short.1
任務終わり、足を滑らしたサクラが崖から落ちそうになり、それを庇って崖から落ちたカカシ。
幸い軽い怪我で済み、その手当をサクラが買って出た。
そのサクラは翡翠の瞳から大粒の涙を流しながらカカシの治療をしていた。
「サクラ、いい加減泣き止め」
「だって・・・」
サクラは頬を流れる涙を拭う。
「先生は上忍なんだからあれぐらいでどうってことないよ。現に軽傷で済んだでしょ」
「それでも怖かったんだもん!先生が私のせいで死んじゃうかもって」
「それに」とサクラはカカシの腕を撫でる。
そこは落ちる時に鋭利な岩にでも引っかかったのか、二の腕を大きく裂いていた。
ちゃんとサクラが治療をしてくれたお陰で血は止まっているが、それでも傷は残るだろう。
「先生を傷物にしちゃった・・・」
「ぶっ!」
オレたちの近くで待機していたサスケが水を噴き出す。
ナルトはポカーンとし、サスケに「傷物ってなんだ?」と聞いて「知るかウスラトンカチ!」と騒ぎ出す。
頭を抱えてため息を吐くと、サクラが心配そうにする。
「先生、頭痛いの?」
「いや・・・このぐらいの傷大丈夫だから、気にするな。な?」
サクラを安心させるように笑いかけると、サクラはキッと眉を上げて。
「だめよ!」
「え?」
サクラは自身の手を強く握りしめて。
「私、責任取る!」
「・・・責任?」
「うん!先生と結婚する!」
本格的に頭が痛くなりそうだ。
チラッと周りを見ると、男2人はまだ喧嘩していてサクラのとんでもない発言は聞こえていないようだった。
「サクラ・・・何言ってるのか分かってるのか」
「当たり前でしょ」
「あのね・・・オレとお前、どれだけ歳離れてると思ってるわけ」
「年齢差なんて関係ないわ」
「サスケはどうすんのよ」
「う・・・」
そう言うと、サクラは口を噤む。
やはり初恋の男を諦めきれないのだろう。
だがサクラはこうと決めたら絶対諦めない子だ。
カカシは小さく息を吐いて。
「分かった。サクラが大人になってどっちも結婚してなかったら責任取ってよ」
そう言うとサクラは驚く。
「大人って何歳?」
「んー・・・18か20か」
「分かったわ。その時は私が責任取るから」
「でも結婚したい相手が出来たらオレのことは気にするなよ」
「うん!」
納得出来たのかサクラの顔にようやく笑みが生まれる。
サクラは立ち上がりサスケとナルトの元へ向かう。
どうせサスケと結婚するだろう、そう軽く考えて、この出来事を忘れていた。
****
「はい。これ書いて」
久々に七班で集まろうと子供達から誘いがあり、仕事を急いで終わらしていつもの店に向かった。
そしてお酒を飲みながら和気藹々と過ごしていると、向かいに座るサクラが鞄から紙とペンを取り出してオレに差し出した。
その紙に書いてある文字を読んで目を見張った。
『婚姻届』
オレの隣に座るヤマトは紙を見てビールを吹き出し、サクラの隣に座るナルトも口が開いたまま固まり水をダラダラ溢していた。
サスケは興味なさそうにしているが、さっきからずっと水を飲んでいる。
サイはヤマトが邪魔で見えない。
「あの・・・サクラ」
「なに?」
「これは・・・」
「見ればわかるでしょ。婚姻届よ」
うん。分かる。
初めてみたけど、これがどういう意味を持つのかすごく分かる。
オレは大きく息を吸い込んで心を落ち着かせる。
「あの、これオレが書くの?」
「当たり前でしょ。先生に渡したんだから」
「えっと・・・何で?」
オレ達は恋人同士ではない。
オレは火影になり、サクラも医療を支える忍と成長し、師と教え子の関係ではなくなったが、それでも大切な子なのに変わりはない。
ただ、それだけだ。
大人の女性へとサクラは成長したが、それでも恋愛対象に見たことはない。
それはサクラも同じだと思っていた。
──この瞬間までは。
オレが率直な質問をすると、サクラの片眉がピクリと動く。
「まさか先生。忘れたわけじゃないわよね」
「えーと・・・」
全く検討が付かず、すぐに答えないオレにサクラの機嫌が悪くなるのを感じる。
「6年前。カカシ先生が私を庇って崖から落ちた時」
「──あ」
サクラからのヒントでようやく思い出す。
「本当に忘れてたのね」
「いやぁ・・・まさかあの口約束を覚えてるなんて思わなかった」
あの後、サスケが里抜けしたり、サスケを取り戻そうと奮闘したり、世界を守ったり。
この6年で色々ありすぎてそれどころではなかった。
それはサクラも同じのはずだが・・・。
「ちゃんと私は約束は守ります。18歳になって、お互い結婚してないでしょ」
「そうだけど、もう傷も消えてるし、サクラだってほら・・・」
チラッとサスケを見る。
それに気づいたサクラはテーブルを叩く。
「なに。先生は私と結婚したくないの!?」
「え、いや、そうじゃなくて、未来あるサクラの人生を無駄にさせたくないっていうかね」
「無駄ってなに!私が決めたことにケチつけるの!」
「サクラ、落ち着いて」
だんだんヒートアップしていくサクラをヤマトが落ち着かせようとする。
「・・・もういいわ」
サクラはそう言って婚姻届を奪って、夫側の氏名のところに勝手にオレの名前を書く。
「ここに母印押して」
サクラはまたオレに婚姻届を戻して名前の横を指す。
その顔は有無を言わさないと眉間に皺を寄せて。
その紙をよく見ると、証人のところにゲンマとアンコの名前が書いてあった。
──あの2人、面白がりやがって。
まだ渋るオレにサクラの我慢の限界が来たらしく。
「──サイ」
「はい。──鳥獣戯画」
今まで気配を消していたサイがいきなりオレに蛇の鳥獣戯画を使って縛り上げる。
「え!?ちょっとサイ?」
ガチガチに縛られ動けない。
「すみません。サクラに協力したら兵糧丸の毒・・・味見を免除すると言われたので」
──サクラの奴!サイを買収しやがった!!
サクラは動けないオレの右手を掴んで、鞄から取り出した朱肉をオレの親指に押し付ける。
「サクラ!少し落ち着け!」
「私は落ち着いてるわ」
確かにサクラは落ち着いている。
落ち着けていないのはオレだ。
ヤマトたちはどうしたらいいのか分からず、様子を伺っている。
「ねぇ・・・カカシ先生は私のこと嫌い?」
急にサクラがうつむき、先程より声のトーンが落ちる。
泣いているのかと思い焦る。
「い、いや・・・好きだけど」
「じゃあ、いいじゃない」
サクラは顔を上げてにっこりと笑って、婚姻届に指を押しつけられた。
サクラは満足そうに笑って婚姻届を見ている。
そこで、サクラにしてやられたんだと理解した。
女ってのは怖い。
「あ、あのさ。結婚するってことは夫婦になるんだよ?サクラ、オレのこと」
「好きよ」
往生際が悪いオレはまだ逃げ道を探そうとするが、サクラは真面目な顔をして言葉を遮る。
ここで怯むわけにはいかない。
「それは、師への憧れを勘違いしてるかもしれないだろ」
「違うわ。私は前から先生のこと男の人として好き」
サクラはそう言って身を乗り出して。
──ちゅっ
「キスしたいって思うぐらいに」
サクラは口布を下げて、みんなの前で唇を合わせてきたのだ。
酒が入っていたからかすっかり油断していたオレは、目を見開いたまま固まる。
ナルトに至っては後ろに倒れる始末。
満面の笑みを向けてくるサクラに、大きく息を吐く。
サクラはこうと決めたら曲げない子とは分かっていたが、ここまでとは・・・。
こうなったら、オレも覚悟を決めるしかない。
「きゃっ」
オレは立ち上がり、サクラを抱え上げる。
所謂、お姫様抱っこで。
「約束通り、婚姻届出しに行きますか」
サクラは最初驚いていたが、すぐに顔を綻ばせて頷く。
そしてオレの首に腕を回してくる。
たったそれだけで、オレの胸が高鳴るのを感じる。
オレたちはまだ惚けているヤマトたちに軽く挨拶をして店を出た。
さすがに大通りでお姫様抱っこは恥ずかしくなったのか、「降ろして」と可愛らしくお願いされたので渋々降ろす。
そして手を握り指を絡ませると、サクラの体がピクリと揺れて顔が赤くなっている。
先程までの大胆なサクラはどこにいったのやら。
喉の奥で笑うと、サクラは真っ赤な頬を膨らませて手を強く握り返してくる。
オレたちは目的の場所へとゆっくりと歩く。
そのあとはオレの家に行こう。
好きだと言われて、すぐにでも君が欲しくなる単純な生き物だから。
これからゆっくりと、奥さんとなる君を愛させてくれ。
幸い軽い怪我で済み、その手当をサクラが買って出た。
そのサクラは翡翠の瞳から大粒の涙を流しながらカカシの治療をしていた。
「サクラ、いい加減泣き止め」
「だって・・・」
サクラは頬を流れる涙を拭う。
「先生は上忍なんだからあれぐらいでどうってことないよ。現に軽傷で済んだでしょ」
「それでも怖かったんだもん!先生が私のせいで死んじゃうかもって」
「それに」とサクラはカカシの腕を撫でる。
そこは落ちる時に鋭利な岩にでも引っかかったのか、二の腕を大きく裂いていた。
ちゃんとサクラが治療をしてくれたお陰で血は止まっているが、それでも傷は残るだろう。
「先生を傷物にしちゃった・・・」
「ぶっ!」
オレたちの近くで待機していたサスケが水を噴き出す。
ナルトはポカーンとし、サスケに「傷物ってなんだ?」と聞いて「知るかウスラトンカチ!」と騒ぎ出す。
頭を抱えてため息を吐くと、サクラが心配そうにする。
「先生、頭痛いの?」
「いや・・・このぐらいの傷大丈夫だから、気にするな。な?」
サクラを安心させるように笑いかけると、サクラはキッと眉を上げて。
「だめよ!」
「え?」
サクラは自身の手を強く握りしめて。
「私、責任取る!」
「・・・責任?」
「うん!先生と結婚する!」
本格的に頭が痛くなりそうだ。
チラッと周りを見ると、男2人はまだ喧嘩していてサクラのとんでもない発言は聞こえていないようだった。
「サクラ・・・何言ってるのか分かってるのか」
「当たり前でしょ」
「あのね・・・オレとお前、どれだけ歳離れてると思ってるわけ」
「年齢差なんて関係ないわ」
「サスケはどうすんのよ」
「う・・・」
そう言うと、サクラは口を噤む。
やはり初恋の男を諦めきれないのだろう。
だがサクラはこうと決めたら絶対諦めない子だ。
カカシは小さく息を吐いて。
「分かった。サクラが大人になってどっちも結婚してなかったら責任取ってよ」
そう言うとサクラは驚く。
「大人って何歳?」
「んー・・・18か20か」
「分かったわ。その時は私が責任取るから」
「でも結婚したい相手が出来たらオレのことは気にするなよ」
「うん!」
納得出来たのかサクラの顔にようやく笑みが生まれる。
サクラは立ち上がりサスケとナルトの元へ向かう。
どうせサスケと結婚するだろう、そう軽く考えて、この出来事を忘れていた。
****
「はい。これ書いて」
久々に七班で集まろうと子供達から誘いがあり、仕事を急いで終わらしていつもの店に向かった。
そしてお酒を飲みながら和気藹々と過ごしていると、向かいに座るサクラが鞄から紙とペンを取り出してオレに差し出した。
その紙に書いてある文字を読んで目を見張った。
『婚姻届』
オレの隣に座るヤマトは紙を見てビールを吹き出し、サクラの隣に座るナルトも口が開いたまま固まり水をダラダラ溢していた。
サスケは興味なさそうにしているが、さっきからずっと水を飲んでいる。
サイはヤマトが邪魔で見えない。
「あの・・・サクラ」
「なに?」
「これは・・・」
「見ればわかるでしょ。婚姻届よ」
うん。分かる。
初めてみたけど、これがどういう意味を持つのかすごく分かる。
オレは大きく息を吸い込んで心を落ち着かせる。
「あの、これオレが書くの?」
「当たり前でしょ。先生に渡したんだから」
「えっと・・・何で?」
オレ達は恋人同士ではない。
オレは火影になり、サクラも医療を支える忍と成長し、師と教え子の関係ではなくなったが、それでも大切な子なのに変わりはない。
ただ、それだけだ。
大人の女性へとサクラは成長したが、それでも恋愛対象に見たことはない。
それはサクラも同じだと思っていた。
──この瞬間までは。
オレが率直な質問をすると、サクラの片眉がピクリと動く。
「まさか先生。忘れたわけじゃないわよね」
「えーと・・・」
全く検討が付かず、すぐに答えないオレにサクラの機嫌が悪くなるのを感じる。
「6年前。カカシ先生が私を庇って崖から落ちた時」
「──あ」
サクラからのヒントでようやく思い出す。
「本当に忘れてたのね」
「いやぁ・・・まさかあの口約束を覚えてるなんて思わなかった」
あの後、サスケが里抜けしたり、サスケを取り戻そうと奮闘したり、世界を守ったり。
この6年で色々ありすぎてそれどころではなかった。
それはサクラも同じのはずだが・・・。
「ちゃんと私は約束は守ります。18歳になって、お互い結婚してないでしょ」
「そうだけど、もう傷も消えてるし、サクラだってほら・・・」
チラッとサスケを見る。
それに気づいたサクラはテーブルを叩く。
「なに。先生は私と結婚したくないの!?」
「え、いや、そうじゃなくて、未来あるサクラの人生を無駄にさせたくないっていうかね」
「無駄ってなに!私が決めたことにケチつけるの!」
「サクラ、落ち着いて」
だんだんヒートアップしていくサクラをヤマトが落ち着かせようとする。
「・・・もういいわ」
サクラはそう言って婚姻届を奪って、夫側の氏名のところに勝手にオレの名前を書く。
「ここに母印押して」
サクラはまたオレに婚姻届を戻して名前の横を指す。
その顔は有無を言わさないと眉間に皺を寄せて。
その紙をよく見ると、証人のところにゲンマとアンコの名前が書いてあった。
──あの2人、面白がりやがって。
まだ渋るオレにサクラの我慢の限界が来たらしく。
「──サイ」
「はい。──鳥獣戯画」
今まで気配を消していたサイがいきなりオレに蛇の鳥獣戯画を使って縛り上げる。
「え!?ちょっとサイ?」
ガチガチに縛られ動けない。
「すみません。サクラに協力したら兵糧丸の毒・・・味見を免除すると言われたので」
──サクラの奴!サイを買収しやがった!!
サクラは動けないオレの右手を掴んで、鞄から取り出した朱肉をオレの親指に押し付ける。
「サクラ!少し落ち着け!」
「私は落ち着いてるわ」
確かにサクラは落ち着いている。
落ち着けていないのはオレだ。
ヤマトたちはどうしたらいいのか分からず、様子を伺っている。
「ねぇ・・・カカシ先生は私のこと嫌い?」
急にサクラがうつむき、先程より声のトーンが落ちる。
泣いているのかと思い焦る。
「い、いや・・・好きだけど」
「じゃあ、いいじゃない」
サクラは顔を上げてにっこりと笑って、婚姻届に指を押しつけられた。
サクラは満足そうに笑って婚姻届を見ている。
そこで、サクラにしてやられたんだと理解した。
女ってのは怖い。
「あ、あのさ。結婚するってことは夫婦になるんだよ?サクラ、オレのこと」
「好きよ」
往生際が悪いオレはまだ逃げ道を探そうとするが、サクラは真面目な顔をして言葉を遮る。
ここで怯むわけにはいかない。
「それは、師への憧れを勘違いしてるかもしれないだろ」
「違うわ。私は前から先生のこと男の人として好き」
サクラはそう言って身を乗り出して。
──ちゅっ
「キスしたいって思うぐらいに」
サクラは口布を下げて、みんなの前で唇を合わせてきたのだ。
酒が入っていたからかすっかり油断していたオレは、目を見開いたまま固まる。
ナルトに至っては後ろに倒れる始末。
満面の笑みを向けてくるサクラに、大きく息を吐く。
サクラはこうと決めたら曲げない子とは分かっていたが、ここまでとは・・・。
こうなったら、オレも覚悟を決めるしかない。
「きゃっ」
オレは立ち上がり、サクラを抱え上げる。
所謂、お姫様抱っこで。
「約束通り、婚姻届出しに行きますか」
サクラは最初驚いていたが、すぐに顔を綻ばせて頷く。
そしてオレの首に腕を回してくる。
たったそれだけで、オレの胸が高鳴るのを感じる。
オレたちはまだ惚けているヤマトたちに軽く挨拶をして店を出た。
さすがに大通りでお姫様抱っこは恥ずかしくなったのか、「降ろして」と可愛らしくお願いされたので渋々降ろす。
そして手を握り指を絡ませると、サクラの体がピクリと揺れて顔が赤くなっている。
先程までの大胆なサクラはどこにいったのやら。
喉の奥で笑うと、サクラは真っ赤な頬を膨らませて手を強く握り返してくる。
オレたちは目的の場所へとゆっくりと歩く。
そのあとはオレの家に行こう。
好きだと言われて、すぐにでも君が欲しくなる単純な生き物だから。
これからゆっくりと、奥さんとなる君を愛させてくれ。
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