short.1
イライラする。
ヘラヘラヘラヘラ。
女の人に話しかけられて、見えないけど鼻の下を伸ばして嬉しそうに。
眉間に皺を寄せて、任務先でお世話になった女性にお礼を言っているカカシを睨む。
「・・・サクラちゃん」
「なに!」
「な、何でもないってばよ・・・」
横に立つナルトに話しかけられて睨みながら返事をすると、ナルトは涙目になって目を逸らす。
サスケはそんなサクラに、同じようにイライラしていた。
自分に向いていた矢印が、気づいたら別の男に向けられていた。
その男が自分たちの上忍師なのだから尚更腹が立っている。
「お待たせー」
女性と別れたカカシが手を上げて近づいてくる。
「はい、サクラ」
カカシが手を差し出してくるので、サクラが受け止めるようにすると飴玉がコロンと手の中で転がる。
「女の子にどうぞって」
女の子。
「・・・ありがとう」
サクラはカカシと目を合わさないでお礼を言う。
「いいなー!カカシ先生、オレのは?」
「残念。1つしかないってさ」
「えー!?」
ブーブー文句を言うナルトを横目にサクラは飴玉を口に入れる。
それは甘いいちご味で。
とても美味しかった。
これを好む間はカカシには不釣り合いだな、とサクラは口の中で飴玉を噛み砕いた。
****
それから暫くしてサスケとナルトが里からいなくなった。
サクラも綱手に弟子入りをして、毎日会っていたのが嘘のように会わなくなった。
カカシは単身任務に入るようになり、度々チャクラ切れで入院していることを聞いていた。
様子を見に行きたかったけど、先生を見たら弱音を吐いてしまいそうで行かなかった。
そして弟子入りして1年が過ぎた頃。
修行も失敗なく熟せるようになって、綱手にも頼られるようになった。
ようやく一人前として認められたような気がして嬉しかった。
今日は久々の休暇。
綱手にはちゃんと休めと言われたが、探究心が強いサクラは日課となっている図書館へと向かった。
顔馴染みとなった司書に軽く挨拶をして、定位置となった1番奥の椅子へ。
ここだと周りから隠れているので集中しやすい。
医療棚から何冊か分厚い本を手に取って頭に詰め込む。
もっと追い込んで頑張らないと平凡な自分は2人に追いつけない。
ナルトと一緒にサスケを取り戻せない。
もっと、もっと。
****
手元が暗いことに気づいた。
午前中から居たのに気づいたらオレンジ色の陽が差し込んでいた。
そういえばお昼食べてなかったな、と集中していた自分に苦笑して顔を上げると。
そこにはカカシが真向かいの椅子に座っていたのだ。
ビックリして固まっていると、気がついたカカシがイチャパラから顔を上げる。
「ようやく気づいた」
「先生・・・いつからいたんですか」
「んー、1時間ぐらい前かな」
「声かけてくれたら良かったのに」
「集中してたからな。邪魔しちゃ悪いと思って」
「気にしなくて良かったのに・・・」
カカシにとって大したことないことだろうけど、サクラにとってはこの優しさがすごく嬉しかった。
だからカカシに惹かれたのかもしれない。
「外に出ないか」とカカシに言われ頷くと、何冊も積み上がった本をさりげなく運んでくれる。
この人は何回胸を高鳴らせるのか。
****
「サクラと会うの久しぶりだね」
「そうですね」
先生に付いていくと、図書館の中庭。
夕暮れということもあって私たち以外に人はいなかった。
「先生、どうして図書館にいたんですか?」
「綱手様に報告しに行ったら、サクラがきっと図書館にいるだろうって言われてね」
前を歩いていた先生が立ち止まり振り返る。
その表情は何も変わらないのに雰囲気がピリッとした。
それだけで察してしまった。
「サクラ。先生が何を言いたいか分かってるね」
「・・・はい」
真っ直ぐ先生の顔が見れなくて俯く。
「サクラが修行頑張ってるのは知ってる。綱手様も成長が早いって褒めてらした。それは先生としてとても嬉しいよ。でも、休むときはちゃんと休むんだ」
「はい・・・」
「サクラが焦る気持ちも分かる。でもちゃんと成長してるんだ。自分を追い込むな」
その言葉で耐えていた涙がボタボタと地面に落ちていく。
ぐずぐずと鼻を鳴らすと、先生は優しく頭を撫でてくれる。
「サクラがこんなに自分を追い込んでるなんて綱手様に言われるまで気づかなかった。先生失格だな」
顔を上げると先生も泣きそうな、申し訳なさそうな顔をしていた。
「そんなことない!私が、私に力がないから・・・」
「さっきも言っただろ。ちゃんと成長してる」
「それでも・・・2人には追いつけない」
止まっていた涙がまた溢れ出す。
泣いたら先生を困らすって分かってても止まらない。
すすり泣き、落ち着かせようとしているとふ、と影が落ちてくる。
気がついたら身体がすっぽり先生に包まれていた。
「え、か、カカシ、せんせ!?」
ビックリして涙は止まったけど心臓の動悸がやばい。
体を離そうとするも更にぎゅっと抱かれる。
早く離れて欲しいのに、先生はサクラをあやすように背中をポンポンとリズムよく叩く。
「大丈夫。サクラはもう2人に守られてる弱い子じゃない」
その言葉にぎゅっと心臓が掴まれた気がした。
「・・・私、今度はナルトと一緒にサスケくん助けにいけるかなぁ・・・」
「あぁ。先生が保証する」
先生はいつもの笑顔で私を安心させてくれる。
この笑顔に私は何度救われてきたのだろう。
私が落ち着くまで、先生は私の頭を撫でながら私がどれだけすごいのか話してくれた。
上忍の幻術を自力で解いたり、ザブザからタズナを守ろうとしたり、いのとの激闘の話だったり。
「ふふ・・・先生ってちゃんと先生だったのね」
「ん?どういうこと?」
「いつも本読んでたのにちゃんと見てくれてたんだなって。それに、ナルトとサスケくんばかりで私には感心ないのかなって思ってたから」
「・・・サクラ、」
「あ、大丈夫!2人が特殊だから先生が見てないといけなかったって、今はちゃんと分かってる!」
九尾、うちはの生き残り。
あの頃は知らなかった2人のこと。
先生が監視役についていたこと。
五代目の元について色々知る機会があった。
今はちゃんと分かってる。
でも、当時はそれが寂しかったり。
顔を上げると先生は困った顔をしていた。
「それにね!今は3人の先生を独り占め出来てるから嬉しいの!」
ニシシと笑うと、先生は目を見開いて吹き出す。
「それはオレもだな。七班のお姫様を独り占めしてる」
ナルトから妬まれるな、と茶化しながら頭をずっと撫でてくれる。
子供扱いのように感じて嫌なのに、この手を離してほしくない。
「・・・先生の手好きだな」
「ん?そう?」
「うん・・・安心出来る」
私は頭にある先生の手を掴んで頬へと下ろし、目を閉じて先生の手を感じるように頬擦りする。
「先生の手、気持ちいい」
目を開けて先生に微笑む。
「──っ!」
頬擦りしていた先生の手をいきなり引き抜かれた。
ビックリして先生を見ると、愛想笑いしながら私から距離を取ろうとしている。
「先生?」
何かしてしまったのかと近づくも、何故か先生の目が泳いで視線が合わない。
「あー、サクラ。もう遅いからそろそろ帰りなさい」
「え?あ、はい」
確かに暗くはなってきた。
そろそろ夕飯の時間だ。
「送ってやりたいけど、この後・・・」
「あ、大丈夫です。先生忙しいの分かってるので」
「悪いな」と、また頭を撫でようとした手が触れずに降ろされる。
期待してた心がシュンとなる。
「それじゃあ先生、また!」
「あぁ。気をつけて帰れよ」
大きく手を振って家路に駆け出す。
次の休み、先生を甘味処に誘ってみよう。
今まで我慢してた分、思いっきり甘やかしてもらうんだ。
私はスキップしたい気持ちを抑えて帰った。
サクラが立ち去って暫くしてカカシは大きく息を吐いて口布の上から口を覆う。
「・・・・・・参った」
──いつからあんな顔するようになったんだ・・・。
子供と思っていたサクラの表情にカカシは心臓が落ち着かない。
この気持ちは何なのか・・・。
カカシが気持ちを自覚してサクラを子供扱い出来なくなるまで、あと──。
ヘラヘラヘラヘラ。
女の人に話しかけられて、見えないけど鼻の下を伸ばして嬉しそうに。
眉間に皺を寄せて、任務先でお世話になった女性にお礼を言っているカカシを睨む。
「・・・サクラちゃん」
「なに!」
「な、何でもないってばよ・・・」
横に立つナルトに話しかけられて睨みながら返事をすると、ナルトは涙目になって目を逸らす。
サスケはそんなサクラに、同じようにイライラしていた。
自分に向いていた矢印が、気づいたら別の男に向けられていた。
その男が自分たちの上忍師なのだから尚更腹が立っている。
「お待たせー」
女性と別れたカカシが手を上げて近づいてくる。
「はい、サクラ」
カカシが手を差し出してくるので、サクラが受け止めるようにすると飴玉がコロンと手の中で転がる。
「女の子にどうぞって」
女の子。
「・・・ありがとう」
サクラはカカシと目を合わさないでお礼を言う。
「いいなー!カカシ先生、オレのは?」
「残念。1つしかないってさ」
「えー!?」
ブーブー文句を言うナルトを横目にサクラは飴玉を口に入れる。
それは甘いいちご味で。
とても美味しかった。
これを好む間はカカシには不釣り合いだな、とサクラは口の中で飴玉を噛み砕いた。
****
それから暫くしてサスケとナルトが里からいなくなった。
サクラも綱手に弟子入りをして、毎日会っていたのが嘘のように会わなくなった。
カカシは単身任務に入るようになり、度々チャクラ切れで入院していることを聞いていた。
様子を見に行きたかったけど、先生を見たら弱音を吐いてしまいそうで行かなかった。
そして弟子入りして1年が過ぎた頃。
修行も失敗なく熟せるようになって、綱手にも頼られるようになった。
ようやく一人前として認められたような気がして嬉しかった。
今日は久々の休暇。
綱手にはちゃんと休めと言われたが、探究心が強いサクラは日課となっている図書館へと向かった。
顔馴染みとなった司書に軽く挨拶をして、定位置となった1番奥の椅子へ。
ここだと周りから隠れているので集中しやすい。
医療棚から何冊か分厚い本を手に取って頭に詰め込む。
もっと追い込んで頑張らないと平凡な自分は2人に追いつけない。
ナルトと一緒にサスケを取り戻せない。
もっと、もっと。
****
手元が暗いことに気づいた。
午前中から居たのに気づいたらオレンジ色の陽が差し込んでいた。
そういえばお昼食べてなかったな、と集中していた自分に苦笑して顔を上げると。
そこにはカカシが真向かいの椅子に座っていたのだ。
ビックリして固まっていると、気がついたカカシがイチャパラから顔を上げる。
「ようやく気づいた」
「先生・・・いつからいたんですか」
「んー、1時間ぐらい前かな」
「声かけてくれたら良かったのに」
「集中してたからな。邪魔しちゃ悪いと思って」
「気にしなくて良かったのに・・・」
カカシにとって大したことないことだろうけど、サクラにとってはこの優しさがすごく嬉しかった。
だからカカシに惹かれたのかもしれない。
「外に出ないか」とカカシに言われ頷くと、何冊も積み上がった本をさりげなく運んでくれる。
この人は何回胸を高鳴らせるのか。
****
「サクラと会うの久しぶりだね」
「そうですね」
先生に付いていくと、図書館の中庭。
夕暮れということもあって私たち以外に人はいなかった。
「先生、どうして図書館にいたんですか?」
「綱手様に報告しに行ったら、サクラがきっと図書館にいるだろうって言われてね」
前を歩いていた先生が立ち止まり振り返る。
その表情は何も変わらないのに雰囲気がピリッとした。
それだけで察してしまった。
「サクラ。先生が何を言いたいか分かってるね」
「・・・はい」
真っ直ぐ先生の顔が見れなくて俯く。
「サクラが修行頑張ってるのは知ってる。綱手様も成長が早いって褒めてらした。それは先生としてとても嬉しいよ。でも、休むときはちゃんと休むんだ」
「はい・・・」
「サクラが焦る気持ちも分かる。でもちゃんと成長してるんだ。自分を追い込むな」
その言葉で耐えていた涙がボタボタと地面に落ちていく。
ぐずぐずと鼻を鳴らすと、先生は優しく頭を撫でてくれる。
「サクラがこんなに自分を追い込んでるなんて綱手様に言われるまで気づかなかった。先生失格だな」
顔を上げると先生も泣きそうな、申し訳なさそうな顔をしていた。
「そんなことない!私が、私に力がないから・・・」
「さっきも言っただろ。ちゃんと成長してる」
「それでも・・・2人には追いつけない」
止まっていた涙がまた溢れ出す。
泣いたら先生を困らすって分かってても止まらない。
すすり泣き、落ち着かせようとしているとふ、と影が落ちてくる。
気がついたら身体がすっぽり先生に包まれていた。
「え、か、カカシ、せんせ!?」
ビックリして涙は止まったけど心臓の動悸がやばい。
体を離そうとするも更にぎゅっと抱かれる。
早く離れて欲しいのに、先生はサクラをあやすように背中をポンポンとリズムよく叩く。
「大丈夫。サクラはもう2人に守られてる弱い子じゃない」
その言葉にぎゅっと心臓が掴まれた気がした。
「・・・私、今度はナルトと一緒にサスケくん助けにいけるかなぁ・・・」
「あぁ。先生が保証する」
先生はいつもの笑顔で私を安心させてくれる。
この笑顔に私は何度救われてきたのだろう。
私が落ち着くまで、先生は私の頭を撫でながら私がどれだけすごいのか話してくれた。
上忍の幻術を自力で解いたり、ザブザからタズナを守ろうとしたり、いのとの激闘の話だったり。
「ふふ・・・先生ってちゃんと先生だったのね」
「ん?どういうこと?」
「いつも本読んでたのにちゃんと見てくれてたんだなって。それに、ナルトとサスケくんばかりで私には感心ないのかなって思ってたから」
「・・・サクラ、」
「あ、大丈夫!2人が特殊だから先生が見てないといけなかったって、今はちゃんと分かってる!」
九尾、うちはの生き残り。
あの頃は知らなかった2人のこと。
先生が監視役についていたこと。
五代目の元について色々知る機会があった。
今はちゃんと分かってる。
でも、当時はそれが寂しかったり。
顔を上げると先生は困った顔をしていた。
「それにね!今は3人の先生を独り占め出来てるから嬉しいの!」
ニシシと笑うと、先生は目を見開いて吹き出す。
「それはオレもだな。七班のお姫様を独り占めしてる」
ナルトから妬まれるな、と茶化しながら頭をずっと撫でてくれる。
子供扱いのように感じて嫌なのに、この手を離してほしくない。
「・・・先生の手好きだな」
「ん?そう?」
「うん・・・安心出来る」
私は頭にある先生の手を掴んで頬へと下ろし、目を閉じて先生の手を感じるように頬擦りする。
「先生の手、気持ちいい」
目を開けて先生に微笑む。
「──っ!」
頬擦りしていた先生の手をいきなり引き抜かれた。
ビックリして先生を見ると、愛想笑いしながら私から距離を取ろうとしている。
「先生?」
何かしてしまったのかと近づくも、何故か先生の目が泳いで視線が合わない。
「あー、サクラ。もう遅いからそろそろ帰りなさい」
「え?あ、はい」
確かに暗くはなってきた。
そろそろ夕飯の時間だ。
「送ってやりたいけど、この後・・・」
「あ、大丈夫です。先生忙しいの分かってるので」
「悪いな」と、また頭を撫でようとした手が触れずに降ろされる。
期待してた心がシュンとなる。
「それじゃあ先生、また!」
「あぁ。気をつけて帰れよ」
大きく手を振って家路に駆け出す。
次の休み、先生を甘味処に誘ってみよう。
今まで我慢してた分、思いっきり甘やかしてもらうんだ。
私はスキップしたい気持ちを抑えて帰った。
サクラが立ち去って暫くしてカカシは大きく息を吐いて口布の上から口を覆う。
「・・・・・・参った」
──いつからあんな顔するようになったんだ・・・。
子供と思っていたサクラの表情にカカシは心臓が落ち着かない。
この気持ちは何なのか・・・。
カカシが気持ちを自覚してサクラを子供扱い出来なくなるまで、あと──。
124/179ページ