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「ミスコン?」

食後にお茶を飲んでいると、向かいに座るサクラがテーブルにミスコン開催のチラシを出して俯す。
確かそんなイベント開催の申請書があったような。

「断れなくて医務局の代表で出ることになったのよ・・・」

ふーん、とチラシを見ていると、優勝賞品で部署にも賞品が出ると書いてある。
これはどの部署も本気を出してくるだろう。

すっかり大人の女性へと成長したサクラは、才色兼備で誰もが羨む忍となった。
そんな彼女の恋人になれたのは本当誇らしい。


「衣装って持参ってあるけど、何着るの?」
「局のみんなが用意するからお楽しみって・・・不安しかないわ・・・」

やだなーやだなー、とテーブルの上でと文句言っているサクラは、オレの眉間の皺が深くなっていることに気づかなかった。



****



「な、にこれぇ!」

本番当日、ずっと隠されていたミスコンの衣装を持って私は怒りで震えていた。

「誰、こんな服用意したの!」

私が逃げ出さないように出入り口を塞いでいる同僚たちに服を突き詰めるも誰も口を割らない。
すると、その奥から呑気な声が聞こえてきて。

「私〜」
「・・・いの」

人を避けて現れたいのは、睨みつける私を気にすることもなく着替えるように促してくる。


「いの、何よこの服は!」
「ミスコンに出るって聞いたら優勝出来るように協力するのが親友ってものでしょ?」

準備しないと時間がない、と言われると諦めるしかない。
仲間達に衣装に頼んだ私が悪いのだ。
それでも怒りは収まらなくて。

「いの・・・後で覚えてなさいよ」
「覚えてたらね」



****



「さぁさぁ!お次はオレの一押しの人だってばよ!」

司会を任されているナルトの言葉にため息を吐きながら登壇する。
男たちの歓声が上がり、恥ずかしくてスカートを押さえる。


いのが用意した衣装はナース服だった。
部署的には合ってるし、昔着たことがあるからそれは別に問題はない。
問題があるとすれば・・・。

(スカートが短すぎる・・・!!)

病院のとは違って、スカートの丈が短く、体のラインが分かるようにピッタリくっ付く。
まさに男ウケしそうな衣装。
下着が見えそうでモジモジしてしまう。

「サクラちゃん、何か一言」

ナルトからマイクを受けとったものの何も考えてなくて、あー、うー、とか言いながら考えたのが。

「えっと、よろしくお願いします」

と微笑むと、野太い男たちの声がビリビリと振動した。
私は恥ずかしくてすぐに降壇しても、客席は盛り上がったままで次の人に申し訳なかった。



その後の投票結果で、守りたくなるような男心をくすぐったヒナタと僅差で私がミスに選ばれた。



****



「はー・・・疲れたぁ・・・」

控え室でミスの証であるティアラと赤いマントを着たまま椅子にもたれかかる。

「お疲れー!優勝おめでとー」

「プロデュース料で私も賞金分けて貰えるから、サクラには感謝だわー」と嬉しそうにしている親友に文句を言いたかったが、インタビューに捕まったせいでその気力も湧かない。


「なんで参加しなかったわけ?いのだったら優勝も出来たでしょ」
「私はする気まんまんだったんだけどー、サイがヤキモチ焼いちゃって」

と、頬を染めていきなり惚気話が始まってウンザリする。
私だって先生が止めてくれたら辞退した。
でもあの男が私のこんな姿を見るためなら止めるわけがない。

そういえば客席に先生の姿を見かけなかった。
あの人のことだから1番前で私が恥ずかしがるところを楽しむと思ったけれどいなくて、後ろの方もそれらしい人はいなかった。
怠け癖のある先生だから、きっと仕事が終わらなくて見に来れなかったのだろうか、と首を傾げながら思っていると、
部屋の外から先程とは違い黄色い歓声と拍手が聞こえて来た。



「今ってミスターだっけ」
「そう。そう言えばあの人は知ってるの?」
「何が?」
「ミスからミスターに送る祝福のキスよ〜」

いのは指でハートを作りながらニヤニヤ笑い、私は頭を抱えた。

すっかり忘れてた。
選ばれたミスターに、ミスから祝福のキスが送られることを。
別にどこでもいいと言われたけれども。
そのことを衣装のことで頭がいっぱいで、すっかり先生に言うことを忘れていた。
でも先生もチラシを見ていたけど何も言わなかったし。
もしかしたら気づいていないのかもしれない。
いや、気づいていないことを願うしかない。


「サクラがミスに選ばれたって分かって、男たちの目の色が変わってたから盛り上がってるでしょうね」
「え、なんで?」

私の疑問にいのは目を見開いて、大きな胸の下で腕を組んで大きくため息をついた。

「あんたって・・・本当自分のことは鈍感よね・・・」
「なによそれ」

頬を膨らませる私にいのは頭を横に振る。


その時、先ほどよりも大きめな歓声が上がりいのと顔を見合わせる。

「・・・何かしら」
「ちょっと見てくるわ」

いのはそう言って部屋を出て行く。
暫くすると、また歓声が上がる。
私も見に行きたい衝動に駆られたが、主催者側から出るなと注意されたので諦めて待っていると。





「「「きゃああああああ!!!」」」


いきなり女性たちの悲鳴に違い歓声が部屋に響く。

「な、なに・・・!?」

ここまでくるとさすがに気になって、立ち上がりドアノブを回そうとすると。


「わっ」

タイミングよくドアが開いて、向こうからいのが入ってきた。

「い、いの。何があったの」

心配そうにする私に、いのは横に首を振る。

「大丈夫よ。問題ないわ」
「じゃあさっきの声はなに・・・」

そう聞くと、いのはチラッと私を見て、何か笑いを堪えるようにまた首を振る。

「私の口からは言えない」
「はぁ?」

いのの答えに眉間に皺を寄せていると、ステージに上がるようにと関係者が呼びに来た。

「いの。後で説明してもらうからね」

私は納得出来ないまま部屋を出るときに言うと、いのは「はいはい」と楽しそうに返事をしてまた私は首を傾げながらステージへと向かった。



「今から分かるから大丈夫よ」



****



「春野さん、登壇してください」
「・・・はい」

私は覚悟を決めてステージの階段を登る。

ーー大丈夫、頬に軽くするだけ。
それだけだったらあの人だって・・・。

嫉妬深い恋人のことを考えて俯いたまま歩いていると。




「サクラ」




前から聞こえてきたその声に背筋がゾワッとする。
恐る恐る顔を上げるとそこには、にこりと微笑む里の長にして私の恋人のはたけカカシ。
状況が分かっていない私は後ろにいるナルトに掴みかかる。


「ナルト!何でカカ・・・六代目がここにいるのよ!!」
「何でって・・・カカシ先生がミスターに選ばれたからだってばよ・・・」
「先生がミスター・・・!?」

今にも殴りかかりそうな私に涙目になっていたナルトは、私の後ろを見て「あっ」とした顔をした。
振り返ろうとする前に後ろから腕を強く引っ張られて、その人物の胸に顔面を強打する。

顔を上げれば人が良さそうに笑う先生。
でもそれは怒りを含んだ笑いだということが分かるのは私だけで。
すっ、と目が薄く開いて体がビクっと揺れる。
 

「サクラ、その衣装似合ってるけどスカートみじか過ぎだよね」
「いや、あの、これはいのが・・・」
「でもそれ着て他の男の前に出たのはサクラでしょ」

これしかなかったんだからしょうがないでしょ、と言おうとすると、先生の手がマントから入り込み太ももを撫でてきて息を飲む。
客席からは見えないけど、恥ずかしいものは恥ずかしい。

「ちょっと、止めてよ」

顔を真っ赤に肩を叩きながら小声で文句を言うけど先生は止めない。


「サクラ」

いつもは先生に呼ばれたら嬉しくて頬が緩むのに、今の先生は怒りを露わにしている。

「何でキスのこと言わなかった」

ビックリして先生の顔を見ると、静かに怒りを含ませて瞳で見つめてくる。

「いや、あの・・・えっと」

忘れてたと言えばいいのに。
滅多にみない先生の怒りに目が泳ぐ。



私たちの不穏な雰囲気に感づくナルト。
小声で喋って喋っているから、ただ見つめ合っている2人に観客もざわつき始める。

「さ、さぁ!ミスからミスターに祝福のキスを!」

ナルトの言葉に先生はため息をついて手を離す。
背中に冷や汗をかきながら一生懸命頭を働かせる。
とりあえずこの場は頬にキスをして、ステージを降りたらすぐ逃げよう。
この男から逃げ切れるわけがないと分かっていても本能がそうしろと言うから。


観客たちが期待した目で見てくる。
先生との仲はわざわざ公表することでもないだろう、聞かれれば答えようとなった。
だからほとんどの住人が知らない。
みんな、元生徒と師の禁断の瞬間を見ようとしている。

私は頬を染めて背伸びして先生の肩に手を置いて。
唇が先生の口布越しの頬にキスをしようとした瞬間、肩に置いている手を掴まれてビックリして止まる。

何故か先生は口布に指をかけて下げる。
そして。


「これで終わると思うなよ」


どういう意味、と口を開いた隙に先生が唇を押しつけて舌を差し込んでくる。
離れようとしてもガッツリ押さえこまれててビクともしない。



ステージのど真ん中、しかも衆人環視の中で濃厚なシーンをたっぷり1分以上されて。

皆が瞬きした瞬間には一風の木ノ葉を巻き上げて2人の姿はその場から消えた。



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(おまけ)


ミスターコンの最後のエントリー者が終わって観客がざわついていると、ステージ上で明らかに興奮しているナルトが大声で呼びかける。


「みんな驚け!とんでもない人が飛び入り参加だってばよ!!」

客がナルトの声に反応して指差す先を見ると、そこから現れたのは。


「オレの師にして、六代目火影、はたけカカシだってばよ!」

ヒラヒラと手を振って現れたカカシに女性陣の大きな歓声が上がる。
写輪眼が無くなったことで、隠す必要がなくなり端正な顔立ちがハッキリ分かり、口布をしていてもめちゃくちゃモテるカカシ。
そんな人物が現れて盛り上がらないわけもない。


うんうんと頷くナルトはカカシにマイクを向けて。

「カカシ先生は何で急に参加しようと思ったんだ?」
「あぁ、ちょっと分かってない子がいたからね・・・分からせてあげようと思って」

カカシは妖しい笑みを作ると、女性陣から吐息が漏れ出る。

ナルトはその言葉で察する。
七班とその仲間たちには2人から直接交際を教えられた。
もちろん初恋の子と先生には驚いたが、サクラが幸せそうだったので見守ることにしたのだ。
そしてその初恋を奪った男は、何をするのか分からなかったが、どうなるかは分かったのでそこで思考を止めて心中で合掌した。



カカシの人気はわかるが、それでもアピールはして貰わねば。

「先生何かしてよ」
「何かって」

サクラしか見えていないカカシはそんなこと考えてない。
ナルトは顎に手を当てて無い知恵を絞っていると、ステージ下で待機しているサイのお腹が目に入る。
以前、いのとサクラが男は見せまくるより腹チラの方が良いと話していたことを思い出した。


「腹チラってのは」
「ハラチラ?」

「なんだそれ」と首を傾げるカカシのためにナルトが一皮剥くことにした。
ナルトは徐に上着の裾を掴んで割れたお腹を見せる。

「ほら、こうやって」

すると、女性陣から歓声が上がる。
その中で「ヒナタぁ!」とキバの声と運ばれていくヒナタ。


カカシはそれの何がいいのかが分からなかったが、他に思いつかない。
今回火影としてではなく一個人として参加している為、サイに火影ベストを預けている。
カカシは服と鎖帷子を臍まで持ち上げる。
そこから現れたのは、前線から退いたとは思えないほどバキバキに割れた腹筋。



数秒後、悲鳴とも取れる黄色い歓声が上がるとともに、女性陣が歓喜のあまり倒れ始めたのだ。

観客席は一気に騒然とする。
ナルトは呆然としながら、とりあえずカカシをステージから下ろした。
そしてカカシの腹チラは封印するべきだと心に誓った。



その後の投票でもちろんカカシが圧倒的の差でミスターを勝ち取ったのだ。
それはミスにとって悲劇の始まりでもある。

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