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任務も終わりあともう少しで里の門が見えるというところで、サクラが小石に躓いたので片手で支える。

「大丈夫か、サクラ」

イチャパラを片手に顔を覗き込むと、何故か顔を真っ赤にしてプルプルと震えていた。

「か、かかかか」

挙動不審なサクラに首を傾げていると、近くにいたナルトが騒ぎ出す。

「カカシ先生!何やってるんだよ!」
「何って・・・」
「手!手離すってばよ!!」
「手?」

ナルトの言葉にサクラを支えている手を見ると。


オレの手はしっかりとサクラの胸を鷲掴んでいたのだ。

背中に冷汗が流れるのを感じる。
そっと胸から手を放してサクラから離れて。
サクラは胸を隠すように前かがみになり、こちらを伺っている。

「あー・・・ごめん。気づかなかった」
「!!」

頭を掻きながらヘラって笑うと、サクラは目を見開く。
小さくて胸って認識が出来なかったのだ。

サクラはキッと涙目で睨んで、右手が持ち上がったと思ったら。
ビターーーンと、音が響くほど思い切り頬を叩かれた。


「カカシ先生の馬鹿ーー!!変態教師ーーーー!!」


サクラは「うわーん!」と泣きながら大声で叫んで里の中に入っていった。
ナルトは慌ててサクラを走って追いかけ、サスケもオレを軽蔑するように睨んでから追いかける。

気づいたらオレは1人その場に取り残されていた。
様々な人が行き交う門の前で女の子が変態と叫んで泣いて走り去っていく。
みんなオレを不審者のような目で見てきて、門番のコテツとイズモは同情の様な目で見てくる。

「はぁ・・・」

オレはきっと赤くなっているだろう頬を摩り、遅れて里に入った。



****



次の日、オレの遅刻でDランクが残っておらず、ブーイングを受けながら演習をすることになった。
新しい術を教えろと足にまとわりつくナルトを引っぺがしながらサクラを見ると、朝からオレを見ようとしない。
話しかけても無視。謝ることもできない。
どうしたものかと頭を悩ませた。




「じゃあ1時間休憩」

体術で3人をガッツリ鍛え上げた。
体力がまだ少ない子供にはなかなかにハードだったのか、3人は地面に座り込んだり寝転んだりして休んでいる。
各々休んでいるなか、サクラがふらっと林の中に消えていくのが見えたので後を追いかけた。



「サークラ、どこ行くの」

声をかけてもサクラは返事をしない。
オレはため息を吐いて、少し前を歩くサクラの腕を掴んで止まらせる。
それでもサクラは振り返らず、怒りを露わにしている。

「・・・昨日はごめん」

サクラの顔を覗き込んで謝ると、頬を膨らませて横目でオレをチラっと見て。

「・・・もうお嫁に行けない」
「胸ぐらいで大げさな・・・」

そう言うとサクラに思い切り足を踏まれた。
この年頃の女の子の扱いは本当難しい。


「もし」
「ん?」

「もし、私が20歳になっても結婚出来なかったら責任取って!」
「は?」

とんでもない発言に瞠目して固まる。
サクラは冗談ではなくて本気で言っているようだった。
サクラは贔屓目なしに見ても可愛い部類に入る。
サスケがダメでも誰かと恋をして結婚するだろう。
この会話なんてすっかり忘れて。

「それって、サクラが20歳になるまでオレに独り身でいろってこと?」
「当たり前でしょ」

腕を組んで上目遣いで睨んでくる教え子。
サクラが20歳になるまであと8年。
相手はいないし結婚する気もないから別にいいのだが、その頃オレは34のおじさんになっている。
この子はそのことを分かっているのだろうか。


オレため息を吐いて、眉を下げて笑い。

「いいよ。その代わり、行き遅れるんだからサクラも責任取ってよ」
「私に相手がいなかったらね。結婚してたらごめんなさい」

サクラは手を合わせて舌を出す。
そうなる確率が高いのだから何とも言えない。
持て余したオレは、サクラの髪をグシャグシャに撫で回した。







****



「誕生日おめでとー」

インターホンを鳴らして出てきた薄紅色の髪の少女、いや、もう女性と言うべきか。
すっかり大人の女性へと成長した彼女にお祝いの言葉を贈る。

「はい、誕生日ケーキ。前に食べたがってたでしょ」
「わ、ありがとう先生。これ人気でなかなか買えないのに」
「サクラの為だからね。先生頑張っちゃった」

ケーキの箱を受け取り中身を確認したサクラは嬉しそうに笑った。
その顔は、成長しても昔と変わらず安心する。


「先生、中に入ってお茶でも飲んで行って」

サクラはドアを更に開き、中へと促す。

「あー、いや、この後行くところあるから。出来たらサクラも」
「私も?」

首を傾げる彼女だが、オレが何を言いたいのか分かっている様子だった。
オレがちゃんと言わないとサクラは動かない。
すっかり彼女の手のひらで踊らされているな。



「あぁー・・・20歳の誕生日おめでとう」
「うん。ありがとう」

大人の女性の微笑みを向けてくる彼女。
昔と同じようで違う表情にいつもオレの心が乱されていることを彼女は知らないだろう。
だが今日、ここで、それを知らしめなければならない。


「もう8年か」
「うん」
「あの日の約束、覚えてる?」
「もちろん」



あの口約束から8年。
オレは34歳になって六代目火影に就任して多忙な日々を送っていた。
サクラも20歳になり、医療の礎として同じく多忙な日々を送っている。


お互いよくモテる。
言い寄る女だってこの数年で何人もいた。
それはサクラもだろう。
男と楽しそうに話しているのをよく見かけた。

それでも。
お互い結婚はおろか恋人もいない。

それは何故なのか。お互い知っていた。



「本当に責任取らされるとはね」
「嫌?」
「まさか」

オレたちは体を引き寄せ合う。

「でも私が結婚出来なかったの、先生のせいでもあるんだからね」
「なんで?」
「私知ってるのよ。私に言い寄る男の人に牽制してたの」
「あらら、バレてた?でもサクラもでしょ?近づこうとする女の人に睨み効かせてた」
「だってそんなことされてるのに、先生が結婚したら困るもの」
「物は良いようだな」



言葉はいらない。
お互いに自然と顔を近づけ唇を合わせる。
長いキスをして、ゆっくり顔を離す。


「とりあえず婚姻届に名前書いて。一緒に出しに行って、それから指輪買いに行こう」
「その後あんみつ食べに行きたい」

下忍時代、任務や訓練終わりによくサクラに捕まってあんみつを奢らされていたことを思い出した。
綱手に師事してからも、中忍になってからも。
おねだりするサクラに勝てないのは、唯一の女の子だったからなのか、それとも──。


「お姫様のお願いには逆らえないな」

そう言うと嬉しそうに弧を描く可愛らしい唇にまた唇を寄せた。


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