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カップルあんみつ

とある日。
サクラはいきつけの甘味処に貼られている張り紙を仁王立ちして凝視していた。
行き交う人々は異様な雰囲気を放つ少女をチラチラ見ているが、サクラは一切気にすることはない。

「──よし」

じっと張り紙を見ていたサクラは、何かを決めたように1人頷いていたのだった。



****



「カーカシせんせっ!」

任務が終わって報告書を出しに行こうとするカカシ先生を後ろから呼ぶと、ゆっくりと、嫌そうな顔で振り返る。

「なによ、その顔は」

そんな顔をされる謂れはないと、顔を膨らませて睨む。

「そんな猫撫で声で呼ばれたらそうなるでしょ。なんだ。またあんみつか」
「うん!」

満面の笑みで頷くと呆れたように先生は笑う。
修行や任務で頑張ったときに先生を引き連れて甘味処に行く。
初めて先生と行った時に奢ってくれて、すっかり味を占めてしまったのだ。
先生が嫌な顔をするのは、ほぼ女性客で埋まる店内にいるのが居心地が悪いらしい。
そんな先生を問答無用に引っ張って目的の場所へと歩く。



****



「いらっしゃいませ」
「2人で!」
「かしこまりました。こちらの席へどうぞ」

サクラは鼻を荒く鳴らしながら店員に案内された席に座る。
いつもよりテンションが上がっているように見えるのは気のせいだろうか。
暫くすると店員が水を持ってきたので、そのタイミングでサクラが注文する。

「すみません、これ1つ。先生は?」
「あー、寒天と温かいお茶を」
「かしこまりました。寒天と温かいお茶と──カップルあんみつですね」
「ぶっ!!」

注文をサクラに任せて水を飲んでいたら店員の繰り返しに水を噴き出す。

「きゃーー!カカシ先生なにするのよ!!」

目の前に座っているサクラに思い切りかかり、お手拭きでかかったところを拭きながら睨まれる。
店員が心配そうに新しいお手拭きと水を持ってきてくれるが、咳き込みが止まらなくて、サクラが代わりに返事をして店員が去っていく。

「ほら、お水飲んで」

サクラにコップを渡された飲み干す。

「・・・サクラ」
「なに?」

息を整えてサクラを呼ぶと、キョトンとした顔をする。

「・・・なんか、さっき店員が変なこと言ってたと思うんだけど」
「変なこと?」
「なんとかあんみつって」
「あぁ。カップルあんみつね」


オレは頭を抱える。
顔を覗き込んでくる目の前の少女は何を言っているんだろうか。

「今日からカップル限定のあんみつが出るって張り紙で見てね。絶対来なきゃでしょ?でも彼氏いないから困ってたの」

それでようやくサクラのテンションが高い理由を知る。

「だったらナルトとかサスケとか・・・」
「ダメよ!サスケくんは絶対断るに決まってるし、ナルトは絶対煩くするしラーメンが良かったとか文句言うに決まってるもの」

つまりオレは消去法で選ばれ、しかも奢らされるのか。
腑に落ちない。
店内を見渡すと、心なしか・・・いや、明らかに男女の客が多い。
オレたちも周りから見たら恋人に見えるのだろうか。
と、そんな考えが頭をよぎり焦る。
今の状況を知り合いに見られるのはまずい。

「サクラ、あのさ」
「あ、キタキタ!」

目的の注文は出来たならオレはもう帰ると言おうとすると、タイミング良いのか悪いのか店員が運んできた。

「お待たせしました。寒天とお茶と、カップルあんみつでございます」
「きゃー!可愛いー!」

店員がサクラの前にあんみつを置くとサクラのテンションが上がる。
いつもと同じように見えるが、お餅がピンクでハート型になっており、量も倍で、2人分のハート型のスプーンが付いている。
が、サクラは絶対渡さないとガッツリお皿をホールドして美味しそうに食べていた。
甘いものが苦手だからあげると言われても食べるつもりはないので、落ち着いて食べたらいいのにと微笑ましくなる。
ふと、先程言おうとしたことを思い出す。
早くここから出ないと知り合いに見つかる可能性が出てくる。

「サクラ」
「なに?」

頬に手を当てて嬉しそうに笑うサクラが顔を上げる。

「あのな、オレ・・・」
「申し訳ありません!」

また店員に言葉を遮られ、何事かとそちらを見て頬が引き攣る。


「こちら、カップルあんみつを注文されてた方にお出しするカップルジュースを忘れておりました」

店員が持ってきたのは、ビールジョッキぐらいの大きさのグラスに入った苺のジュース。
それだけならいいのが、グラスに刺されてるそれ。
飲み口が2つに分かれ、真ん中でハートになっている1つのストローだ。
いかにもカップルが飲みそうな代物。

「かわいー!」

サクラはもっとテンションが上がってジュースを1人で飲む。
先程からカップルの要素が何1つないのだが。

「そう言えば先生。何言おうとしたの?」
「あ、あぁ。もうオレは・・・」

店を出る。
そう言おうとすると、サクラの視線がオレから後ろへと向けられた。

「サクラ?」

首を傾げていると。



「へぇ?」



聞き覚えのある声が後ろから聞こえてバッと振り返る。
そこにはオレの同期である紅と、サクラの親友のいのがニヤニヤと笑って立っていたのだ。

「お、お前ら、なんでここに・・・」
「甘いものを食べに来たに決まってるじゃない。ちょうどいのちゃんと会って2人で来たのよ」
「へ、へぇ・・・」

オレは真っ直ぐ2人を見れず、顔を逸らして冷や汗を全身でかいていた。

「それより、さっき店員さんがあなた達に面白いこと言ってたわよね、カカシ?」

ビクッ。
大袈裟に肩が上がる。



「あなた達、恋人同士だったんですって?」



それからのことは覚えていない。



****



悪魔2人によってオレとサクラが付き合っている、という噂が一瞬で里に広まった。
次の日の朝、待ち合わせに行くと大号泣しているナルトにボコスカ殴られて、サスケは軽蔑した目でオレを見てきていた。
オレは昨日のことで疲れ切っており、今日は任務ではなく自己練をさせることにした。
1人木陰で休んでいるとサクラが近づいてくる。

「カカシ先生」
「なに・・・?」

疲れ顔で顔を上げると、ニコニコと嬉しそうに笑うサクラ。


「あのカップルあんみつ、好評らしくて毎月期間限定でやるらしいの!また付き合ってね」
「勘弁してくれ・・・」


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