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木ノ葉郵便局に勤み始めて早数年。
上司の嫌味やら客のクレームに心身を減らしながら仕事をしているが、唯一楽しみがある。

ピンポーン

『はーい』

ある部屋のインターホンを鳴らすとスピーカーから可愛らしい声が聞こえて、すぐに玄関のドアが開く。

「あ、こんにちは」

この部屋の住人である彼女はオレと目が合うと翡翠の瞳を細めて可愛らしく微笑む。
オレの担当地区に住む彼女の家に月に数回、荷物を持っていくのがオレの楽しみだ。

「えーと、春野サクラさんで合ってます?」
「はい、大丈夫です」

もう分かっているのにルールなので確認すると、彼女も事情が分かっているからおかしそうに笑いながら答えてくれる。
他の客は素気なく答えて荷物を受け取るのだが、人の良い彼女はこうやって世間話をしてくれる。
聞くと病院で働いているから人の変化に敏感らしい。
容姿が可愛らしく優しい彼女に好意を抱いているのは内緒だ。

「それじゃあここにサインお願いします」
「はーい」

彼女が伝票にサインをしようとした時、冷たい風がオレたちの体を吹き抜けて2人の髪を乱した。
「もう」と彼女は口を尖らせながら髪を整え、桃色の髪を耳に引っ掛けた。
その色っぽさに目を奪われていると、白い首筋に赤いのが付いているのに気づく。
一見虫刺されかなと思うが、それは、明らかに・・・。

「──あの」

彼女の呼ぶ声に首筋から意識を取り戻す。
伝票にはしっかりと名前が書かれていた。

「大丈夫ですか?最近寒暖差があるからもしかして風邪ひいてるんじゃ・・・」
「いやいや、大丈夫ですよ!今日のお昼のこと考えてただけなので!」

心配そうに見てくる彼女にオレは片手で段ボールを持って大袈裟なほど手を振る。
オレの変な言い訳に彼女は可愛らしく笑う。

「ふふ、確かにご飯は大事ですね。でも本当に体調が悪かったらすぐに病院に来てくださいね」
「ありがとうございます・・・」

脳裏で彼女の白衣姿を思い浮かべてしまい、親切心の彼女に悪い気がして段ボールを渡す。

「それじゃあ失礼します」
「ありがとうございました。お仕事頑張ってください」

帽子を脱いで頭を下げると、彼女は微笑んで手を振って見送ってくれた。


アパートの階段を降りて、荷物を積んだ車に近づいて軽く頭をぶつける。
そりゃあんな可愛い人に恋人がいないわけないよなぁ・・・。
はぁ、と大きくため息を吐いて空を見上げると、雲が少ない青空が広がっていた。

「オレも彼女ほし〜〜・・・」



****



「何それ」

サクラが段ボールを抱えて部屋に戻ると、カカシがベッドに背中を預けて床に座り見上げてくる。

「ふふふ・・・『世界のあんみつ取り寄せセット』よ!ずっと楽しみにしてたの!」

サクラは嬉しそうに笑いながら段ボールを開けて中に入っていた箱を見せてくる。
1種類だけではなくいくつか入っているらしく、サクラはどれを食べようか子供のように選んでいる。
そんなサクラを呼ぶと、2個手に持ってカカシの脚の間に座る。

「何か話し声してたけど」
「え?あぁ、うん。届けてくれる人がいつも同じ人だから仲良くなっちゃって。でも今日はちょっと元気がなかったのよね。風邪じゃないって言ってたけど」

大丈夫かしら、と上を向くと、髪を耳にかけているので昨夜首に付けたキスマークが見えやすくなる。
きっとそいつもこれに気づいたのだろう。
サクラは無意識に周りの男を魅了するから困ったものだ。
だからこうやって牽制しないといけない。

「それ今日食べるのか?」

サクラの手から箱を手に取る。
パッケージに描かれたあんみつの写真だけで甘さが伝わってくる。

「どっちにしようか迷ってて。2つ食べたら太るし・・・でも今日は特別に2つ食べようかなぁ」

カカシからあんみつを取り返して、サクラは「へへへっ」と涎を垂らしそうな笑みを浮かべる。
好きなものを見つめるサクラの瞳に嫉妬してしまう。
その瞳を向けていいのはオレだけなのに、と。

「ならその分運動しないとな」
「・・・・・・え?」

カカシの言葉にサクラは嫌な予感にゆっくりと顔を向けると、カカシの瞳が妖しく細まり、サクラの背中に冷や汗が流れ。

サクラの手からあんみつが奪われた。

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