short.1
長期の任務に出ていた先生が帰ってきた。
嬉しくて、嬉しくて。
久しぶりに先生の顔を見たら押さえていた気持ちが溢れてしまって。
「先生好き」
唯一見えている先生の目が大きく見開かれている。
その表情を見て、無意識に告白していたことに気付いて、顔を真っ赤に染めて口を押さえる。
今更そんなことしても出た言葉が消えるわけじゃないのに。
先生は何も言ってくれない。
沈黙がこんなに怖いなんて知らなかった。
俯いて目をギュウッと瞑ると、先生の息を吸う音が聞こえて。
「ごめん」
風を感じて顔を上げるとそこには誰もいなくて。
私はただ、その人がいた場所を見て立ち尽くしていた。
****
あれから2ヶ月。
先生を忘れようと仕事に没頭したり、同僚の男性とご飯に行ったり。
あの日から先生に会っていない。
綱手に聞いたらまた長期任務に出ているらしくて、それを聞いてほっとした。
里にいれば頻繁に会ってあんみつを奢ってくれた。
たぶんあれは先生が気にかけてくれていたから。
そんな優しい先生だから好きになったのだ。
私だけに微笑んでくれる先生を好きになったのだ。
そう思ったら胸がキューと苦しくなる。
どんなに先生のことを想っても、あの言葉が甦る。
先生が私を拒否した言葉。
「先生・・・」
私は胸部分を掴んでその場に蹲り、痛みが去るのを待った。
****
病院の仕事と綱手の修行の合間に綱手の書斎に忍びこむ。
見つかるたびに怒られるけど、ここの方が図書館より医療の蔵書がたくさんある。
何回か繰り返していると、綱手も何も言わなくなった。
静かな部屋でページのめくる音だけが聞こえる。
読んでいた本を読み終わり次の本を手に取ろうとした時。
その本の奥に隠されるように何かが入っていた。
昔から好奇心旺盛の私は、すぐに奥のものを取り出す。
手に取ると、それはカカシ先生のカルテファイルだった。
なんでこんなものが?、と首を傾げながらファイルを開く。
1番古いものを見ると先生が下忍になった5歳から。
ちゃんと真面目に定期検診を受けていて、今とは正反対だなと笑えた。
めくっていくと、ある年から日付が飛んでいた。
その年は約10年。
恐らく先生が暗部に入っていた時期。
時折暗い顔をしているカカシ先生を見るたび、触れることのできない心の闇の部分を感じて苦しくなって。
その空白の次の年は私たちが下忍になる年の2年前。
先生が上忍師になった年だろう。
私たちの前に何人も先生に落とされたと聞いたことがある。
その2年の間、先生は何を思っていたんだろう。
私の知らない紙の厚み。
紙をそっと撫でてページをめくると、やっと私たちの年。
めくっていくと苦笑する。
月に1回は受けないといけない定期検診。
それなのに先生は早くて2、3ヶ月、ひどい時は半年のものまであるのだ。
昔、痺れを切らした綱手の命令で先生を探して病院に連れて行くことが何回かあった。
それでも怠け癖は治らなくて、頬を膨らませて怒る私に先生は頭を撫でて謝るだけ。
その温かい手が好きで、怒りながらも毎回探して連れて行っていた。
でも、もうそれもない。
私が告白してしまったから。
先生はもうあの時のように撫でてくれない。
涙が溢れそうになるのを耐えながらページを捲る。
すると違和感を感じた。
あれだけ不規則だった日付がある時から規則的、いや、間隔的になっていた。
それは1週間、5日、3日とだんだんと受診期間が短くなっていく。
それは先生が長期任務に出ていると聞かされていたときもだった。
疑問は不安に変わっていく。
そして私が告白した2ヶ月前。
次の日から受診日が毎日になっていた。
「師匠!これってどういうことなんですか!!」
火影机で書類仕事をしている綱手にカルテファイルを叩きつける。
そばで仕事をしていたシズネはファイルを見た瞬間、顔色が変わった。
綱手は大きくため息をついて、眉間に皺を寄せて書類から顔を上げる。
「サクラ。お前はまた無断で書斎に入ったのか」
「話を逸らさないでください!この、カカシ先生の、どういうことなんですか!」
「どう、とは?」
「なんで2ヶ月前から毎日検査受けてるんですか!?いえ、半年前から診察日が短くなってる・・・先生は・・・」
私は言葉が詰まる。
この言葉を言ったら、思っていることが確定してしまう気がするから。
「カカシ先生は・・・どこか悪いんですか」
綱手の顔をまっすぐ見る。
綱手は覚悟を決めた顔をして口を開く。
「どこが悪いというなら、全部・・・というべきか」
「全部・・・?」
「寿命だ」
「寿命・・・?」
先生は30歳だ。
まだ若い部類に入る。
「カカシの写輪眼は移植された物だと聞いているか」
私が頷くと綱手は続ける。
「元は持っていなかったものを使っているんだ。使うたびに体を酷使する。無理に使えば寿命を縮める。見た目は平気そうに見えても、身体の中はどんどん蝕まれていたんだ」
「そんな・・・」
「半年ぐらい前か。カカシが私のところに来て身体を見てほしいと言ったんだ。自分の身体の不調に気づいていたんだろう。そこで検査して分かった」
「何をですか・・・」
「カカシの命はもってあと数ヶ月だ」
綱手の言葉に私はボロボロと涙を流す。
そんな私にシズネがハンカチを渡してくれたけど、小さなハンカチでは吸い取れないほどの涙が溢れる。
「カカシはもう木ノ葉に取って欠かせない忍となった。このことを他里にも誰にも知られてはならない。カカシは任務に出ていることにして、私が管理している部屋で過ごすことになっている」
そう言って綱手がテーブルにあるものを置いた。
それはどこかの部屋の鍵。
それを見た瞬間、綱手が何を言いたいのか分かった。
私はそれを頭を下げて、鍵を手に取って執務室を出た。
****
私は建物を出て病院へと駆け走る。
どこにあるなんて聞いてないのに全力で走っていた。
「ここ・・・」
病院の最上階の奥へと進むと大きな扉がある。
綱手とシズネしか入れず、普段は立ち入ることを禁止されている。
私は手に持っていた鍵を差し込むとすんなり入り、回すとガチャンと音が響く。
ドアノブを回して中に入ると、いくつか扉がある。
さらに奥に進み、最奥の部屋のドアノブに手をかける。
私は深呼吸を何回かして、ノックする。
すると、中からゆったりとした返事が聞こえてきて、ゆっくりとドアノブを回した。
そこはシンプルな部屋だった。
病室と何も変わらず、窓際に置いてあるベッドの上で上半身を起こして窓の外を見ている男の人。
その人物はゆっくりこちらに顔を向けると、驚いたように目を見開いた。
「・・・サクラ。なんで・・・」
2ヶ月前と何も変わらない。
病人と言われても分からないほど見た目はいつも通りで、ほっとした。
でも先生の身体の中は・・・。
「綱手様から全部聞いた」
先生は目を伏せる。
「私、カカシ先生が好き」
2度目の告白に、先生はあの時とは違い両目を見開く。
そして眉間に皺を寄せて。
「サクラ・・・俺は」
「先生が断るのは私が生徒だから?子供だから?それとも、死んじゃうから?」
「そうだ。オレはもう死ぬ。こんなオレよりいい男を見つけてサクラには幸せになって欲しいんだ」
「私の幸せは私が決めることよ。それに、先生の側に居れないことの方が不幸だわ」
私は涙が溢れないように睨みながら言うと先生は諦めたよう笑って、自分の方に来る様にベッドを叩いたので、私はゆっくり歩みを進める。
「オレはもう少ししか側にいてやれないよ」
「それでもいい。それに私が先生の身体治してやるわ」
「綱手様にも出来なかったのに?」
「師匠以上のくノ一になるって言ったのは先生でしょ」
「はは、確かに」
喋りながらゆっくり歩いてベッドに近づいた。
「残りが少ないなら、先生の残りの人生を私に頂戴。絶対幸せにしてあげるから」
私はベッドに上がり、先生に跨って真っ直ぐ目を見つめる。
先生は嬉しそうな、悲しそうな顔をして笑う。
「本当、サクラは諦めが悪いね」
「そんなの前から知ってるでしょ」
「そうだな・・・昔から頑固でワガママで、生意気で・・・」
「何それ悪口?振ろうとしてるわけ」
「違う違う」と笑いながら、先生は私を引き寄せて強く抱きしめて。
「ごめん。ありがとう」
嬉しくて、嬉しくて。
久しぶりに先生の顔を見たら押さえていた気持ちが溢れてしまって。
「先生好き」
唯一見えている先生の目が大きく見開かれている。
その表情を見て、無意識に告白していたことに気付いて、顔を真っ赤に染めて口を押さえる。
今更そんなことしても出た言葉が消えるわけじゃないのに。
先生は何も言ってくれない。
沈黙がこんなに怖いなんて知らなかった。
俯いて目をギュウッと瞑ると、先生の息を吸う音が聞こえて。
「ごめん」
風を感じて顔を上げるとそこには誰もいなくて。
私はただ、その人がいた場所を見て立ち尽くしていた。
****
あれから2ヶ月。
先生を忘れようと仕事に没頭したり、同僚の男性とご飯に行ったり。
あの日から先生に会っていない。
綱手に聞いたらまた長期任務に出ているらしくて、それを聞いてほっとした。
里にいれば頻繁に会ってあんみつを奢ってくれた。
たぶんあれは先生が気にかけてくれていたから。
そんな優しい先生だから好きになったのだ。
私だけに微笑んでくれる先生を好きになったのだ。
そう思ったら胸がキューと苦しくなる。
どんなに先生のことを想っても、あの言葉が甦る。
先生が私を拒否した言葉。
「先生・・・」
私は胸部分を掴んでその場に蹲り、痛みが去るのを待った。
****
病院の仕事と綱手の修行の合間に綱手の書斎に忍びこむ。
見つかるたびに怒られるけど、ここの方が図書館より医療の蔵書がたくさんある。
何回か繰り返していると、綱手も何も言わなくなった。
静かな部屋でページのめくる音だけが聞こえる。
読んでいた本を読み終わり次の本を手に取ろうとした時。
その本の奥に隠されるように何かが入っていた。
昔から好奇心旺盛の私は、すぐに奥のものを取り出す。
手に取ると、それはカカシ先生のカルテファイルだった。
なんでこんなものが?、と首を傾げながらファイルを開く。
1番古いものを見ると先生が下忍になった5歳から。
ちゃんと真面目に定期検診を受けていて、今とは正反対だなと笑えた。
めくっていくと、ある年から日付が飛んでいた。
その年は約10年。
恐らく先生が暗部に入っていた時期。
時折暗い顔をしているカカシ先生を見るたび、触れることのできない心の闇の部分を感じて苦しくなって。
その空白の次の年は私たちが下忍になる年の2年前。
先生が上忍師になった年だろう。
私たちの前に何人も先生に落とされたと聞いたことがある。
その2年の間、先生は何を思っていたんだろう。
私の知らない紙の厚み。
紙をそっと撫でてページをめくると、やっと私たちの年。
めくっていくと苦笑する。
月に1回は受けないといけない定期検診。
それなのに先生は早くて2、3ヶ月、ひどい時は半年のものまであるのだ。
昔、痺れを切らした綱手の命令で先生を探して病院に連れて行くことが何回かあった。
それでも怠け癖は治らなくて、頬を膨らませて怒る私に先生は頭を撫でて謝るだけ。
その温かい手が好きで、怒りながらも毎回探して連れて行っていた。
でも、もうそれもない。
私が告白してしまったから。
先生はもうあの時のように撫でてくれない。
涙が溢れそうになるのを耐えながらページを捲る。
すると違和感を感じた。
あれだけ不規則だった日付がある時から規則的、いや、間隔的になっていた。
それは1週間、5日、3日とだんだんと受診期間が短くなっていく。
それは先生が長期任務に出ていると聞かされていたときもだった。
疑問は不安に変わっていく。
そして私が告白した2ヶ月前。
次の日から受診日が毎日になっていた。
「師匠!これってどういうことなんですか!!」
火影机で書類仕事をしている綱手にカルテファイルを叩きつける。
そばで仕事をしていたシズネはファイルを見た瞬間、顔色が変わった。
綱手は大きくため息をついて、眉間に皺を寄せて書類から顔を上げる。
「サクラ。お前はまた無断で書斎に入ったのか」
「話を逸らさないでください!この、カカシ先生の、どういうことなんですか!」
「どう、とは?」
「なんで2ヶ月前から毎日検査受けてるんですか!?いえ、半年前から診察日が短くなってる・・・先生は・・・」
私は言葉が詰まる。
この言葉を言ったら、思っていることが確定してしまう気がするから。
「カカシ先生は・・・どこか悪いんですか」
綱手の顔をまっすぐ見る。
綱手は覚悟を決めた顔をして口を開く。
「どこが悪いというなら、全部・・・というべきか」
「全部・・・?」
「寿命だ」
「寿命・・・?」
先生は30歳だ。
まだ若い部類に入る。
「カカシの写輪眼は移植された物だと聞いているか」
私が頷くと綱手は続ける。
「元は持っていなかったものを使っているんだ。使うたびに体を酷使する。無理に使えば寿命を縮める。見た目は平気そうに見えても、身体の中はどんどん蝕まれていたんだ」
「そんな・・・」
「半年ぐらい前か。カカシが私のところに来て身体を見てほしいと言ったんだ。自分の身体の不調に気づいていたんだろう。そこで検査して分かった」
「何をですか・・・」
「カカシの命はもってあと数ヶ月だ」
綱手の言葉に私はボロボロと涙を流す。
そんな私にシズネがハンカチを渡してくれたけど、小さなハンカチでは吸い取れないほどの涙が溢れる。
「カカシはもう木ノ葉に取って欠かせない忍となった。このことを他里にも誰にも知られてはならない。カカシは任務に出ていることにして、私が管理している部屋で過ごすことになっている」
そう言って綱手がテーブルにあるものを置いた。
それはどこかの部屋の鍵。
それを見た瞬間、綱手が何を言いたいのか分かった。
私はそれを頭を下げて、鍵を手に取って執務室を出た。
****
私は建物を出て病院へと駆け走る。
どこにあるなんて聞いてないのに全力で走っていた。
「ここ・・・」
病院の最上階の奥へと進むと大きな扉がある。
綱手とシズネしか入れず、普段は立ち入ることを禁止されている。
私は手に持っていた鍵を差し込むとすんなり入り、回すとガチャンと音が響く。
ドアノブを回して中に入ると、いくつか扉がある。
さらに奥に進み、最奥の部屋のドアノブに手をかける。
私は深呼吸を何回かして、ノックする。
すると、中からゆったりとした返事が聞こえてきて、ゆっくりとドアノブを回した。
そこはシンプルな部屋だった。
病室と何も変わらず、窓際に置いてあるベッドの上で上半身を起こして窓の外を見ている男の人。
その人物はゆっくりこちらに顔を向けると、驚いたように目を見開いた。
「・・・サクラ。なんで・・・」
2ヶ月前と何も変わらない。
病人と言われても分からないほど見た目はいつも通りで、ほっとした。
でも先生の身体の中は・・・。
「綱手様から全部聞いた」
先生は目を伏せる。
「私、カカシ先生が好き」
2度目の告白に、先生はあの時とは違い両目を見開く。
そして眉間に皺を寄せて。
「サクラ・・・俺は」
「先生が断るのは私が生徒だから?子供だから?それとも、死んじゃうから?」
「そうだ。オレはもう死ぬ。こんなオレよりいい男を見つけてサクラには幸せになって欲しいんだ」
「私の幸せは私が決めることよ。それに、先生の側に居れないことの方が不幸だわ」
私は涙が溢れないように睨みながら言うと先生は諦めたよう笑って、自分の方に来る様にベッドを叩いたので、私はゆっくり歩みを進める。
「オレはもう少ししか側にいてやれないよ」
「それでもいい。それに私が先生の身体治してやるわ」
「綱手様にも出来なかったのに?」
「師匠以上のくノ一になるって言ったのは先生でしょ」
「はは、確かに」
喋りながらゆっくり歩いてベッドに近づいた。
「残りが少ないなら、先生の残りの人生を私に頂戴。絶対幸せにしてあげるから」
私はベッドに上がり、先生に跨って真っ直ぐ目を見つめる。
先生は嬉しそうな、悲しそうな顔をして笑う。
「本当、サクラは諦めが悪いね」
「そんなの前から知ってるでしょ」
「そうだな・・・昔から頑固でワガママで、生意気で・・・」
「何それ悪口?振ろうとしてるわけ」
「違う違う」と笑いながら、先生は私を引き寄せて強く抱きしめて。
「ごめん。ありがとう」
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