このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

年末年始

「ん・・・」

窓辺から聞こえる鳥の声、そして人々のざわつく声に沈んでいた意識が覚醒していく。
目を開けるとカーテンの隙間から溢れる光に、新しい新年を迎えたのだと分かった。
まだ眠たげな頭で横を見ると、そこはもうすでにもぬけの殻だった。

「・・・せんせ?」

寝起きの声で呼んでも返ってこない。
どこに行ったのだろうか、いつもは寝坊助なあの人は。
いや、最近は──

コン、コン

思考を中断するようにドアがノックされ、ゆっくりとドアが開くとともに、空腹を誘う良い匂いも入ってくる。

「あ、おはよう」

エプロンを付けたカカシ先生が私を見てにこっ、と笑う。

「おはよう・・・」
「はは。寝癖、付いてるぞ」

先生は笑いながら腰掛けて跳ねた髪を直してくれる。
そのまま頭の後ろに手を当て、引き寄せてキスをする。

「明けましておめでとう。今年もよろしく」
「あ・・・明けましておめでとうございます!今年もよろしくお願いします!」

先生の新年の挨拶の言葉にそうだったと思い出して慌てて挨拶を返す。
いつもなら自分からなのに、昨日久しぶりに夜更かししたから頭がまだ寝ぼけているらしい。

「ほら、朝ごはん出来てるよ」
「うん」

手を引かれて立ち上がりリビングに入ると、先ほどの良い匂いが部屋の中で立ち込めている。
椅子に座ると自分が用意する和食ではなく、私が好きなオムレツの洋食の朝食だ。
お互い好きな人のご飯を作るのだからおかしくて愛おしくなる。

「ご飯食べたら初詣行くか?」
「うん。ナルトいつ来るか分からないし、出来るだけ人が少ない時間の方がいいから」
「よし、じゃあ片付けしとくから準備しといて」
「はーい」

2人分のお皿を持ってキッチンに行く先生の背中を見て、よいしょと大きくなったお腹を支えながら立ち上がって自分の身支度を整えるべく洗面所へと向かった。



「サクラー、準備できた?」
「ちょっと待ってー」

部屋の外から声がかかり、姿見で自分の姿を確認して、温かいコートを着込んでドアを開ける。
先生は上から下を見て満足そうに頷く。
今までは毎年先生に着物を着付けてもらっていたけど、今年はそれは無し。
体を締め付けないワンピースに厚手のタイツ、そしてふわふわコート。
防寒対策はバッチリだ。

「それじゃ、行きますか」

先生は自然に私の腰に手を回して支えてくれる。
最初は気恥ずかしかったけど慣れとは恐ろしいものだ。

私たちは家を出ていつもの小さな神社に向かう。
すれ違う人は大きい神社に向かっているのか、たくさんの人が前から歩いてくる。
その間も先生は私を守ってくれるように気遣って歩いてくれ、私が疲れた顔をするとすぐに気づいて休めるところに連れて行ってくれる。
なんて素敵な旦那様なのだろう。
近くにあったベンチに座り自動販売機で買ってもらった温かいお茶を飲みながら盗み見ていると、視線に気づいた先生がこちらを見下ろしてくる。

「ん?どうかした?」
「ううん。何でもない」

褒めると調子に乗るので私は頭を横に振って立ち上がる。
そして私たちはいつもより時間をかけて神社に着いた。
やはり早い時間だからか人は少なく、すぐにお賽銭箱の前に付いて、お賽銭を入れて手を合わせる。

──お腹の子が無事に産まれてきますように。それとカカシ先生が怪我をしませんように。

毎年願う隣の人の無事を願うことと、無事に子供が産まれてくることを願って顔を上げると、先生はいつもより長く願っているようだ。
あまり邪魔はしたくなかったが、後ろに人が並んでいたので袖を引っ張る。

「・・・せんせ、人が」
「!あぁ、ごめん」

先生は後ろに並んでる人にも謝って私たちは人並みから外れる。

「真剣にお祈りしてたみたいだけど」
「まぁね。母子ともに無事でありますようにってね。あー、また並んでお願いした方がいいかな・・・」
「神様も忙しいんだから止めてってば・・・」

ほんと心配性なんだから・・・
私は先生の手を引っ張っておみくじの場所まで連れて行った。
私は中吉、カカシ先生は小吉で、あまり良いことが書いてなかったらしくて更に不安を煽ってしまった。
木の枝にくっ付くように結んで、今年も安全に過ごせるように祈って神社を後にした。


それから家に帰り、先生だけ買い物に行ったのでその間、昼寝をすることにした。
本当なら家事でもって思ったけど先生に固く禁止されているのでやることがない。
それに妊娠してから日中も眠くて眠くてしょうがない。
2人で寝れる広さのベッドで左側で眠り、すぐ夢の世界へと落ちていった。












「──ばよ」
「ん・・・」

聞き覚えのある声が聞こえて目を覚ます。
ぼー、とする頭で暫くベッドの上で座っているのお腹からクゥーという音が鳴った。
そういえばまだお昼食べてなかったな、と髪を整えて寝室を出ると、リビングから話し声がする。

「あ、サクラちゃん」

ドアを開けるとそこにはカカシ先生と話していたナルトがいた。

「ナルト・・・早かったわね」
「早いって、もう夕方だよ?」
「え、うそ!」

ナルトに言われて時計を見ると確かにもう17時を過ぎていた。
まさか5時間も寝ているとは・・・
先生が近づいて跳ねていたのか髪を整えてくれる。

「結構寝てたけど体調悪い?」
「ううん。歩いて少し疲れてたみたい」
「そっか。お腹空いたでしょ。今夜はすき焼きだから、出来る前にあんみつ食べときな」
「はーい」
「ナルトは手伝え」
「へーい」

冷蔵庫を開けて先生がお昼に作ったのであろう焼きそばとあんみつの容器が入っていた。
用意してくれてたのに申し訳なかったなぁ、と容器を手に取り開けると、金粉の乗った豪華なあんみつに心が弾む。
それにお願いしていた通りに白玉が多く入っている。
ふふ、と頬を緩ませて鍋の準備をしている2人の後ろを通って椅子に座る。
ここからだとキッチンにいる2人を見ながら食べれるから更にあんみつが美味しく感じられる。

「なぁなぁ、サクラちゃん。オレにもちょーだい」
「いいわよ」

はい、とあんみつを掬って自分のスプーンを口に差し出した時、ナルトの額に勢いよくスプーンが飛んできた。

「ってぇ!!」
「食べるならそれ使え」
「本当カカシせんせってば嫉妬深いってばよ・・・」
「嫁の使ったスプーンを他の男が使おうとしてたら誰でもこうする。サボってないでさっさと手伝え」
「へーい・・・」

ぼやきながらナルトは先生の隣に立って手伝い始める。
やはり好きな人たちが何かをしているのを見ているのは幸せになる。



「はい、お待たせー」
「待ってましたー!お腹ぺこぺこだってばよ!」

ナルトはお皿に卵を割って溢れそうなほどにかき混ぜて、お肉をつけて頬張る。

「ほら、野菜も食べろよー」
「むむ!むむむぅ!」

ナルトが喋れないことをいいことに、先生はナルトのお皿に大量の野菜を乗せていく。
私たちは和気藹々とお喋りをしながら鍋を開けて締めにはうどんも入れて、食べ終えたときにはちょっとお腹が苦しかった。
お腹の子も同じことを思っているのだろうか。

「あー、美味しかった!」
「ナルト、昨日キバたちと年越ししたんでしょ?どんな感じだったのよ」
「えー?普通だってばよ?そば食いに行って帰りに酒買いに行って・・・あ!!」
「へぇ。オレの記憶ではお前はまだ未成年のはずなんだけどねぇ」
「いや、あはは!ちょーと知り合いのお兄さんに会って代わりに買ってきてもらってさー。ほら、無礼講、ぶれいこー!」
「反省しろ」
「って!!」

先生はナルトの頭に重めの拳骨を入れてナルトは頭を抱えて苦しむ。
普段は適当なのにこういうのは厳しいのだ、先生は。
四代目の教え子だったからだろうか?
アスマ先生だったら普通に見逃してるんだろうな。
紅先生は厳しいからキバとシノはすごい怒られそう。

「はー・・・楽しいな。ここにサスケもいたら良かったのに」

ナルトは少し寂しそうに笑うのでそれに釣られる。
今頃黒髪の彼はどこで何をしているのだろうか。
年末年始ぐらい帰ってくると思ったのに。

「ま、便りがないってことは無事って証。明日にでもふらっと帰ってくるでしょ」

ね、と頭を優しく撫でられるので微笑んで頷く。
本当カカシ先生はいつまでも私たちの先生だ。

「──だな。よし!オレってば、もう帰るよ」
「え、もう?もう少しゆっくりしたら良いのに」
「そうしたいんだけどさー、この後ヒナタと初詣の約束してっから。あいつ、来るまで寒い中ずっと待ってそうだし」

あらら、いつの間にそんな約束を。ヒナタもやるわね。

「もう暗いんだからちゃんと家まで送ってやれよ」
「分かってるってばよー!」

じゃ、今年もよろしく!、とだけ言ってナルトは足早に帰っていった。
何年か前までは帰りたくないと言って駄々を捏ねていたのに。
拍子抜けで、私たちは顔を合わせて肩をすくめた。

「年が変わってもナルトはナルトね」
「たく・・・あれで本当に火影になれんのかね」
「そこはカカシ先生が頑張らないとね?ナルトの先生なんだから」
「うわ・・・面倒そうだな・・・ならオレはサクラに癒させてもらおうかなー」
「手!」
「いたっ」

腰に回っていた手がイヤらしくお尻を撫で始めたのでそれを叩き落とす。
先生はその手を摩って恨みがましくこちらを見てくる。

「ちょっとは手加減してほしいんだけど・・・」
「お腹の子に見られるでしょ。少しは自重しなさい」
「サクラぁ・・・」

寂しそうに私に縋ってくる父となる男に、どうしようもないお父さんね、と心の中で我が子に伝えると、同調するようにお腹がポコンと動いた。


7/7ページ