short.1
「カカシの好きなタイプは?」
「は?」
演習場での修行の休憩中。
いつの間にか隣に現れた師が突拍子もないことを言うので、間抜けにも聞き返してしまった。
そして地獄耳が2人。
「カカシの好きなタイプだって!?」
「私も聞きたい!」
興味津々に駆け寄ってくる2人にため息をつく。
「そんなのいませんよ。何なんですか、急に」
「ん。いやね、カカシくんの恋の話は聞いたことがなかったなと思ってね」
にっこり笑いかけてくる先生に、この休憩時間の暇つぶしに使われているなと察する。
そんな思惑を知らない2人は、目をキラキラ輝かせてくるので、取り敢えずオビトの頭を殴っとく。
「いってぇ!!何すんだよカカシ!!」
「煩い。顔が近いんだよ」
今にも飛びかかってきそうなオビトをリンが止めるのがこの班のお決まり。
「で、カカシの好きなタイプって?」
尚も聞いてくるのは恋バナ好きの女子としてなのか、それとも俺への恋心からなのか。
頬を染めて聞いてくるリンから視線を逸らす。
「だからいないって言ってるだろ」
オレは耐えられなくなって立ち上がりその場を離れる。
「あ、カカシー」
「何だよ、アイツ」
「そろそろ休憩終わるよ。この話はまた今度にしようか」
ミナト先生は不満そうにする2人の頭をポンと叩き、すぐにオレのそばに現れる。
チラッと横目で見ると、先生もこちらを見ていて優しく微笑んでオレの頭に手を置いた。
嬉しい反面、子供扱いされているのと、今は亡き父の面影を重ねて辛くなり、その手を振り払うように修行を再開した。
夕日が沈む前に解散となり、1人河川敷で座っていた。
あの家に1人でいるのにまだ慣れないオレは毎日こんな風に黄昏る。
でも今日は違った。
「カカシ」
今日何度目かの、気づいたら隣に座る先生。
「どうしたんですか」
「これから何か予定は入っているかい?」
「これからですか・・・?特に何も」
「それじゃあオレの家に来ないか?これからクシナとケーキを食べるんだ」
「ケーキ?」
「今日は俺の誕生日だからね」
「それは・・・おめでとうございます」
「ん。ありがとう」
お互いそういう話はしないから全く知らなかった。
「でも、2人の邪魔するわけには・・・それに甘いものは苦手で」
「気にしなくていいよ。たぶんクシナが大量にご飯用意するからね。それだけでも食べていくといい」
そこまで言われると邪険にも扱えず、オレは諦めて頷くと、「よし」と頷いて先生は立ち上がる。
そして家路へと歩き出したので、オレは慌てて立ち上がり後ろを歩く。
「カカシ」
「はい」
振り返らず呼んでくるので背中に返事をする。
「好きな子が現れたらちゃんと捕まえておきなさいね」
「は?」
また突拍子もないことを言うので素っ頓狂な返事をしてしまった。
「人は1人じゃ生きられない。どんなに強くてもね」
真っ直ぐ歩く師の背中を見つめる。
すると、先生は急に止まり振り返る。
「心を支えてくれる人を見つけるんだ」
「そんな人・・・出会えるとは思えません」
「大丈夫。オレとクシナが出会ったように、カカシもちゃんと出会えるよ」
先生はニコリと笑ってまた歩き出す。
何故先生がこんな話をし出したのか分からないまま、オレはまたついていく。
先生はきっと分かっていたのではないだろうか。
この先、オレがどこまでも続く暗闇に閉じ込められることを。
****
「カカシ先生!買ってきたわよ」
待ち合わせ場所で待っていると、ケーキ屋のロゴが入った白い箱を抱えたサクラが崩れないように早歩きで近づいてくる。
「あぁ、ありがとう。オレも良いのが出来たよ」
そう言って右手に持っていた花束を掲げる。
いのちゃんに作ってもらった、黄色の花をメインにして貰った花束。
「素敵ね!さすがいのだわ」
サクラは花の香りを嗅いでニコッと笑う。
「じゃあ、行きますか」
オレがそう言って手を差し出すと、頬を染めてケーキを片手で持って手を繋ぐ。
歩いてたどり着いたのは、歴代の火影が眠っている火のオブジェの墓。
手を離してオレは墓の前に花束を置く。
待ってもサクラが横に現れないので振り返ると、眉を下げてケーキを抱えていた。
「おいで、サクラ」
「でも・・・」
「いいから」
歴代火影の前に立つのを恐れ多いと思っているのか、躊躇しながらオレの横に立つ。
初代と二代目は分からないが、三代目と四代目がそんなこと気にするわけないだろうに。
少なくともあの人はニコニコ笑いながら手招きしているだろう。
手を合わせたくてもケーキを抱えてては出来ないので、慌てているサクラを見て吹き出しそうになる。
オレがサクラが抱えるケーキを手に取るとサクラがまた慌てるが、「いいから」と言うと口を尖らせて目を瞑り手を合わせる。
オレはその様子に頬を緩ませて、顔を上げてオブジェを見る。
ーーミナト先生、お誕生日おめでとうございます。
気づいたらオレ31歳ですよ。
おじさんになったね、って笑ってるんじゃないですか?
・・・結局オレは先生の予想通り1人闇の中に閉じ込められて彷徨っていました。
オビトが死んでリンを手にかけて。
そして唯一心の支えだった先生も亡くなって。
もう死んでもいい。
早くみんなに会いたいって死に急いで。
でも三代目がそんなオレを心配して上忍師にしたんですよ。
先生と同じ、生徒を教える立場に。
仲間を大事に出来なかったらオレがって思ってたんですけど、あの3人に出会って変われました。
ナルトとサスケ、そしてサクラ。
特に横にいるサクラには本当に救われた。
こんなオレに先生、先生って慕ってくれて。
そして気づいたらサクラに惹かれて。
先生に言われた通り、ちゃんと捕まえましたよ。
告白した時のサクラの顔が今でも忘れられなくて。
顔を真っ赤にして頷いてくれたときは、本当に嬉しかった。
もう闇の中には戻らないので安心してください。
オレの心を支えてくれるサクラがいるから。
オレはこの手を絶対離さない。
来年の誕生日にまた来ます。
サクラと一緒に。
顔をオブジェからサクラに移すと、もう終わっていたらしくオレを見上げていた。
「終わった?」
「うん」
どちらからともなく手を繋ぎ階段を降りる。
「ねぇ、何話してたの?」
「んー?」
手を繋いだまま覗いてくるサクラに、顔が緩む。
オレは年々顔の距離が近づくサクラの唇に軽く自分のを合わせる。
「来年には隣の子がお嫁さんになってるから楽しみにしてて、かな」
意地悪く笑うと、サクラの顔が真っ赤になってワナワナ震えている。
「もう!カカシ先生何言ってるのよ!!」
「えー?サクラお嫁さんになってくれないの?」
「そ・・・それは、いつかはなりたいなとは・・・」
顔を俯かせ、ゴニョゴニョ呟くサクラ。
ーー本当可愛いなぁ。
「そうだねぇ。いつか一緒になりたいね。身体はもう一緒になってるけど」
そう言うとサクラがチャクラを込めて手を握り潰してくる。
痛い、痛いって言うと、「知らない!」と顔を真っ赤にしてそっぽを向く。
「先生、バカなこと言ってないでさっさとナルトのところに行くわよ!」
「はいはい」
サクラは駆け出してオレの手を引っ張る。
先生の誕生日をお祝いしたあの日。
先生の家に着くと、涙目になったクシナさんが黒焦げになったスポンジを持っていた。
先生は笑ってクシナさんの頭を撫でて、ケーキを買いに行った。
そのケーキは生クリームが甘すぎて食べれたものじゃなくて。
舌を出すオレに2人は大笑いして。
何年経った今でもその光景は忘れられない。
オレが持っているのはあの時のケーキ。
今頃ソワソワしている教え子の元へ。
今まで話せなかった2人のことを話そうじゃないか。
「は?」
演習場での修行の休憩中。
いつの間にか隣に現れた師が突拍子もないことを言うので、間抜けにも聞き返してしまった。
そして地獄耳が2人。
「カカシの好きなタイプだって!?」
「私も聞きたい!」
興味津々に駆け寄ってくる2人にため息をつく。
「そんなのいませんよ。何なんですか、急に」
「ん。いやね、カカシくんの恋の話は聞いたことがなかったなと思ってね」
にっこり笑いかけてくる先生に、この休憩時間の暇つぶしに使われているなと察する。
そんな思惑を知らない2人は、目をキラキラ輝かせてくるので、取り敢えずオビトの頭を殴っとく。
「いってぇ!!何すんだよカカシ!!」
「煩い。顔が近いんだよ」
今にも飛びかかってきそうなオビトをリンが止めるのがこの班のお決まり。
「で、カカシの好きなタイプって?」
尚も聞いてくるのは恋バナ好きの女子としてなのか、それとも俺への恋心からなのか。
頬を染めて聞いてくるリンから視線を逸らす。
「だからいないって言ってるだろ」
オレは耐えられなくなって立ち上がりその場を離れる。
「あ、カカシー」
「何だよ、アイツ」
「そろそろ休憩終わるよ。この話はまた今度にしようか」
ミナト先生は不満そうにする2人の頭をポンと叩き、すぐにオレのそばに現れる。
チラッと横目で見ると、先生もこちらを見ていて優しく微笑んでオレの頭に手を置いた。
嬉しい反面、子供扱いされているのと、今は亡き父の面影を重ねて辛くなり、その手を振り払うように修行を再開した。
夕日が沈む前に解散となり、1人河川敷で座っていた。
あの家に1人でいるのにまだ慣れないオレは毎日こんな風に黄昏る。
でも今日は違った。
「カカシ」
今日何度目かの、気づいたら隣に座る先生。
「どうしたんですか」
「これから何か予定は入っているかい?」
「これからですか・・・?特に何も」
「それじゃあオレの家に来ないか?これからクシナとケーキを食べるんだ」
「ケーキ?」
「今日は俺の誕生日だからね」
「それは・・・おめでとうございます」
「ん。ありがとう」
お互いそういう話はしないから全く知らなかった。
「でも、2人の邪魔するわけには・・・それに甘いものは苦手で」
「気にしなくていいよ。たぶんクシナが大量にご飯用意するからね。それだけでも食べていくといい」
そこまで言われると邪険にも扱えず、オレは諦めて頷くと、「よし」と頷いて先生は立ち上がる。
そして家路へと歩き出したので、オレは慌てて立ち上がり後ろを歩く。
「カカシ」
「はい」
振り返らず呼んでくるので背中に返事をする。
「好きな子が現れたらちゃんと捕まえておきなさいね」
「は?」
また突拍子もないことを言うので素っ頓狂な返事をしてしまった。
「人は1人じゃ生きられない。どんなに強くてもね」
真っ直ぐ歩く師の背中を見つめる。
すると、先生は急に止まり振り返る。
「心を支えてくれる人を見つけるんだ」
「そんな人・・・出会えるとは思えません」
「大丈夫。オレとクシナが出会ったように、カカシもちゃんと出会えるよ」
先生はニコリと笑ってまた歩き出す。
何故先生がこんな話をし出したのか分からないまま、オレはまたついていく。
先生はきっと分かっていたのではないだろうか。
この先、オレがどこまでも続く暗闇に閉じ込められることを。
****
「カカシ先生!買ってきたわよ」
待ち合わせ場所で待っていると、ケーキ屋のロゴが入った白い箱を抱えたサクラが崩れないように早歩きで近づいてくる。
「あぁ、ありがとう。オレも良いのが出来たよ」
そう言って右手に持っていた花束を掲げる。
いのちゃんに作ってもらった、黄色の花をメインにして貰った花束。
「素敵ね!さすがいのだわ」
サクラは花の香りを嗅いでニコッと笑う。
「じゃあ、行きますか」
オレがそう言って手を差し出すと、頬を染めてケーキを片手で持って手を繋ぐ。
歩いてたどり着いたのは、歴代の火影が眠っている火のオブジェの墓。
手を離してオレは墓の前に花束を置く。
待ってもサクラが横に現れないので振り返ると、眉を下げてケーキを抱えていた。
「おいで、サクラ」
「でも・・・」
「いいから」
歴代火影の前に立つのを恐れ多いと思っているのか、躊躇しながらオレの横に立つ。
初代と二代目は分からないが、三代目と四代目がそんなこと気にするわけないだろうに。
少なくともあの人はニコニコ笑いながら手招きしているだろう。
手を合わせたくてもケーキを抱えてては出来ないので、慌てているサクラを見て吹き出しそうになる。
オレがサクラが抱えるケーキを手に取るとサクラがまた慌てるが、「いいから」と言うと口を尖らせて目を瞑り手を合わせる。
オレはその様子に頬を緩ませて、顔を上げてオブジェを見る。
ーーミナト先生、お誕生日おめでとうございます。
気づいたらオレ31歳ですよ。
おじさんになったね、って笑ってるんじゃないですか?
・・・結局オレは先生の予想通り1人闇の中に閉じ込められて彷徨っていました。
オビトが死んでリンを手にかけて。
そして唯一心の支えだった先生も亡くなって。
もう死んでもいい。
早くみんなに会いたいって死に急いで。
でも三代目がそんなオレを心配して上忍師にしたんですよ。
先生と同じ、生徒を教える立場に。
仲間を大事に出来なかったらオレがって思ってたんですけど、あの3人に出会って変われました。
ナルトとサスケ、そしてサクラ。
特に横にいるサクラには本当に救われた。
こんなオレに先生、先生って慕ってくれて。
そして気づいたらサクラに惹かれて。
先生に言われた通り、ちゃんと捕まえましたよ。
告白した時のサクラの顔が今でも忘れられなくて。
顔を真っ赤にして頷いてくれたときは、本当に嬉しかった。
もう闇の中には戻らないので安心してください。
オレの心を支えてくれるサクラがいるから。
オレはこの手を絶対離さない。
来年の誕生日にまた来ます。
サクラと一緒に。
顔をオブジェからサクラに移すと、もう終わっていたらしくオレを見上げていた。
「終わった?」
「うん」
どちらからともなく手を繋ぎ階段を降りる。
「ねぇ、何話してたの?」
「んー?」
手を繋いだまま覗いてくるサクラに、顔が緩む。
オレは年々顔の距離が近づくサクラの唇に軽く自分のを合わせる。
「来年には隣の子がお嫁さんになってるから楽しみにしてて、かな」
意地悪く笑うと、サクラの顔が真っ赤になってワナワナ震えている。
「もう!カカシ先生何言ってるのよ!!」
「えー?サクラお嫁さんになってくれないの?」
「そ・・・それは、いつかはなりたいなとは・・・」
顔を俯かせ、ゴニョゴニョ呟くサクラ。
ーー本当可愛いなぁ。
「そうだねぇ。いつか一緒になりたいね。身体はもう一緒になってるけど」
そう言うとサクラがチャクラを込めて手を握り潰してくる。
痛い、痛いって言うと、「知らない!」と顔を真っ赤にしてそっぽを向く。
「先生、バカなこと言ってないでさっさとナルトのところに行くわよ!」
「はいはい」
サクラは駆け出してオレの手を引っ張る。
先生の誕生日をお祝いしたあの日。
先生の家に着くと、涙目になったクシナさんが黒焦げになったスポンジを持っていた。
先生は笑ってクシナさんの頭を撫でて、ケーキを買いに行った。
そのケーキは生クリームが甘すぎて食べれたものじゃなくて。
舌を出すオレに2人は大笑いして。
何年経った今でもその光景は忘れられない。
オレが持っているのはあの時のケーキ。
今頃ソワソワしている教え子の元へ。
今まで話せなかった2人のことを話そうじゃないか。
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