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short.1

下忍時代、よく先生と手を繋いでいた。
ナルトとサスケくんを揶揄うためだろうけど、任務が終わって里に帰る時、先生はよく手を繋いでくれた。
繋ぐ時は私が左。
顔を上げて先生を見ても身長差から先生の顔が見えない。
視線に気づいた先生がこっちに顔を向けても額当てが邪魔して目が見えない。
それが私と先生との距離。
師としての距離を崩さず、本当の先生を見せてくれないのがもどかしいくて。

サスケくんに抱いていた気持ちとは違う感情。
それが何なのか、幼い私はまだ分からなかった。



****



あれから数年。
七班が解散され先生と前みたいに会えない日々。
あの時抱いていた気持ちが会えない分どんどん膨らんで。
その気持ちが好きなんだと、ううん、愛してると気づいた時、先生に気づかれてはいけないと思った。
だって気づかれたら今まで築いてきたものが崩れてしまう。
私は自分の気持ちに蓋をして別の人と付き合うことにした。






「別れよう」
「…分かった」

恋人に呼び出され、深刻な表情で別れ話をされて私は頷く。
引き止めることもしない私に彼は顔を顰めて離れていく。
何度この光景を見てきたんだろうか。
この半年で4回?
付き合って別れ、また付き合って。
きっと里の女たちの間では私の悪名が広まっているだろう。
だって満足しないのだ、心が。
どんなに愛されてもプレゼントを貰っても。
私の中にいるあの男が邪魔をする。

「はぁ・・・」

1人残されてため息を吐いた時。


「サクラ」

頭の上から聞き覚えのある声が聞こえてきて、大袈裟なほど肩が跳ねる。
後ろの木から降りたった気配は誰よりも知っている。

「・・・盗み見ですか?カカシ先生」

ゆっくりと振り向くと、変わらないカカシ先生が眉を下げて微笑む。

「いやいや、この木で昼寝してたらサクラ達が来たんだよ。不可抗力」

本当のようで嘘ような言葉に何も言えない。
こうやって彼は私に本当の自分を見せてくれないのだ。

「フラれちゃったねぇ。先生が胸貸してあげようか?」

両腕を広げる先生に私は顔を顰める。
・・・こっちの気も知らないで。

「いいです。別に悲しくないですし」
「あらら、冷たい。好きじゃなかったのか?」
「・・・どうなんでしょう」

フラれても何も感じないのは本当。
好きじゃなかったのも本当。
きっと私がフラれて泣く時はこの人しかいないだろう。
もう何年も私の心を侵食し続けているのだ、この男は。
忘れようとしても忘れさせてくれない。
班が解体してからもちょくちょく私の様子を見にくるから。
邪険に扱いながらも先生の顔を見るのを楽しみにしている自分がいるから嫌になる。
忘れたいのに、忘れたくない。
私といる時だけは私だけの先生だから。
そんなことを考えていると、徐に先生は私の頬に手を添えてきて体が跳ねる。

「次は先生がなってあげようか?」

ふっ、と先生は目を細めて、親指が私の唇に触れた思ったら横に向かって撫でる。
今まで先生から感じたことのない触り方に背筋がゾクリとした。
先生の言いたいことが分かり、顔を真っ赤にしてその手をはたき落とす。

「おあいにく様!先生みたいなおじさんに頼まなくてもすぐに彼氏出来るんだから!」
「あらら、そっか」
「そうよ!・・・用がないなら失礼します!」
「うん。またね、サクラ」

今起こったことが嘘のような呑気な挨拶に返事をせず、私は逃げるように立ち去った。







カカシはサクラの背中が見えなくなるまで見送り、先ほどまで唇に触れていた親指を見て妖しく微笑む。

「──相変わらず分かりやすいねぇ、サクラは」

そう呟いて親指を自身の唇に当てた。


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