろ」

オレは3人の顔をゆっくり見て。

「死ぬ覚悟は」




オレたちはナルトの案内で走っていると、すごい物音とともに氷が動いていた。
時空間を使ってカグヤが移動をする。

「奴が空間をもう一度繋いだときにオレの神威と共鳴させれば間違いなく入り込める。そうすれば、別空間に飛ばされたサスケを探せる」
「よっしゃ!ならオレは本体のサポートに回るから!」
「ただ、膨大なチャクラがいる。向こうでチャクラが切れたら終わりだ」
「ならオレも!」
「お前だけでは足りない」

オレも行きたいが、このチャクラ力では足手まといだ。
すると。

「なら、私の百豪のチャクラがあっても足りませんか」
「それが限度だ。2人ともオレと来い」
「はい」

サクラの覚悟を決めた顔を、オレはただ見ていることしか出来なかった。



「サクラ」

オビトとナルトが話しているときに、オレもサクラに話しかけると、サクラは晴れやかに笑う。

「先生。ようやく私2人に追いつけたの。やっと私の力が2人を助けられるの」

サクラはオレと手を繋いで見上げてくる。
その表情は、あの日泣いている女の子ではなかった。

「カカシ先生。行ってくるわ」
「──うん、行っておいで。オビトを頼んだよ」

力強く頷くサクラの手を、オレはゆっくり離す。


最後の雛鳥がオレの手元から飛び立っていった瞬間だった。



****



オビトの時空間で飛んでナルトが囮役をしてくれたおかげで、私たちが入り込んだことがバレなかった。

「ハアァァ!!」

私はあるチャクラをオビトに流し込む。
オビトが神威で開く時空間の窓はとても小さく、サスケくんがいるのかすらも分からない。
オビトが命を削るようにまた時空間を繋げると、そこから酸が流れ込んでくる。
私は慌ててオビトを庇うとベストと腕に酸を浴びてしまう。
すぐにベストを脱いで服を破ったが、右腕は酸による火傷を負う。

「・・・大丈夫か」
「これぐらい、大丈夫です」
「お前は医療忍者だろ。傷を治すまで待つ」
「そんなのはいいんです。ナルトがくれたチャンスを潰すわけにはいかない。早くサスケくんを・・・」

オビトの肩に手を置いてチャクラを流す。
オビトが血の涙を流しながら開くと。

「サスケくん!早くこっち!!」

砂漠を歩くサスケくんを見つけて呼びかける。
気づいたサスケくんがこっちに走り出すが、オビトの限界がきて窓が閉じ間に合わなかった。

(そんな・・・)

私も限界がきて後ろに倒れ込む。
すると、後ろから誰かに支えられてゆっくりと振り返ると。

「どうやって・・・?」
「オレの能力は、離れても一瞬で入れ替える」

後ろを見ると、投げ捨てたはずのベストが無くなっていた。
サスケくんは私の顔をじっ、と見つめて。

「お陰で届いた」



****



3人が時空間に飛んでから暫くしてカグヤが時空間から戻ってきてまたナルトとの戦闘が始まる。
オレはなすすべなく、ただ見ているだけしか出来ない。
オビトもサクラも、自分のできることをしているというのに。
オレは師としても、友としても、何も出来ず失敗ばかりだった。

「まだまだー!ぜってー負けるわけにはいかねー!!」

ナルトの叫びに、ハッとする。
弟子であるナルトが諦めていないのに、オレが諦めてどうする。
何かオレでも出来ることは──。

そのとき、時空間が現れてオビトとサクラにサスケも現れた。
無事サスケを見つけれたようでほっとする。
そのとき、サスケに気を取られていたナルトがカグヤに身体を刺され崩れていく。
しかし、本体と思っていたナルトは影分身で煙となる。
カグヤを欺くためにしていたようだが、それを知らないこっちはヒヤヒヤとする。


安心していると、また空間が変わり、超重力で立つことも出来ない。
同じように体が動かせないカグヤはそれでもナルトとサスケに先程の術を使おうとする。
危機一髪のところで2人はかわしたが、またカグヤは同じように標準を定める。
オレは伸し掛かる重量から何とか立ち上がり、2人の盾になるために走るとオビトも同じように2人の元に向かう。

しかし重量で思うように体が動かず、間に合わない──そう思った時。

リンがオレとオビトの手を引っ張ってくれたのだ。
そのお陰で攻撃が来る前に2人の盾となれた。

(ありがとう、リン・・・今度はゆっくり3人で話そう・・・)



オレは刺さろうとする杭をこの身に受けようとした瞬間、それは目の前で消えた。

(これは──神威!!)

オレはもう神威を使う目は持っていない。
つまり──。

「オビト!お前・・・!」

ナルトの盾となっていたオビトには深々と敵の杭が突き刺さっていた。

「カカシ・・・お前はまだこっちにいろ・・・」
「どうしてだ・・・お前の力はまだ必要だ!なぜ、役にも立たないオレの為に・・・!」
「そんなことより・・・敵に注意しろ、カカシ・・・」

オビトの言葉にカグヤを見ると、また何かをしようとしていた。
崩れようとするオビトの身体にナルトは力を使うが、意味を成さなかった。

「くっ!」
「よせナルト・・・チャクラを、無駄に使うな・・・」

「何故そんな奴に肩入れをする?そいつは元々敵だぞ。まぁ、かといってこちらとしても裏切られた・・・どっちつかずのクズだがな」

黒ゼツがオビトを愚弄し、オレは奥歯を食いしばる。

「そうだな・・・罪人のオレにふさわしい最後だ・・・」

その瞬間、サスケが敵の虚をつく。
しかし、またカグヤによって時空間を変えられサスケの攻撃は外れる。

「ナルト。そいつはもう助からん。・・・こっちにこい」
「・・・・・・」

ナルトはサスケの言葉を無視してまだオビトに力を使う。

「先に行く」

サスケは須佐能乎でカグヤへと向かう。


「くそ!くそ!!」
「もういい、ナルト・・・」

「ありがとな、ナルト・・・」
「!」
「・・・オレは、お前と闘って何か目が覚めた気がする。まるで、昔の自分を見ているようで、今の自分を後悔していた」

オビトは優しく喋り、だんだんと身体が崩れていく。

「いつかオレに言ったな。まっすぐ自分の言葉は曲げない。それがオレの忍道だと」
「ああ・・・」
「ナルト・・・」


「お前は・・・必ず火影になれ」

「・・・ああ!!」

そう言うとオビトの体はボロボロと崩れ落ちていった。
オビトが死んだことでまた黒ゼツがオビトを愚弄し、ナルトは一瞬でカグヤに殴りかかる。
オビトの言葉を胸に抱いて。




オレはまた何も出来なかった。
写輪眼を持たないオレには何の力もない。
オレは、誰も守ることが出来ない──。

何も出来ない自分に怒りを覚えていると、いきなりオビトの体から炎があがりオレへと向かってきて。
気づいたら、目の前に下忍時代のオビトが現れる。
オレも昔の姿で。

「オビト・・・!?」
「あの世に行く前に、お前がすぐこっちに来ないようにしておこうと思ってな。それに、上忍祝いのプレゼントを返されちゃ寝覚めが悪くてよぉ」
「オビト、お前・・・」
「それより、ナルトには火影になれっつったけどよ。それは七代目だ。六代目はお前がなれ、カカシ」
「!!」

驚くオレに、オビトはニッと笑って。

「まだ就任した訳じゃないが、先に祝いのプレゼントを先にやっとくよ。そもそも、他国にまで轟かせた名を忘れたわけじゃないよな?」



「"写輪眼のカカシ"の名を!!」



****



ナルトとサスケくんの攻撃でカグヤの身体が大きくなり、白い手が襲ってくる。
それに捕まったナルトの影分身が取り込まれる。

「きゃっ!!」

今までと比べ物にならない速さのそれが目の前に現れて、急いで逃げるが一瞬で距離を縮められ捕まりそうになった瞬間。
横から勢いよく掴まれ、敵の攻撃に捕まらずに済んだ。
守ってくれたのを見ると。

「カカシ先生!?」

それは両目に写輪眼を持った先生による須佐能乎だった。
しかし、先生の目はマダラに奪われたはず。
それに・・・。

先生は須佐能乎を操って神威手裏剣でカグヤに攻撃する。
私はその間に先生と同じところに入る。

「思った通りだ。六道の力を得ていた分瞳力が上がっている」

(やっぱりオビトの写輪眼・・・何でカカシ先生に!?)

「うぉぉー!サスケのよりすげー!!」

テンションが上がってナルトが喜んでいると、下からカグラの攻撃が襲ってくる。
身体をコントロールしたカグヤまでもが巨大な求道玉を生み出した。

「アレはオレと同じ玉だ」
「大きさが違い過ぎるだろ!」
「さすがにあの大きさじゃ神威では飛ばせない・・・」
「あれを止めるには」
「本体のうさぎババァを今すぐ封印するしかねーってことば!」
「だよね・・・」

「集まれ。作戦を伝える。これがオレたち元第七班の最後の任務だ!オレたちで世界を救うぞ!」
「オウ!」
「ふん」

私は隣にいる先生の顔を見上げる。
先生はいつもの安心させてくれる顔じゃない。
頼りにしてるという顔を向けてくれる。
私はそれだけで嬉しくて頬が緩んで引き締めて。

「了解・・・!」


****


一斉に攻撃をしにいくも、カグヤの方が早く須佐能乎に突き刺さる。
壁を突き抜けて杭がオレに刺さる。
とみせかけて、体をすり抜けていった。
やはりオビトの能力は使えるらしい。
そしてこの技も回復だ。

「神威雷切!!」
「くっ!!」

オレはカグヤの右手に当てて使えなくする。
その隙に左右からナルトとサスケが封印しようと手を伸ばす。
負けじとカグヤは空いている左手でナルトに攻撃をするも影分身。
ナルトがサスケに変化していたのだ。
また時空間窓で敵の攻撃がナルトに向けられ、それを神威で飛ばす。
サスケと術で転移をして一瞬でカグヤを挟む。
左右に逃げられないと思ったカグヤが上に逃げると、そこにはサクラが待ち受けていて。


「同じ女なら・・・バカにしないで!!」

サクラは思い切りカグラの頭を殴りつける。



左右にナルト、サスケ
上にサクラ



──うん、いい絵だ。
今のお前らはー


"大好きだ"



****



ナルトとサスケによってカグヤを封印することが出来た。
が。

「私たちはどうすんの!?この空間からどうやって戻るのよー!!」
「アーー!!」

ナルトとサクラが騒いでいると、気づいたらオレたちは別の場所にいた。
そこには歴代火影や、他里の歴代影達。
そして目の前には中に浮いている人物が。

「・・・ナルト、この人誰?」
「六道の大じいちゃんだってばよ!」
「よく戻ってきた。ナルト、サスケ、そして皆。よくぞ世界を救ってくれた」


目の前にいる人が六道仙人で、歴代の五影を黄泉から呼び出して、オレたちをあの空間から連れ出してくれたのだという。

「こんな神がかったことが出来るのは、あなたくらいでしょうから」
「・・・お前がはたけカカシか」
「・・・?あ、はい・・・」
「よくぞ皆を導き母を封印してくれた。これこそ神の未技よの」
「いえ・・・オレはほとんど何もしていません。こいつらと、多くの仲間のお陰です。それに・・・かつての友が助けてくれたので」

オレは自分の目を押さえる。
そこには友からの最後のプレゼント。


ナルトは九喇嘛を見つけてはしゃぎ、九喇嘛はナルトを叱る。

「あの九喇嘛が恥ずかしがっておるわ。だがこれこそワシが思い描いていたもの。尾獣たちが己から協力したくなる忍が現れたのだからな」
「オビトのことも、ナルトがオビトを戻してくれた」
「そうか・・・ならあの世でオビトにも詳しく聞こうとしよう。・・・・・・彼はまだ?」

六道仙人はオレの目に気づく。
オレはその言葉に目を閉じ、目を開ける。
そこには最後の姿でオビトがいて。

「そろそろ行く」
「そうか・・・」
「オレは忍の世界を無茶苦茶にした・・・今更何を言ったらいいのか・・・」

オビトは申し訳なさそうに頭を下げる。
確かにオビトのしたことは赦されることではない。
この闘いで何人もの死者が出た。
だがオビトもマダラに出された被害者のようなものだ。

「・・・最後は敵ではなく友として別れが出来る。オレにとってはそれだけでいい」

オレがそう笑うと、オビト少年時代の、友だった姿に変わる。
それはオレも。

「ありがとな、カカシ・・・。リンを待たせてっからもう行くよ」
「遅刻の言い訳は考えてあるのか?」
「お前を助けてくるって言っといた」
「そうか・・・」

オビトはニッと、笑って消える。

──こっちこそ、ありがとうなオビト・・・。



現実世界に意識が戻ると共にオビトの写輪眼が消え、身体が後ろに傾く。

「カカシ先生!!」

隣にいたサクラが慌ててオレの体を支えてくれる。

「サクラすまない・・・」
「カカシ先生、眼が・・・!」

サクラは目が元に戻っていることに気づいて覗き込んでくる。

「あぁ・・・写輪眼のカカシも今日で終わりだ」

そう清々しく言うと、オビトとのことを悟ったサクラは安心したように笑った。



六道仙人が穢土転生を解術すると聞いてナルトが慌てて四代目の元に向かう。

「父ちゃん・・・」
「ナルト、誕生日おめでとう。本当に大きくなったね」
「うん・・・サンキュー」

四代目の体が光出すと、ナルトは慌てて自分のことを話す。
先生と、天国にいるクシナさんを安心させるように。

「だから、だから・・・オレってば父ちゃんを超す火影になる!ぜってーなるからな!!あっちで母ちゃんにも伝えてくれ!オレのことは全然心配なんかすんなって・・・!!」


──分かった。全部しっかり伝えておくよ・・・。


そう言って四代目は消えていった。
まさかこんな形でまた先生と共闘出来るとは思わなかった。
少しは成長したところを見せれただろうか。


他の火影たちも同じように消えていき、残ったのはオレ達と尾獣と六道仙人だけに。
尾獣たちはようやく解放されたことに、それぞれの過ごし方を話し始める。
九尾は他の尾獣がナルトの中に戻りやすくなるよう残るように言われる。
まんざらでもない九尾に、皆ナルトに救われたのだ。


無限月詠の解術のために六道仙人がサスケに話しかける。

「して、サスケよ。お前は・・・」
「そうだな・・・」

「まずは・・・この無限月詠のなか今の五影共を処刑する」
「!・・・今、何て言ったサスケ」
「それとな、尾獣共。お前らオレの監視下に置く」

九尾はその言葉にサスケを襲うが、輪廻眼で幻術に嵌められる。

「ナルト・・・やはりこうなったな。ワシはもうじき消える」
「あぁ・・・六道の大じいちゃんには悪りーけど、大じいちゃんの子供らみてーにはならねえよ」

「サスケ!それがお前の今の夢なのか!まだ復讐を望んでいるって言うのか!」
「確かにかつてはそれが目的だった。だが今は違う。破壊してそれを作り直す。オレが掲げているのは・・・革命だ」
「革命だと・・・!?」

──サスケを変えることは出来ないのか・・・?

そう思っていると、サスケは印を組み、尾獣たちを地爆天星で空高く閉じ込めた。


「邪魔者は居なくなった・・・お前以外はな・・・場所を変える。お前なら分かってるな」

サスケはナルトにそう言うと背を向けて歩き出す。

「待てサスケ!」

このままサスケを行かせるわけにはいかないと追いかけようとするも、写輪眼の影響で体を上手く動かせない。

「先生!」

サクラはオレの体を支えようと駆け寄ってくれる。
サスケはオレを気にすることもなく去っていこうとする。
そんなサスケにサクラは覚悟を決めた顔をして、自分の不甲斐なさ、悲痛な心の声を叫ぶ。

「もう遠くへ行かないで!ずっと一緒にいれば、いつか、昔見たいに・・・!」

その声にサスケは足を止め。



「お前は本当うざいな」



サスケがそう言った瞬間、サクラの体はふらつき地面に倒れる。

「サクラちゃんに幻術まで掛けることはねーだろ!!」
「そのままじゃこいつは追ってくる。邪魔だ」

オレは倒れたサクラの様子を見ると、愛する者を想う涙を流して気を失っていた。
この涙にどれだけサクラのお前への想いと覚悟が込められているのか知らないのだろう。
オレはサクラからサスケに目線を移す。

「サクラは、お前を助けたかったんだ。ずっと・・・」
「恋愛ごっこでも楽しめってのか?オレにはこいつを好く道理もない」

お前が居なくなって、ずっとお前を止められなかった自分を追い込むサクラを見てきた。
お前よりも、ずっと側で。

「サクラは今お前を自分のものにしたいわけじゃない!ただお前を助けたいんだ!今でもお前を想い涙を流すのは・・・お前を愛して苦しんでいるからだ」

「それが・・・失敗した過去の縛りなのかもな・・・」

サスケはそう言って去っていった。
やはりオレの言葉じゃあいつを救えない。
救えるのは──。

「約束したんだ。昔、サクラちゃんと、サスケはぜってー連れ帰るって」
「ナルト・・・」
「先生!オレの忍道はもう知ってんだろ?行ってくっぜ!」

「あぁ・・・頼んだぞ」





「愛情とは難しいものだな」

今まで傍観していた六道仙人が話しかけてくる。

「かつてのワシの2人の息子も、2人を愛し2人もワシを敬愛していた。だが弟にだけに託し兄はワシと弟を恨むようになった。愛情が憎しみに変わったのだ。マダラもな」

オレは彼の言葉を聞きながら、気を失っているサクラの頬を指で撫でる。

「サスケとナルトも同じ運命だと、そう仰りたいのですか?」
「そうではない。ワシも己なりに未来は良いものにしたいのだ。今回は2人に力を託したのだ」

「ナルトに任せてみるとしよう。今度は憎しみが愛情へと変わるのを願いながら──」



****


日が傾いた頃、サクラが目を覚ます。

「目が覚めたか」
「もう・・・夕方・・・?」

サクラは周りを見渡す。

「!!サスケくんとナルトは!?」
「おそらく、決着をつける為、2人は最後の闘いをしている」



****



サクラの肩を借りてある場所へと向かう。
そこは初代とマダラが闘い、ナルトとサスケが闘った終末の谷。

「いた!」
「やっぱりここだったか・・・」

石像の上で倒れているナルトとサスケを見つける。
サクラが崖を降りて2人の元に近寄ると、2人の片腕を無くしているようだった。
サクラは2人の腕を治す。
崖の上からサクラが泣き、2人が笑っているのが見える。

オレは初めて3人に出逢ったときのことを思い出す。
ようやく。ようやくだ。
オレは額当てを戻し。


「やっと・・・戻ったね」

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