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バレンタイン2022

「付き合ってください」

頬を染めて目を潤ませて。
緊張から体が震えて、守ってあげたくなる女。

「いいよ」

男がそう返事をすると、ついに女は泣き出し、感極まって男に抱きつく。
男は小さい体に腕を回して抱きしめる。

こんな場面を見たら誰もが祝福するのだろう。
ただ1人を除いて。




春野サクラ、16歳。

バレンタインを目前に、失恋しました。



****


「サクラちゃん、大丈夫?」
「何が」
「いや・・・目の下のクマがすごいってばよ・・・」
「ちょっと勉強し過ぎて寝不足なだけ」
「そっか・・・」


「いつもよりブス3割増」「サイ!!お前は空気読め!!」

ナルトが慌ててサイの口を塞いで笑いながら私から離れていく。
昔のナルトだったらサイ以上に空気読めなくて私に殴られていただろう。
師匠譲りの怪力を目の当たりにして学習したらしい。




「おはようみんな」

そうしているとヤマト隊長とカカシ先生が遅れてやってきた。
目敏いヤマト隊長はすぐに私の異変に気がついて。

「サクラ大丈夫?体調悪いんじゃない?」
「いえ、ちょっと遅くまで勉強してただけなので、問題ないです」
「そう?気分悪くなったらすぐに言うんだよ」
「はい、ありがとうございます」

私は笑うと、隊長は納得して任務の説明に入る。
今回は重要人物に極秘の巻物を渡すだけだが、他里の敵襲を受ける可能性があるため5人で任務をするらしい。
任務の内容を聞いている間、今日1度も目を合わせていない人物からの視線を感じていたが、私は頑として見なかった。



「内容はこんな感じかな。それじゃ・・・」
「あの、すみません!」

話終わった隊長が開始の合図を出そうとした瞬間、呼ぶ声に全員が振り返る。
その人物を華奢な肩で息をして、乱れた髪を整えて大きな瞳をこちらに向けてきた。
私は見た瞬間、体が強張った。


「すみません、こちらを渡すのを忘れていて。まだ出発されてなくて良かったです」

その女性はカカシ先生に近寄って、手に持っていた巻物を渡す。
先生が何も言わず巻物を受け取ると、女性は意味深な瞳で先生を見上げて。

「・・・任務、お気をつけて」
「うん、ありがとう」

お礼を言う先生に、頬を染めて嬉しそうに笑う。
隠そうともしない雰囲気に、見ていた七班はすぐ気づいただろう。

「それじゃ、行きますか」

先生は女性に背を向けて近づいてくる。

「皆さん、お気をつけて」

先程とは違う意味を持つ言葉に、ナルトは嬉しそうにお礼を言っていた。


****


「あのさ、あのさ、カカシ先生」
「ん?」

木の枝から枝に飛んでいると、ナルトが先生に近づいて話しかける。

「さっきの人、もしかしてカカシ先生の彼女!?」

ピクリ

「んー、まあね」
「やっぱり!なぁなぁ、いつから?」
「昨日」
「昨日!?はー、ビックリしたってばよ。ねぇ、サクラちゃん」

カカシ先生に恋人が出来たのが嬉しいのか、機嫌が悪いことも忘れて私に話しかけてくる。

「ナルト。今は任務中でしょ」
「そうだよナルト。そういうのは終わってから」

私がそう言うと、ヤマト隊長も注意する。
ナルトは反省してまた走り出す。
さっきとは違う視線を感じて見ると、サイが何か言いたそうにこちらを見ていた。

「何?」
「いえ、何も」


****


その後、無事に巻物を渡して里に帰還する。
このままみんなで報告に行くのかと思ったら先生が振り返ってきて、今日まともに先生の顔を見て胸が勝手に高鳴る。

「サクラはこのまま帰りなさい」
「え、どうして・・・」

なんで私だけ、と困惑していると先生の指が頬を撫でて体が跳ねる。

「顔色が悪い。早く帰って寝たほうがいい」

先生の後ろでナルトが頷いて他の2人も同じような顔をしていたので、諦めて頷いた。





それから一人暮らしをする部屋に帰り、ふと、壁にかかるカレンダーが目に入る。

「明日は・・・14日」

その日付は赤いペンで丸く印が付けられていた。
この心に秘める想いをチョコと一緒に渡そうと思っていた。

でも昨日。
仕事終わり、14日の先生の予定を聞こうと探していたら、ある一室で先生と女の人を見つけた。
そして告白を目撃してしまったのだ。


キッチンにはチョコの材料。

私はエプロンを付けて作り始める。
もうこの想いが叶うことはないけど、迷惑かけるだけだけど。
スッパリ振ってもらって前に進もう。



****


昨日任務だったから休みを貰っていた。
でも先生は出てきていると聞いた。

どこにいるのかと探していると、一室から泣き声が聞こえてきた。
そこは偶然にも告白現場を目撃した部屋で。
覗くと中には先生の彼女を取り囲むように女性たちが数人いて、彼女は泣いていた。
何事かと伺っていると、囲んでいる人は彼女を慰めていて、その泣いている理由がーー。


****


「ーーカカシ先生」

上忍待機所を覗くと先生1人しか居なくて、何かの書類を読んでいた。

「サクラ。体調はどう?」
「おかげさまで」
「それは良かった」

私は歩き、先生の前に立って見下ろす。
いつもとは逆に、先生は私を見上げてくる。


「どうした?」
「先生、彼女と別れたの?」

もう知ってるのか、と先生は呆れたように笑った。

「何で別れたの」
「んー、性格の不一致?」
「たった3日で?」

ズケズケと聞いてくる私に、先生は眉を下げて困った顔をした。

「ま、1番は昨日わざと巻物渡さないでお前らにアピールしてきたところかな。ああいうのは好きじゃなくてね」
「・・・あれ、わざとだったんだ」
「サクラもまだまだだな」

ふ、と笑った先生に私は頬を膨らませる。



「・・・先生」
「ん?」
「何であの人と付き合ったの?好きじゃなかったの?」

そう言うと先生は目線を逸らし、意地悪そうに笑って見つめてくる。

「サクラ、何で今日はそんなにオレのこと聞いてくるの?」
「・・・別に。気になっただけ」
「ふーん?」

今度は私が目線を逸らす。



「告白を受けたのは、サクラが見てたのに気付いてたから」

とんでもない発言に目を見開いて先生を見ると、妖しく笑っていた。
その表情だけで胸が早鐘を打つ。


「な、なんで・・・?」

どこかで期待している心を落ち着かせて聞く。
そんな私の手を先生は取り、それだけで体が熱くなる。


「サクラにオレのこと気にして欲しかったから」

先生は口布を下げながら私の手を口元まで持ってきて、チュッと唇を落とした。
私は一瞬で全身が真っ赤になる。



「ねぇ・・・サクラ。今日は甘い匂いがするね」
「あ・・・」

その言葉に忘れてたチョコを思い出す。

「食べてもいい?」
「あ、うん。ちょっとま・・・」

鞄からラッピングされた箱を取り出そうとしたら、掴まれている手を力強く引っ張られ、気づいたら先生に跨る状態になってて。



抵抗する間もなく、最後に見たのは口元にあるほくろだった。


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