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ーーキタ。


「カーカーシーせんせー!!」

ドンドンドアを叩き大声を出す声に、すぐに気配を消す。


布団でぬくぬく過ごしていると近づいてくる3つの気配に嫌な予感がした。

今日は1月1日。元旦。
子供にとって天国、大人にとっては地獄の日だ。


「いないってばよ」と騒がしい少年と「あいつがいないわけないだろ」と生意気な少年の声が聞こえる。

下忍の子供が上忍の本気の居留守に気づくわけもなく、オレはコソコソと玄関から靴を持ち出して抜け出そうと窓を開ける。



ーー任務始めまで隠れて過ごさなきゃな・・・。


そう思って窓を乗り越えて2階から下を見ると、愛くるしい顔でニコニコと笑っている第七班の紅一点が立っていた。
その少女を見た瞬間、一瞬で地面に降りて口を塞いだ。

「んんん〜〜〜!!!」
「サクラ、静かにしてて!!」

暴れる少女を抱えてオレはその場を離れた。



****


「よぉ、カカシ。お前も避難しに来たか」

上忍待機所の窓からサクラを抱えてた部屋に入ると、そこにはアスマと紅が飲み物を持って座っていた。
その他にもイルカ先生やアカデミーの教師たちもいて、目が合うと軽く頭を下げてきた。



何故中忍・上忍たちが仕事休みに待機所に集まっているのかというと。

子供たちが大人からお金をせがる日。
お年玉から逃げているのだ。


今日は正月で通常の玄関が開いていない為、皆が窓から部屋に入ってくる。
中忍でも入るのを躊躇う部屋に下忍が窓から侵入してくることはない。



「なに。サクラちゃんに見つかったの?」

紅が温かいお茶をサクラに渡して、お礼を言ってお茶を飲むサクラの隣に座る。

「3人が部屋に押しかけてきたんだよ。で、窓から抜け出そうとしたらサクラが見張っててさ」


ーーこんなときだけ一致団結してくれちゃって。

ため息をつくオレに、フフンと鼻を鳴らして誇らしげに見てくる。

「オレんとこも部屋にまで来たぞ。こっちはチョウジにいつも金欠にされてんのに正月までやれるか」

アスマは煙を吐き出して項垂れている。

「紅のとこもか?」
「うちはヒナタがいるから部屋までは来なかったけど、赤丸がいるからね。一応避難してるのよ」

1人余裕そうにコーヒーを飲んで足を組んでる。


「いいなぁ・・・うちにも常識のある子がいたら・・・いたっ!」

遠い目をしていると横から思い切り殴られて、その方向を見ると膨れてこちらを睨んでいた。

本当こういうところが子供だよな。




暫く待機所にいると、サクラがつまらなさそうな顔をして窓の外を見ていた。
無理やりオレが連れ込んで、当のオレはアスマたちと次の任務の話をしてる。
時々イルカ先生や他の中忍が話しかけてはいるが、話が終わればまた外を見る。



オレはため息をついてアスマに断りをいれてサクラへと向かう。

「サクラ」

呼ぶと億劫そうにこちらを見る。

「あんみつ、食べに行くか」

そう言うと満面の笑みを浮かべて頷くのを見て、サクラには甘いなぁと苦笑するしかなかった。
アスマや紅に挨拶をするサクラを担いでまた窓から飛び降りる。





「先生!スペシャルあんみつ食べてもいい?」
「あぁ、好きなの食べなさい」

やったー、と店員を呼んで頼むサクラを見ながらお茶を啜る。

「先生、ナルトとサスケくんは良かったの?」
「あぁ、いいのいいの。あいつらの分まで奢ってられないよ」
「私だけ?」
「そう、サクラだけ。内緒だからな」

口元に人差し指を当てると、サクラはニシシと笑って同じように当てる。
そうしている内に店員があんみつを持ってきたので、サクラは嬉しそうに手を合わせて口に運ぶ。

スプーンをオレの方に向けてくるが甘いのは苦手だから遠慮すると、「美味しいのに」とそれをまた自分の口に運ぶ。

ニコニコニコ。
ずっと笑っている彼女の顔を見ているとこっちも嬉しくなる。





「先生、ごちそうさまでした!」
「はいはい。これがお年玉代わりだからな」

はーい、と嬉しそうに返事をすると、どちらからともなく手を繋ぐ。

他愛もない話をしながら歩く。
時折顔を上げてサクラが笑ってくるので、オレも笑う。



そうしていると、むこうから向かってくる気配が2つ。
そして「サクラちゃーん」と遠くから叫ぶ声。


「やばい。サクラ、おいで」
「え」

オレはサクラの腕を引っ張って路地裏に隠れる。
見つからないようにサクラを強く抱きしめて。



「あれ・・・こっちにサクラちゃんの頭が見えたと思ったんだけどな・・・」
「本当に見えたんだろうな、ウスラトンカチ」
「なんだとサスケ!そういうならお前が探せってばよ!!」


目の前で繰り広げられるいつもの口喧嘩。
ーーいつになったらこいつらは仲良くできるんだ。

こんなに近くにいるオレ達に気づかないのはオレが隠密の術を使っているから。




喧嘩をしながら立ち去るあいつらを確認して術を解く。


「ふー・・・危ない危ない。見つかったら何言われるか・・・・・・サクラ?」

ずっと静かにしている腕の中の彼女を見ると、顔を真っ赤にして涙を滲ませていた。

「大丈夫かサクラ?そんなに苦しかったか?」

もしや体調でも悪くしてしまっただろうか、と顔を覗き込むと、サクラは慌てたように体をバタつかせて離れる。


「だ、大丈夫、大丈夫だから!!」
「でもな・・・心配だから家まで送るよ」

そう言ってサクラの腕を取ると



「ゥキャアアーーーー!!」



サクラがいきなり絶叫するのでビックリして手を離す。

「ど、どうしたサクラ」

慌てるオレからジリジリと後ろへと離れていくサクラ。

「な、なんでもない。なんでもないのよ」
「サ・・・」

離れていくサクラへと手を伸ばそうしたその時。


「あーーー!!カカシ先生見つけたっばよ!!」

「・・・げっ」

先程去っていた方向から2人が戻ってきて見つかってしまった。
さっきのサクラの大声を聞きつけてきたのだろう。

「カカシ先生!お年玉ちょうだい!!」
「はーー・・・・・・」

すぐさまナルトに飛びつかれ逃げるタイミングを失う。
目をキラキラさせているナルトを無視してサクラの方を見ると、サスケが声をかけていた。


「サクラ、どうした。さっきの声はなんだ」
「う、ううん!大丈夫よサスケくん」

サクラは普通にサスケと話している。
さっきまでのサクラはなんだったのか。
オレの視線に気づいたサクラと目が合うと、真っ赤な顔をして勢いよく顔を逸らす。


ーー女の子は難しいな・・・。


サクラの反応にこちらを睨むサスケ、胸元でずっと騒いでるナルト、オレと目を合わせないようにするサクラ。


どうしたものか。



「お前ら、お年玉代わりに一楽でラーメン奢ってやるよ」

やったー!!と大喜びするナルトと、鼻を鳴らして近寄ってくるサスケ。
そしてサクラは。


「あ・・・あの、私はいいわ」
「え!どしたのサクラちゃん」

サクラらしからぬ発言にナルトが詰め寄ると、チラッとオレの方を見る。

「さ、さっき先生にあんみつ奢って貰ってお腹いっぱいなの。それに、きっと親がご飯用意してるだろうから」

そっかー、とガッカリするナルトに、サクラは謝ってこの場を離れようとしている。
やはり先程のサクラの行動が心配になる。


「お前ら、先に一楽行っとけ。オレはサクラ送ってくから」
「え!?いい、大丈夫だから!!」

そう言うとまたサクラが挙動不審になる。

「いや、体調悪いのかもしれないし・・・」
「大丈夫!!ほら、元気!それじゃ、またねー!!」



その場で飛び跳ねたサクラは全速力でその場から走り去っていった。



「・・・カカシ、お前サクラに何したんだよ」

勢いよくいなくなったサクラにポカーンとするナルト、そしてオレを睨むサスケ。



「そんなのオレが聞きたいよ・・・」



オレは頭を抱え込み、盛大にため息をついたのだった。

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