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最近カカシ先生がおかしい。

話しかけると困ったように笑うようになった。
頭を撫でてくれなくなった。
抱きつくと固まるようになった。

何かあったのかなって思っても、ナルトとサスケくんにはいつも通りで。
先生は私にだけよそよそしくなった。
それが悔しくて、悲しくて。
何でこんな風に思うのかは分からないけど。


今日は迷子の犬を捕まえる任務。
私が捕まれれば絶対褒めてくれる。
あの大きな手で頭を撫でてくれるって思って、2人が引くぐらい頑張って泥だらけになって捕まえた。

「先生!私が捕まえたのよ!」
「おー、サクラ。すごいな」

先生は前みたいに笑ってくれて、右手をポケットから出して私の頭まで上がる。
なのに、その手は頭に触ることなく降ろされた。
撫でてくれると思っていた私は先生を見上げると、また困ったように笑って私から離れた。

「あれ、ナルトは?」

先生は何事もなかったかのようにサスケくんに話しかける。
私は犬を抱っこしたままその場に立ち尽くしていた。

──私、何かしちゃったのかな・・・。

口を一文字に結んで、犬をぎゅっと抱きしめた。


「お待たせー!」

ナルトは犬が迷い込んだ林の中から遅れて出てくる。

「何やってたんだウスラトンカチ」
「このリスが怪我してたから治してたんだってばよ」

ナルトは肩に乗せているリスを指で撫でる。
リスは治療して貰ったナルトに懐いているようで頬擦りをしている。

「そうか。偉いなナルト」

先生はそう言って、ナルトの頭を撫でる。
ナルトも嬉しそうに笑っている。
そんな2人を見てるとイライラと悲しい気持ちが混ざる。


──なんで私だけ。私に忍としての才能がないから見放したの・・・?




「・・・サクラ?」

サスケくんの声に顔を上げる。

「どうした」

気づいたら近くにサスケくんがいて、珍しく心配そうな顔をしていた。
私は溢れそうな涙を堪えて無理やり笑う。

「なんでもないの。ちょっと疲れたみたい。早く任務終わらせて帰りましょ」

それでもサスケくんは納得してない顔をしていて、その奥にいるカカシ先生と目が合った。
私は気まずくなって、先生の視線から逃げた。



****



迷い犬を受け付けのイルカ先生に引き渡して、カカシ先生の合図で解散となった。
私はナルトにラーメンに誘われたけど断って、1人とぼとぼと家路を歩く。

「サクラ」

後ろから聞き覚えのある声で呼ばれ、肩越しにチラッと見る。
そして返事もせずまた歩き出す。

「サクラ、何か怒ってる?」
「別に」

私は先生から離れたいから早歩きなのに、歩幅が違うから先生は普通に歩いているのに距離は変わらない。
私はこのまま家に帰りたくなくて、適当に道に入ってもずっと先生がついてくる。

「サクラどこ行くの」
「もう!付いてこないでってば!」

人通りが少ない道に入っても付いてくるから、我慢出来なくて振り返って先生を睨む。

「なんで付いてくるの!」
「なんでって、サクラが心配だから」
「嘘!!」

大きな声を出すと、先生が驚いたように目を開いている。

「嘘じゃないよ」
「嘘よ!だって・・・」
「だって?」

ぐっ、と唇を噛み締める。
俯いているから瞳からはぼろぼろと涙が溢れる。

「サクラ」

先生はしゃがみ込んで覗き込んでくる。
前みたいに優しい瞳で見つめてくるから、どんどん涙が溢れてきて拭う。


「だって・・・先生、触ってくれなくなった・・・」
「え?」
「前は、頭撫でてくれたのに、抱きついても困った顔、しなかったのに・・・」

しゃくり上げて泣いてるから、途切れ途切れになってしまう。

「私に、忍の才能ないから、みかぎったんでしょ・・・それなのに、心配なんて、言わないでよぉ・・・」

子供みたいに泣いて、絶対先生困らせた。
無言が怖くて先生の顔が見れないでいると、急に抱きしめられる。


「・・・え?」


何が起きているのか分からないでいると、先生は抱きしめながら大きく息を吐く。

「・・・ごめん、サクラがそんなに思い詰めらせてるなんて知らなかった」
「せんせ・・・」
「サクラは何も悪くない。ちゃんと忍として成長してる。幻術の才能だってあるし、今日だって2人より先に見つけた。それは犬がいそうな場所を考えて探したからだろ?」
「・・・うん」
「あの2人はがむしゃらに探してた。頭の回転の速さはおいそれと手に入るものじゃないからね。サクラの才能だ」
「うん・・・」

私はぎゅっと先生にしがみつくと、先生も強く抱きしめてくれる。
久しぶりに先生の匂いを嗅いだ。
洗剤の匂いじゃなくて、先生の、優しい落ち着く匂い。


「じゃあ、何で私のこと避けてたの?」

涙も落ち着いて、鼻を啜りながら先生を見上げる。
すると、先生は何か困ったように斜め上を見る。
まだ何かあるのか、と不安な顔が出ていたのか、先生は頭を掻きながら真っ直ぐ、真剣な目を向けてくるからドキッとする。



そしてマスク越しに動く唇から発せられた言葉に、思いもよらなくて唖然とする。


口を開けて固まる私を見る先生の顔は、口布を付けてても赤いことが分かる。
その顔が、瞳が、本気なんだと分かって。

先生は立ち上がり「送るよ」と未だにしゃがみ込む私を立ち上がらせて、手を引っ張って私の家に向かう。
繋ぐ手はいつもより熱い。



たった一言。
そのたった一言で、私の心臓は鷲掴みされたのだった。


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