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「サクラ、物置部屋からこの巻物持ってきてくれ」
「分かりました」

綱手から巻物の名前が書かれた紙を渡された執務室を出る。
物置部屋とは、綱手が巻物やら書類を詰め込んだ部屋。
シズネと時折片付けはしているが、どんどん積み上がっていくから追いつかない。

「えーと・・・確か、このへんに片づけたはず・・・」

サクラは埃が舞う部屋の奥へと進む。
紙に書いてある名前と巻物を見ながら手に取っていくと、棚の上から音がしたので顔を上げようとした瞬間。


ゴンッ


「〜〜〜〜!!」

サクラの頭めがけて太い巻き物が落ちてきた。
鈍い音がして、頭を抱えるときに思わず巻物を落としてしまう。
床に落ちた衝撃で巻物の1つの鍵が外れてしまった。

「わっ、やっちゃった」

慌ててその巻物を取ろうとすると、封と書かれた巻物から煙が出ていたのだ。
え、と思った瞬間、サクラは煙に包まれた。



****



「失礼します」

執務室をノックしてカカシは入る。
その後ろにはナルトも。

「おぉ。どうだった、任務は」
「つつがなく終わりました」
「綱手のばーちゃん。もうちょっとやりごたえのある任務をくれってばよ」

腕を頭の後ろで組んでブーブー文句を言うナルトに、頭を抱えるカカシ。

「文句を言うな。今私は忙しいんだからサクラを任務に出せないんだよ。カカシ1人でお前の面倒を見ないといけないんだから我慢しろ。それかお前が成長しろ」

眉間に皺を寄せる綱手に睨まれてもナルトは納得いかない様子で、カカシが代わりに謝る。

「それで、サクラは?」
「あぁ。私の命で巻物を取りに行かせてるんだが・・・遅いな」

綱手が時計を見ると、彼此1時間は経っていた。

「じゃあ、オレが様子見てくるってばよ!!」
「あ、おい!」

カカシの制止を聞かず、ナルトは部屋を飛び出す。

「・・・すみません」
「あいつは大きくなっても成長しないな。まぁいい。それで次の任務なんだが──」





バタバタバタバタ、バン!!


廊下から走る音が聞こえ、執務室が勢いよく開けられる。
見なくても誰か分かり、カカシはため息を吐いて振り返る。

「ナルト。ドアはちゃんと──」

カカシが言葉に詰まり、不審に思った綱手が顔を上げると同じように固まった。


そこには、口をパクパクとさせ顔を真っ青にしたナルト。
そのナルトに抱えられているのは、ぶかぶかの赤い服を着た涙目の薄紅色の髪の少女。
一見ナルトが少女を誘拐してきたように見えたが、2人にはその少女にものすごく見覚えがあった。

「・・・ナルト、その子・・・」
「へ、部屋に入ったら、巻物が散らかってて、そこにこの子がいたんだってばよ・・・」

ナルトは涙目になりながら話す。
ナルトはその少女の顔がよく見えるように抱え上げる。

「か、カカシ先生、この子・・・サクラちゃんそっくりだってばよ・・・」


少女は盛大に泣き出した。







「シズネに確認しに行かせた。どうやらこの巻物らしい」

綱手が机の上に広げたのは、封と書かれた巻物。

「これは?」
「私が趣味で集めていたものだ。若返・・・年齢に作用すると聞いて取り寄せたんだが、どうしても封印が解けなかったんだ」

何故封印が解けたのか、と綱手は豊満な胸の下で腕を組む。
カカシがチラッと見ると、シズネの体に隠れる少女がビクッと震える。
その少女は5〜6歳程度で、薄紅色の前髪を下ろしていた。
こちらには見覚えはあるのに、彼女には──。

「どうやら、記憶も戻るらしいな」

綱手は諦めたようにため息を吐く。

「どうされますか、綱手様」
「んー・・・私もお前も面倒を見れる状況じゃない。頼りの紅も今はなぁ・・・」

サクラの顔見知りである紅は、アスマの子を妊娠したため休暇を取っている。
負担をかけるわけにはいかない。

「じゃあ!じゃあ!同じ班だしオレが面倒見るってばよ!」
「却下」
「なんで!!」
「当たり前だろうが。そんな下心がある奴に見せれるか」

ナルトは口を尖らせてブーイングする。
綱手はナルトに舌打ちをしてカカシを見る。


「カカシ。お前が見ろ」
「はっ!?オレですか!?」

まさか自分に矛先が向くと思っていなかったカカシは驚く。

「お前はサクラの担当上忍だろ。面倒を見ろ」
「いやぁ、一応オレも男なんですが・・・」
「だからなんだ。お前はこの年の子に恋愛感情を抱く奴なのか」

そうだったら殺す、という目で睨まれてカカシは慌てて否定する。

「いえ!全くありません!」
「ならお前が見ろ。ことを大きくしたくはない。もしかしたら1日で戻るかもしれん」
「はぁ・・・オレはいいんですが・・・」

この場にいる全員の目がサクラに向き、怖がるサクラがシズネに縋り付く。
明らかにオレの容姿に怖がっている。

「カカシ、お前は明日までそれを取れ」

ナルトはその言葉に目を輝かせて覗き込んでくる。

「ナルト。お前はもう帰れ」
「もうちょっと・・・」
「さっさと出て行かんか!!」

綱手がナルトめがけて巻物を投げつける。
次々と巻物が投げ飛ばされ、ナルトは悲鳴と共に執務室から出て行った。
綱手の有無を言わさない鋭い視線がナルトからカカシに移り、カカシはため息を吐いて額当てと口布を外す。
そしてシズネに隠れるサクラの元に近づき、目線が合うように跪く。
昔はサクラの身長がオレの胸あたりで、よくこうやって目線が合うように屈んでたなぁ、としみじみ思ってしまう。

「サクラ・・・ちゃん、嫌かも知れないけど、明日までおじちゃんが一緒でもいいかな?」

自分でおじちゃんと言う日が来るとは・・・。
しかも幼くなったとはいえ元教え子に。
目の端で綱手とシズネが笑いを堪えてるのが見えるが、気にせずサクラに笑いかける。
顔を隠すものがなくなり、お得意の笑顔をサクラに向けると、恐る恐るだが頷いてくれてほっとする。



****



「サクラちゃん、ココア好き?」

サクラの手を引いてカカシの部屋に連れてきた。
サクラは不安そうな顔で部屋を見て、カカシが話しかけると頷く。
やはり甘いものが好きなのは変わらないらしい。
時折カカシの部屋に遊びにくるサクラのために買っておいたココアを出す。
椅子に座るサクラは嬉しそうに笑ってチビチビと飲む。

その向かいに座ってサクラを観察する。
子供になったサクラは一言も発していない。
いや、シズネと喋っているのを見たから喋れるのは喋れるのだろう。
それに、いつもは出している額は目元まで髪で隠されていた。
あの小煩いサクラが幼少期はこんなに大人しかったのかと驚く。


じっと見ていたのに気づいたのか、ココアを飲み終わったサクラはアワアワし始める。
なんか、見た目はサクラなのにサクラじゃないようで変な感じがする。
チラッと時計を見ると、もう21時を過ぎようとしていた。

「サクラちゃん、1人でお風呂入れる?」

サクラは小さく頭を横に振る。
さすがに子供といえど、サクラはサクラ。
お風呂に一緒に入って戻ったときに記憶が残ってたら命がないかもしれない。
いや、それ以前に綱手に殺されるかもしれない。

「・・・明日、さっきのお姉さんに洗ってもらって」

ぎごちなく笑うとサクラは頷く。

「もう、寝る?」

そう聞くと、サクラはまた頷いた。



「じゃあ、ここ使って。オレはこっちで寝るから」

ソファーを指差しながらサクラを見る。
サクラはカカシのTシャツを着ているのだが、大きすぎてワンピース状態になっている。
邪な目で見ていると思われたくなくて側を離れようとすると。

「ぁ・・・」

小さな声が聞こえた。
一瞬空耳かと思ったが、聞き慣れたサクラの声を聞き間違うはずもなく。
振り返ると、サクラはベッドの上に座り、なにやらモジモジと恥ずかしそうにしていた。

──もしかして。

「一緒に、寝る?」

そう聞くと、サクラは力強く、それでも恥ずかしそうに頷いた。




「ごめんね、狭くて」

サクラは小さく横に首を振る。
シングルベッドに2人。
サクラは小さくなったとはいえ、それでも狭い。
サクラはカカシの胸に擦り寄るように小さくなっている。
ふと、サクラの前髪が気になった。
前髪を少し触ると、サクラが小さく跳ねる。

「サクラちゃん、前髪邪魔じゃない?上げたらいいのに」
「ぁ・・・サクラの、おでこ、ひろいから、かわいくないって・・・」

サクラは小さく辿々しくだが、ようやく声を聞かせてくれた。
そういえば、下忍時代によくいのちゃんがサクラのことを「でこっぱち」と言って怒らせていた気がする。

「そんなことないよ。サクラちゃんのおでこ可愛くて好きだよ、オレ」
「ほ、ほんと・・・?」

サクラは瞳を潤ませて不安そうに顔を上げてくる。

「うん。おでこ見せた方がもっと可愛い」

カカシは安心させるように笑うと、初めてサクラの笑顔を見た。
カカシはサクラの前髪をよけて、可愛い額にキスをする。

「そろそろおやすみ」
「うん・・・」

サクラは安心したのか、すぐに寝息を立てる。
初めて会った時からサクラは額を出していたので何とも思わなかったが、こんなコンプレックスがあったとは知らなかった。
もう何年もサクラの側にいたのに知らないことはたくさんあるんだな、とカカシはサクラを抱きしめて夢の中へと落ちていった。



****



ビリビリ、ビリ


「ん・・・んん・・・」

サクラは近くで聞こえた音に目を覚ます。
頭の中に靄がかかったような、いつもの寝起きの良さが嘘のようにボーと天井を見る。

──知らない天井。

サクラはそう思って、顔を横に向けると、そこには気持ちよさそうに寝ているカカシの素顔。
一瞬止まって、バッと起き上がる。


──え、え、何でカカシ先生が!?

そこで、ようやく頭の靄が晴れてきて昨日あったことが鮮明に思い出して頭を抱える。
子供だったとはいえ、先生とはいえ、男の人をベッドに誘うなんて・・・。
子供の時の記憶は覚えてる。
人が見ている光景を映画館で見ているという不思議な感覚で。
自分が思っていることは違う言葉を自分の声で聴こえてくる。
そして、師でも上司とも違う顔をむけるカカシに胸が変になっていた。
なんか、男の人に見えて──。


昨日の自分に悶えていると、気配を感じたのかカカシの目がゆっくり開く。

「ん・・・サクラ、もう起きたのか・・・」

カカシは目を擦りながら体を起こす。
その目は普段より半分しか開いてなくて、声が掠れていつもより低くてドキッとしてしまった。

「あ、お、おはようございます、カカシ先生」
「ん、おはよう・・・戻ったみたいで良かったな。体の調子はどうだ」
「今のところは体に異常はないです」
「それは良かった。とりあえず、このまま綱手様に報告してくるから、サクラは今日は帰って休め」
「え、私も一緒に・・・」
「あんなとこがあったんだ。ちゃんとゆっくり休みなさい」

カカシはサクラの頭を撫でながらいつものように微笑む。
そう、変わらないのに。
マスクがないだけでこんなにも胸がときめくものなのか。
カカシがベッドから降りようとすると、毛布の下にある何かが手に当たる。

「なんだ?」

カカシがそれを掴んで引き出す。


それは。
左右がちぎれた子供用のパンツ。

「!!?」

サクラはバッとTシャツを抑える。
そういえば、下半身がスースーする。
寝ている間に体が元に戻った。
Tシャツは先生のを借りていたので、ワンピースから少しぶかぶかのTシャツになっただけ。
でも下着は。
シズネが買ってきてくれた子供パンツは、体の大きさに耐えれなくて裂けてしまったらしい。

そしてそれを先生が手に持っていて。
先生の視線がパンツから私の下半身に移動したのが分かった。


「サクラ、もしかしてノーパ」
「しゃんなろーーーー!!」



サクラは叫びと共にカカシをベッドから殴り落とした。



****



「あ、サクラちゃーん!」

次の日、体調に変化もなかったので仕事場に出てくると、後ろからナルトが大きく腕を振りながら駆け寄ってくる。

「ナルト」
「サクラちゃん、もう体は大丈夫なのか?」
「うん、この通り。迷惑かけてごめんね」

サクラは手を合わせて謝る。
ナルトが見つけてくれなかったらどうなっていたことか。

「それはいいんだけど・・・でさ、サクラちゃん」
「なに?」

なにやらモジモジしながらナルトはチラッとサクラを見る。

「き、昨日サクラちゃん、カカシ先生のところに泊まっただろ?何かあった?」
「え゛」
「その反応・・・やっぱり何かあったのかってばよ!!」

ギクリ、としたのをナルトに見抜かれて肩を掴まれる。

「ない!ないわよ!あるわけないじゃない、カカシ先生よ?」

サクラは苦笑いしながら肩からナルトの手を離す。
ナルトはその言葉に納得したのか、頷く。
すると。


「えー、そんなことないだろサクラ」

後ろからするっと腕が回り、背中にピタッとくっ付く、よく知った声の持ち主。
そしてサクラの耳元に口を寄せて。

「あれだけ熱い夜を過ごしたのに」
「は!?」

驚いて後ろを振り返ると、カカシがにこりと笑いかける。

「な、なに言ってるのよカカシ先生!!」
「はは。まぁそれは冗談なんだけど、同じベッドで寝たり下着を見る仲にはなったかな」
「!!」

事実なんだけど、言い方!!
サクラは顔を真っ赤にしてカカシに文句を言おうとすると、後ろからすごい音が聞こえた。
振り返ると、ナルトが壁に頭を打ち付けていた。

「な、ナルト!?」
「サクラちゃんが・・・大人の階段を・・・」
「何言ってんのよアンタ!!」

ズルズルと崩れ落ちすすり泣くナルト。
どうしたらいいのか分からず、カカシを睨む。

「もう!先生ナルトどうにかしてよ!」

サクラは怒って睨んでるのに、カカシは嬉しそうに微笑む。

「やっぱりサクラはこっちの方がいいな」
「は?なに・・・」

カカシが何を言ってるのか分からずにいると、カカシの顔が近づいてくる。

「え、ちょっと、先生!?」

あっという間に間近に先生の顔がきて目をギュッと瞑る。
すると、額に柔らかい何かが音を立てて離れる。

「サクラはおでこ出した方が可愛いね」

あの時の夜のことを思い出して真っ赤な顔で額を抑える。
先生はにやりと笑って、鼻歌を歌いながら立ち去って行った。


今ここにいるのは、一部始終見て泣いているナルトと顔が真っ赤な私。
そして私たちがいるのはアカデミーの廊下。
つまり、行き交う忍が同じく一部始終を見ていたわけで。
皆が興味津々に私を見てくる。
女性陣は嫉妬の眼差しで。


あの男はとんでもない爆弾を落として行った。
私は怒りと恥ずかしさで体をぷるぷる震わせて大きく息を吸って。



「カカシ先生のばかぁぁぁ!!」


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