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short.1

「先生って毎回寒天食べるわよね。好きなの?」

里を歩いていると見知った背中を見つけて、捕まえて甘味処に連れ込んで奢らせている。

「オレが甘いの苦手なの知ってるでしょ」

呆れたように笑う先生を無理やり連れ込んだので、テヘッと笑った。

「じゃあ次は別のお店にしましょ。どこがいい?」
「いいよ、ここで」

ふっ、と笑った先生は寒天を口に運ぶ。
勝手に連れ込んで約束をしたのに笑ってくれるのが先生だ。
七班に甘い先生も、私だけは特に甘い。
それは私が唯一の女の子だからなのか。


先生の特別は私だけなんだって、そう思える時間が好きだった。


****


そんなある日、修行終わりに甘味処に行こうとまた先生を探していたとき。
背の高い先生は見つけやすい。
すぐに銀髪の猫背を見つけて頬が緩む。


「カカ・・・」



人波を縫って声をかけようとして止まる。


先生が綺麗な女性と歩いていたから。
しかも親しそうに笑って、先生の腕を触って。

私はその場から動けないでいると、先生は私に気づかないで女性とお洒落なお店に入っていった。


暫く突っ立っていると、通りがかる人々が不審そうな顔で見てくることに気づいて、私は逃げるようにその場を後にした。



****



次の日、私は1人とぼとぼと歩いていた。
昨日のことが頭を占め、修行にも身が入らないで今日だけで何回も師匠に怒られ、終いには追い出された。
このままじゃ明日も怒られる。
しっかりしなきゃ、と思うんだけど。
昨日の先生と女の人が頭から離れなくて。
俯いて歩いていると。



「危ない」



いきなり後ろから腕を力強く引かれた。
顔を上げると電柱が至近距離にあり、危うくぶつかるところだった。

「あ、ありがとうございま・・・」

止めてくれた人にお礼を言おうと振り返ると。

「・・・カカシ先生」

いきなり頭の中でグルグル回っている人が目の前に現れて戸惑う。

「なーにやってるの、サクラ。危ないでしょ」
「うん・・・ごめんなさい」

真っ直ぐ先生の顔が見れなくて俯く。
そんな私に先生はすぐに気づいて。

「どうした?」
「ううん・・・」

心配そうに覗いてくる先生に笑うが、絶対無理してることはバレているだろう。
腕を組んで見下ろしてくる視線に耐えられなくて目が彷徨う。




「そうだ、サクラ。甘味処行こう」

ピクリ

私はその単語に反応する。

「さっき店の前通ったら、今日から期間限定のあんみつが出てるって書いてあったぞ」

元気がない私を励まそうとしているのだろう先生は、私の腕を引っ張る。
でも歩みだそうとしない私に、不審な顔をして振り返る。


「サクラ?」
「・・・行かない」
「え?」
「甘味処じゃなくて・・・もっと別の、お洒落なお店に行かない?」

ーー昨日先生が入ったような。

その言葉を飲み込んで泣きそうな顔で笑うと、先生の眉間に皺が寄る。
そして先生は目線が合うようにしゃがみ込んだ。


「どうした」
「別に・・・この間話したじゃない。別のお店にしようかって」
「今のままでいいって言ったでしょ」
「そうだけど・・・」

だんだん気まずくなる空気に耐えられなくなる。
だんだん視界が滲んでくるのを何とか耐えていると。



「オレはサクラと甘味処に行くのが楽しみなんだ」
「え・・・?」

突拍子もない言葉に顔を上げると、先生は微笑んでいて。

「美味しそうにあんみつを食べているのを正面で見ている間、その時だけはサクラの特別になってる気がしてね」


ーーそれって・・・。


「だから、オレの楽しみを取られるのは辛い」

先生は眉を下げて笑いかけてくる。
気づいたら溢れそうな涙は引っ込んでいて、頬が緩んでいた。


「寒天好きじゃないのに?」
「嫌いなわけじゃない。それに、サクラと一緒にいれるなら苦手なあんみつでも食べれるよ」
「それじゃあ、今から食べてよ?」
「・・・まぁ、それはまた今度」


先生は立ち上がって手を差し伸べてくる。
その手をしっかりと握って、いつもの場所へと一緒に向かう。


「昨日の女の人、誰?」
「え、見てたの?依頼人だよ。次の任務のことで話してたんだ」
「ふーん」
「なに?」
「別に?」




この関係はなんというのか。
私たちはまだ知らない。

でも。
この居心地のよさは知っていた。

これからも、ずっと続きますように。 


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