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short.1

「サクラはさ、オレに遺言残すなら何て書く?」


忍の世界は常に死が付き纏う。
上忍なら尚更だ。
だからか、上忍になると誰しも大切な人に遺言を残すようになる。
オレは今まで残す相手が居なかったから書いたことはなかったが、サクラと付き合うようになって急に書きたくなった。
その時、サクラだったら何を書くんだろうと思ったのだ。



情事後、腕の中で気持ちよさそうにしているサクラに問いかけると、目を丸くしたと思ったらその瞳がどんどん吊り上がっていく。

「なにそれ。私が先生より弱いから先に死ぬってこと?」

怒ったサクラはオレの頬をつねり出す。

「イタタタ、そうじゃなくて」
「ならどういう理由でこんな時に聞いてくるのよ」

更にぎゅっとつねってくる。
理由を話さないと離してくれそうにない。
「話すから」と言うとようやく離してくれる。


「オレたち忍は、いつ死ぬか分からないだろ。特に上忍は」
「・・・うん」

その言葉にサクラの顔に影が生まれ、安心させるように頬を撫でる。

「オレ、今まで誰かに遺言残すことなかったから、サクラに何書いたらいいか分からなくてさ。だからサクラは何て書くかなって」

──初めて人を愛したから。

そう微笑むと、サクラの頬が赤く染まる。

「そ、そうね・・・私なら・・・」

顔が赤いのが恥ずかしいのか、オレから見えないように俯く。
そして、「ふっ」と小さく笑う声が聞こえたと思ったら、サクラは嬉しそうに微笑みながら顔を上げる。


「もし私が先に死んでも、先生すぐに立ち直って他の女の人と付き合ってそうだわ」
「え゛、そんな風に思われてるの」
「だって、私と付き合うまで、特定の人作らないで色んな人に手を出してたでしょ。私がどれだけ迷惑を被ったか」
「・・・その節はご迷惑をおかけしました」

申し訳なさそうに頭をかくカカシ。


サクラに告白されるまで、オレの女性関係はひどいものだった。
溜まっていく欲求を解消するため、言い寄ってくる人や花街の人に相手して貰ったり。
言い寄ってくる奴は1回限りで縁を切った、つもりでもあっちはそうとは思わない。
すると、自称オレの彼女がわんさか出てくるのだ。
そのことで綱手に何度ゲンコツを頂いたことか。

特定の相手を作らなかったのは、心の中に芽生えた想いに気づかない様に。
「先生」と呼ぶ少女から逃げる様に。
嫌ってもらえるように。


そう願っていたのに。
気づいたら何故か恋人になっていた。
それまでの苦労は一体何だったのか。

しかし、それからが大変だった。
周りに付き合っていることを公表したわけではない。
それなのに何故かオレたちが付き合っていることが里中に一瞬で広まった。
そしてオレが手を出した女たちによるサクラを標的にした嫌がらせが始まったのだ。
普通の女の子なら泣くような嫌がらせでも、サクラは違った。
嫌がらせをなんとも思わず、本人たちの前で綱手譲りの怪力を見せつけ逆に怖がらせた。
それが効果があったのか、それからは嫌がらせが無くなった。


「私という邪魔がいなくなったらまた女の人たちが先生に言い寄るわ。そしたら先生は私のことなんか忘れるもの」
「そんなことないよ。オレはサクラ一筋」
「信じられない」

ぷいっ、と顔を逸らすサクラ。
この子は、オレがどれだけお前に溺れてるのか分かっているのだろうか。
今まで他人に依存することはなかったのに。
いつ死んでもいいと思ったのに。
サクラが手に入ってから、死にたくないって思い始めた。
サクラに何か残したいって思うようになったんだ。



「で、サクラはオレに何て遺言残すの?」

顔を覗き込むと、サクラは微笑んで。

「他の人の物になってもいいから──」

サクラは少し体を上にずらして、軽く唇を合わせる。

「最後には私を思い出してほしい」



すとん、と心の中に落ちる。
オレが探し求めていた言葉。


オレはサクラをぎゅっと抱きしめる。

「先生?」
「・・・オレも」

サクラから顔が見えないように。
きっと顔が赤くなってるから。

たった一言、そう言うとサクラもぎゅっとオレを抱きしめてくれる。



愛しい人の最後になれることがこんなに嬉しいことだなんて知らなかった。


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