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「サクラ、結婚して」


突拍子もない言葉に目を見開いて振り返ると、そこにはニコニコと笑いながら3本の薔薇の花束を差し出してくる担当上忍。

「・・・カカシ先生」
「ん?」

「私たち、付き合ってたっけ」
「ううん。付き合ってないよ」

それが何?、と言った感じに見てくる男の頭はどこかのネジが飛んでるんだと思う。


「・・・先生、結婚って何歳から出来るか知ってる?」
「女の子は16歳だろ?」
「私は今何歳」
「12歳」

呆れたように見ても男は表情を変えず、花束を押し付けてくる。


「今すぐ結婚したいけど、無理だから予約させてよ」
「予約・・・?」

先生は皺を寄せる私の眉間に指を押しつけてくる。

「そ。予約しとけばサクラはオレのだからって堂々と言えるだろ?」
「・・・私、先生とは結婚する気ないわよ」
「なんで」
「なんで、じゃない!私はサスケくんが好きなの!!」


先生の手を振り払って怒鳴るが、痛くも痒くもないといった顔で笑ってくるから尚更怒りが湧いてくる。


「先のことなんて分からないだろー?いつかサスケじゃなくてオレのことを好きになってるかもしれないでしょーよ」
「それはない、絶対ない!!」



もうこれ以上この男とは話にならない、と忍らしからぬ歩き方でその場を離れようとすると、後ろからまた呑気な声で呼び止められる。

「あ、サクラ。薔薇持って帰ってよ」
「いらない!!」
「えー、サクラが貰ってくれないなら捨てるしかないなぁ」


気づいたら足が止まっていた。
振り返らなくても分かる。
顔のほとんどを隠してても絶対ニヤニヤ笑っているだろう。

だって。
お花には罪はないんだもの。
私は花が好きだ。
いのに出会ったことで、更に好きになった。
その花が捨てられるなんて許せない。


私は下を向いたままドスドス歩いて先生に近づき手を差し出す。
顔が真っ赤に染まっているのがバレないようにして。
でも腐っても上忍。
きっと分かっているだろうが、先生は何も言わずに私の手に花束を握らせた。

綺麗な真っ赤の薔薇。
どの花瓶に差そうか悩んでいると、視線を感じる。
貰ったお礼をしないといけないのだろうが、この男にお礼を言うのは癪に障る。


「・・・それじゃ、また明日」
「うん、遅れるなよ」
「それは先生でしょ!!」


いー、と歯を見せて、今度こそこの場から離れるために駆け出す。
薔薇の花弁が落ちないように気をつけながら。



****


それから懲りない先生は毎日薔薇を手にプロポーズをしてきた。
最初は驚いていた2人も、さすがに毎日目の前で見せられたらナルトとサスケくんは慣れたらしい。
私が先生の鳩尾に拳を入れることにも。



ーー先生はからかっているだけだ。本気なわけはない。

そう思っても、この日常が居心地がいい自分がいて。
いつまでも、こんなバカなことをしながら4人でずっといれたらって願って。



でもそんな日常はすぐに崩れる。


サスケくんが里を抜けて、ナルトも修行の旅に出て。
気づいたら第七班は2人だけになっていて。
私も綱手様に弟子入りしたことで、カカシ先生は上忍として任務に入るようになった。



2人が里からいなくなって半年。

私も先生も、里にいるのにお互い忙しくてここ2ヶ月ぐらい顔を見ていなかった。
最初の頃は何とか時間を作ってあんみつを奢って貰ったりしてたけど。
気づいたらカカシ先生とも疎遠になっていくのかなって心の中で思っていつも杞憂で終わる。



「サクラー、はいこれ」
「・・・ありがとう」

同じ医療忍者を目指すいのとは、お互い修行の傍ら病院勤務をしていた。
今日は交代でいのがシフトに入るときに渡されたそれを受け取る。




赤い3本の薔薇の花束。


4人がバラバラになっても先生は私に花束を贈る。
上忍師のときとは比べ物にならない忙しさのはずなのに、この半年間、先生は毎日薔薇を贈ってくれる。
直接渡してくるときや、任務で渡せないときはいのやおばさんがこうやって宅配してくれたり。
私が休みの日は窓から不法侵入してきたり。


花瓶にどんどん増えていく薔薇を頬杖しながら見る。
最初はあんなに嫌だったのに。
七班が解散した今、唯一繋がっているようで安心している自分がいる。
それは薔薇のことなのか、プロポーズのことなのか・・・。



****



プロポーズをされ始めて数年。
今日16歳の誕生日を迎えた。
私は休みで、夕方いのと約束をしている。
一人暮らしをしているので、遅くまで惰眠をむさぼっていても叱る人はいない。
春の陽気に布団の中でぬくぬく過ごしていると。


「サクラー、おはよー」

この場にいるはずのない人の声に眉間がピクリとなる。
いつも通り窓から不法侵入してくるこの男の思い通りになるのは癪に触ってしょうがない。
目を開けずそのまま寝ていると、頬に柔らかいものを感じて飛び起きる。


「おはよう」
「・・・おはようございます」

ニコリと笑う先生に、睨むように挨拶をする。
ふと、違和感を感じた。
いつもなら薔薇の匂いを漂わせているのに、今日はしない。
首を傾げる私に、先生はベストのポケットから1枚の紙を渡してくる。



「誕生日おめでとう」

私は返事をする事もできず固まっている。
だって、渡された紙がーー。

「オレはもう書いてるから、サクラが書き終わったら一緒に役所に出しに行こう」



婚姻届



渡された紙に書いてある名前を凝視したまま口を開けて固まっている私に、どこから出したのかペンを握らせる先生。



「・・・・・・せんせ」
「ん?」

油が切れたロボットのような動きで顔を動かすと、先生はいつもの微笑みで私を見てくる。

「・・・私たち、付き合ってたっけ」
「ううん。付き合ってないよ」

数年前と同じ会話。
でも渡されるものは同じじゃない。




「ずっとこの日を待ってた」

そう言って先生は手を重ねてきて、体が跳ねて顔が真っ赤になる。


「サクラ、結婚して」


まるであの日の再現のように。
でもあの時と違うこともあって。

たぶん先生は私の気持ちを分かってる。
覗き込むように見てくる先生の顔が見れない。



この数年間はある意味洗脳だったんじゃないだろうか。
あの時先生が言った言葉。

『いつかサスケじゃなくてオレのことを好きになってるかもしれないでしょーよ』

もしかしたら先生には先見の明があるんじゃないだろうか。
気づいたら先生の思惑通りになってた。


悔しい。
悔しいけどーー。



私は真っ赤な顔を上げて、指を先生の口布に引っ掛けて下げる。
今まで頑なに見せてくれなかった素顔。
その唇は弧をえがき、その横にある黒子はこの人の魅力を上げて。



知らずに止めていた息を吐き出し、覚悟を決めてベストを掴んで引き寄せる。
息がかかる距離で止めて、余裕で笑う男を睨む。


「幸せにしなかったら許さないんだから」
「もちろん」


先生は私が蕩けそうな微笑みで見つめて、私は唇の距離を縮めた。


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